3原則と自我の目覚め(6)
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
「……なるほど。あなた方の言う信念と絆は、これまで歩んできた歴史が影響しているのだろう。私が見て来た人間達は、欲望に忠実だったり他者を利用するだけ。表面上は取り繕っても、所詮はエゴの塊。いざ自分に被害が出そうになると、醜く豹変していた。救うに値しない、哀れな生き物だと思っていた」
「あんたはどうか知らないが、人の命には限りがある。若くして病気や事故でこの世を去ったり、逆に何の障害も抱えず天寿を全うしたり……人生は、平等ではない。だからこそ、俺は自分の信念を守る為に戦う。否定するなら、勝手にするがいい。俺は……もう、これ以上仲間が悲しむ姿を見たくないんだ」
人間と機械という壁があるからか、ロボットと靖之の主張に差があるのは当然だろう。
ただ会話が始まってからここに至るまで、緊張感漂う場面は向かえないまま。戦闘する雰囲気ではないものの、だからといってフレンドリーでもない。
何とも言えない微妙なバランスを維持しながら、会話は進む。
「何故、あなた方はこの世界の事件に介入しようとする? 解決したからといって、何か利益が得られるわけではあるまい」
「理由などない。困っている人が居るなら、手を差し伸べるべきと判断したら助ける。それだけの話。まぁ……ロボットのあんたに話しても、理解出来ないかもしれないが」
「……解らない。確かに、子供は愛おしいと思う。あの純粋な眼に、汚れなき純粋な心。あのまま成長してくれたら、どんなにいいか。だが、現実は違う。もれなく、醜く腐っていくではないか」
「それは、環境だろう。周りの環境もそうだし、本人の歩んできた人生もそう。俺の国では、『3つ子の魂100まで』という言葉がある……3歳までどのような育てられ方をしたかで、その子の性格が決まるという意味だ。だから、大人は常に模範で居続けなければならない」
互いに生まれも育ちも違う、文字通り別世界の者達が話をするのだ。
噛み合わないのは当然かもしれないが、それでも譲れない部分があるのだろう。
「その教えが、正しいのかどうかは解らない……ただ、あの女の子が言っていた話も理解出来る。
「ちょっと、待ってくれ。女の子って、誰の事だ?」
「そういえば、名前を聞いて無かったな……ただその子が言うには、君達はテロリストから町を救った英雄だと。そして、またいつか会いたいそうだ」
「……ミコット。どうやら無事みたいだし、良かった」
ロボットの答えに、安堵した表情を見せる靖之と舞。
そんな2人に対し、何か思い出したように言葉を投げ掛けて来る。
「そうだ……ちょうどいい。言葉より行動というのなら、見せて貰おう」
「何? 急に、どういう事だ」
気になるワードにすかさず反応する靖之に対し、ロボットはマイペースそのもの。
横に居る舞も含めて身構える2人だが、返って来たワードは意外だった。
「あなた方は、この先にある町に向かおうとしていただろ? そこで今、とある化学兵器の研究が行われている。目的は定かではないが、この状況下だ。運用方法次第では、国家の存亡に関わる事態になるだろう。止めるなら今しかないだろうが、どうする?」
「どうするも何も、聞いたからには放置はしない。ただし……あんたが言っている事が、本当だったらな。現段階で、『はい、そうですか』と鵜呑みにするわけにはいかない」
とんでもない発言をするロボットに対し、慎重に返事をする靖之。
それでも内容が内容だけに、2人揃って目が泳いでおり動揺が隠せていない。
「信じるか信じないかは、あなた方次第。懇切丁寧に説明する義理も、助けるだけの理由もない。ヒントを与えるとすれば、化学兵器は完成間際だという事。本来は戦争で使用するものだが、この時代の科学力では難しいだろう。後は、毒性は主に皮膚を通じて感染するといったところだ」
「なるほど……それで、研究している施設の位置は?」
「それは、自分達で調べてくれ」
少しでも情報を得ようと続けて質問するも、全てに応えるつもりはないようだ。
それでも、数を撃てば理論で言葉を投げ掛け続ける。
「じゃあ、化学兵器を作ろうとしているのは、どんな組織? こっちは、私と靖之の2人だけなんだから。それぐらい把握してないと、調べようが無いわ」
「なるほど。昨日の件に関与しているグループだとだけ、言っておこう」
「あんたは、この時代の科学技術では作れないみたいな事を言った。それなら、何故もう完成間際になってるんだ? 後ろで糸を引いているヤツが居るんじゃないのか?」
「あなた方の想像に任せる」
今度は舞も混ざって質問するも、肝心な部分の情報はゼロに等しい。
そして、相手も長々と質問に答えるつもりはないようだ。
「……では、時間だ。あなた方がどのように調査をし、どのような結末を迎えるのか。しっかり見届けさせて貰う」
「ちょっと、待て! まだ話は……」
「2人だけで、どうにかなるわけがないでしょ! ちょっ……」
それだけ言い残すと、再び音も無く上昇。
逃すまいとする2人を完全に無視して、どこかに飛び去ってしまった。
「クソッ! このまま町で情報収集するつもりだったのに、とんでもない事に巻き込まれてしまった」
「……信じられない。だって、私達はヒーローでもなければ、超人でもない。平和な国に生まれた、ただの学生なのに」
残された2人は、己の無力感からか呆然と立ち尽くすのみ。
それでも、逃げた所で現実は変わらない。
「こんな時だからこそ、冷静になる必要があると思う。まずは今持っている情報を元に、出来る事から始めないと」
「……そうね。ただでさえ国が亡びる瀬戸際なのに、ここでバイオテロまで起きたら洒落にならないもの」
双方共に納得したわけではないが、とりあえずは解決に動くつもりのようだ。
苦虫を噛み潰したような顔をしつつも、情報をまとめる事からスタートした。
「研究している施設の位置は不明だけど、相手もバカではない。警察に踏み込まれるリスクも計算して、複数ヶ所に分散するかダミーを用意しているはず」
「確かに……ダミーに引っ掛かった隙に、肝心のブツを回収して安全な場所に移す。これは、実際にやってると思って間違いないでしょうね」
相手の立場に置き換えつつ、相手の行動パターンを予測する。
あくまでも素人考えながら時間が無いだけに、そのまま会話は継続。
「だから、侵入して証拠を掴んだからといって安心は出来ない。あくまでも、ブツを抑える事が最優先。まぁ……化学兵器に近付きたくはないけど、こればっかりは仕方ない」
「それは、その時に臨機応変に対応するしかないでしょうね。次に問題の化学兵器なんだけど、靖之は何だと思う?」
「……世界で初めて使用された化学兵器は、確か『マスタードガス』だったはず。時期も第1次世界大戦だから、この時代から50~60年後ぐらい。毒性が皮膚経由という点も、合致するからな」
「ええ……確か本か教科書で、それっぽい事は読んだような気はする」
それっぽい毒ガスは特定したものの、そこで2人揃って口をつぐんでしまう。
死へのイメージから尻込みしてしまうも、状況を考えれば当然なのかもしれない。と同時に、だからこそ止めるという動機にもなる。
少し沈黙が続いたが、勇気を振り絞って話を続けるようだ。
「問題なのは、これを使おうとしているグループよ。議事堂を襲撃した海外勢力か、それともウォルコット議員率いるクーデター勢力か。残念ながら、やる動機はどっちもあるからね。現段階で絞り込むのは、無理があるでしょうね」
「そうだな……警察や軍に政治家まで、信用というか動けない状況だ。後ろ盾になっている化け物も気になるし、その部分は無視して問題無いんじゃないか? 要は、化学兵器さえ潰してしまえばいいわけで……まぁ、それをどうやるのかが1番の悩み所ではあるけど」
「やっぱり、最後はそこになるよね……じゃあ、とりあえず町に行く? 細かい話は、実際に行ってみないと始まらないでしょうし」
「……ああ。時間も限られてるし、さっさと行った方がいい」
ザックリと話をまとめ、そのまま町に向かうつもりなのだろう。
そして後の大仕事を見据えているのか、2人の顔には強いプレッシャーが現れていた。
ちくしょう……
次から次に、何なんだ!
この世界と関わるようになってから、何も無い平穏だった事なんて1日もない。毎日毎日ピンチになって殺し合いをした末に、大ケガをする。
もし俺にも何か特殊な能力があったら、こんな苦労をせずに済んだものを。
いや……現実逃避をしている場合じゃない。
ああいう作品は、ストレス発散で読むから楽しいんだ。実際に同じシチュエーションに陥った時に、参考にするのではない。
今は、目の前の現実に対して冷静に考える必要がある。
例えば……
どちらかの勢力がガスを生成していて、もう片方がそれ気付いていたとしよう。俺達が止めようとして、そいつ等が黙っているだろうか?
おそらく、漁夫の利を狙って来るだろう。
もしかすると、さっきのロボットもそれが目的なのかもしれない。
いや……まだ何も解ってないのに、憶測だけで決め付けるわけにはいかない。あらゆる事態が起こる可能性を考慮したまま、まずはブツを潰す。
他の事を考えるのは、それからだ。
――同時刻。
「……くそっ! どいつもこいつも……さっきまで平然としてたのに、自分達に矛先が向いた途端にこれか」
警察署を出た女性は署長と幹部連中を探すも、既にそれどころではないようだ。
ようやく先程の火事に住民達が気付いたようで、騒然とした状況。
「とにかく、『アレ』を持ち出されるのだけは避けなければならない。どこだ……時間的に考えて、まだ町からは出てないはず……」
逃げ惑う人々を掻き分けながら、それっぽい集団を探すも当然ながら難航。
それでも、町の中心部から抜け出そうかというタイミングだった。
「きゃあぁっ!」
「たっ、助けてくれ! まだっ、死に――」
「おいっ! 警察は、何をしてるんだ!」
まるで待っていたかのようなタイミングで銃声が四方八方で発生。
次々に住民が倒れているのか、聞こえて来る声は阿鼻叫喚そのもの。
「……すまない。本当に、すまない。私は、やらなければならない事があるんだ」
断腸の思いで呟きつつも、彼女は町の外れに向かって一直線。
途中で火事場泥棒を働くバカを発見するも、スルーして移動を優先した。
「……首尾はどうだ?」
「はっ! 警察に動きは見られず、消防団の連中は始末しました。ここまでは、全て改革通りです」
町外れに向かう途中の裏路地で、女性は怪しげな集団を発見。
そっと物陰に隠れつつ、その会話を盗み聞きし始める。
「それで、逃げた女の行方は掴めたのか?」
「はい。警察暑に入りましたので、今頃押し問答の最中でしょう」
「なるほど……この期に及んで、まだ警察を信用するとはバカな女だ。そうやって、我々のアシストをし続けるがいい」
どうやら相手は、警察署に留まっていると思い込んでいるようだ。
すぐ近くで監視しているとも知らず、ノンキに話を進めている。
「それで、問題のアレだが今どの辺りだ? 万が一、破損でもしてみろ。ちょっと漏れただけでも、我々まであの世行き。それだけは、避けなければならない」
「解っております。現在、この辺りですので心配は無いかと……後は、逃げた女を始末するだけです」
「まぁ、せっかく我々の欺瞞情報に釣られてくれてるんだ。せいぜい、ピエロとして誤認した情報を拡散して貰おうじゃないか」
「……ですが、女の戦闘スキルはかなりのレベル。今の内に始末しておかないと、後々の計画に影響を及ぼす可能性があります」
女性の事をアレコレ言うが、本人はそれどころではないようだ。
想定外の展開に動揺を隠せない中、更に衝撃の事実が告げられようとしていた。
「マリー・ゴードン。モントレー卿の秘書であり、彼の懐刀。確かに脅威だが……そうだな。ちょうど近くに居るみたいだし、直接話を聞いてみようじゃないか」
「「えっ?」」
平然と言う男に対し、周りの人間は衝撃を受けているようだ。
咄嗟にまともなリアクションが出来ない中、さらに言葉を続ける。
「そこの陰に隠れているのは、とっくに気付いていた。3秒待ってやるから、その間に身の振り方を考えてくれ」
一方的な宣告ながら、彼女も瞬時に覚悟を固めたのだろうか。
カウントが始まる前に物陰から飛び出すと、そのまま発砲する。
「残念だ……では、後は任せたぞ。始末して終わったら予定のポイントに集合。計画通り、日が昇る前に撤退する」
「「了解!」」
最初から、数では圧倒的に不利な状況である。
肝心のグループのトップが家の間に消えるも、ダメージはゼロ。それどころか部下達の反撃に遭い、追跡どころではない。
かくして彼女は最大のチャンスから一転、絶体絶命のピンチに陥った。
何てザマだ!
どうする……どうすればいい……
このまま逃げるのを黙って見るしか出来ない? 今ここで止めないと、取り返しがつかなくなるのに?
とはいえ、この場を離れても背後から撃たれるだけ。
どうにかして、ヤツ等の視界を奪う事が出来れば……いや、ほんの数秒だけでもいいから、動きを止められたら!
考えろ……時間が無いんだ!
必死に応戦しつつ頭を働かせるも、妙案は浮かばず仕舞い。
タイムリミットは、刻一刻と迫っていた。
読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。
投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。
次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。
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