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夢国冒険記  作者: 固豆腐
38/70

3原則と自我の目覚め(5)

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

「これはっ……いかん! 他の部屋の捜索など、どうでもいい。一刻も早く、この事実を伝えなくてはっ!」


 復元した書類に目を通していた女性だが、途中で内容の重要度に気付いたのだろう。

 慌てて残りの物もかき集めると、そのまま家からの脱出を試みる。


「ここで、止めなければ! モントレー卿は、身動きが取れない……もう、私1人でやるしかない」


 ダッシュで入口に向かいつつ、自分が取るべき行動を頭の中で反芻。

 視界に壊れかけのドアを視認するも、そのタイミングで異変が発生する。


「ちぃ……建物ごと、証拠を消すつもりか! そうはさせない」


 玄関脇の窓が割れたかと思うと、ガラスが割れるような音と共に火の手が上がった。

 1つなら自力で消火可能な規模ながら、3~5個同時に使用したのだろう。10秒もすると、手の付けられない規模にまで拡大。

 女性は玄関からの脱出を諦めると、そのままダッシュで裏口に向かった。


「この事実を知っているのは、私しか居ないんだ……取り返しのつかない事態を防ぐ為にも、こんな所で死ぬわけにはいかない」


 間取りを把握してないので完全に勘ではあるが、構造が単純だったのだろう。

 通路を直進しているとそれっぽい扉が見えたので、問答無用で蹴破る女性。


「ビンゴだ! 後は、火を付けたヤツ等を振り切るだけ。とりあえず、今は警察だ」


 難なく屋外に脱出し、後は目的地に向かうだけ。

 そのまま警察署に向かおうとするも、相手もバカではない。


「いたぞ……こっちだ。早く来てくれ!」

「我々の事は嗅ぎ回っているヤツが居るのは知ってたが、ソイツで間違いないはずだ!」

「おいっ! 絶対に逃がすなよ? ここで、確実に仕留めろ!」


 火を放った犯人達の1人に見つかったらしく、すぐに増援を呼ばれてしまう。

 ただ、女性としては想定の範囲内なのだろうか。隣の家の陰に隠れつつ、銃のチェックを開始。

 応戦する準備が整ったタイミングで、相手が先に発砲して来た。


「相手は、そこに隠れている1人だけのようだ!」

「解った……お前はそこでソイツの足止めをして、俺達が行くまでの時間稼ぎをしろ」

「了解! ただ、早く来てくれ……俺1人だけじゃ、いつまでも足止めしておくのは不可能だからな」

「解っている。すぐに向かうから、それまで足止めしててくれ」

「出来るだけ、早く頼むぞ」


 応援を呼びつつも、焦っているのか銃の狙いは甘目ではある。

 それでも、流れ弾が当たらないとも限らない。相手の銃撃が止むタイミングを慎重に見計らい、応戦。

 すぐに直撃弾とはならないまでも、着実にダメージを与えているのだろう。


「ここから1番近い警察関連の建物は、確か大通りのはず……仲間が来る前にこいつを排除すれば、問題無いはず」


 頭の中でザックリ計画を立てると、今度は正確に狙い澄ました射撃にシフト。

 2~3発発砲すると直撃したらしく、その場で倒れたのを確認した。後はそのまま逃げるだけだが、相手も始末しようと必死である。

 どうやら応援が1人現れたのか、違う場所から銃撃が加えられた。


「さすがに、これ以上足止めするわけにはいかない……それに、これだけ派手に家が燃えてるのに何の騒ぎにもならないとは。危機意識が無いのか、それとも自分には関係が無いから無関心なだけか……どちらにせよ、救いがたいバカ共だ」


 窓から火が噴いているのを見て、呆れたように首を横に振る女性。

 とはいえ、遮蔽物に使っていたレンガも限界寸前の状況である。このまま持久戦を続けるのは、不利と判断したらしい。

 銃を撃って来ている相手の位置を素早く特定すると、ヘッドショットを狙って発砲した。


「……よしっ! これで、後は警察に駆け込むだけ」


 キレイに頭を撃ち抜いたのを見て、そのまま一気に脱出。

 完璧な動きかと思われたが、今度は近くで何かが割れる音が発生した。


「クソッ! 意地でも、ここから逃がさないつもりか……とはいえ、これ以上貴様等に付き合うつもりはない」


 先程と同じように突然炎が発生するも、ここは屋外であり周囲の家もレンガ造りである。

 燃え広がる前に突破すると、そのまま目的地を目指して走り去った。


 ――同時刻。


「コイツ等……周りにお構いなしに攻撃し合ってるから、迂闊に逃げられん」

「……本当。逃げる以前に、これじゃ目が離せないだけじゃない」


 化け物同士の戦いの影響で、既に周囲の風景は劇的に変化。

 生えていた木はなぎ倒され、地面には多数の大穴が開いていた。


「っていうか、これはどっちが優勢なんだ……」

「……さぁ。でも、どっちが勝っても残るのは化け物なんだから。八方塞になる前に、逃げる方法を考えないと」


 真正面から攻撃し合う化け物達を見つつ、焦りを隠せない2人。

 とはいえ、危機感だけは正常に働いているのだろう。どうにか逃げる機会を窺うも、そのタイミングが掴めないのだ。

 そうこうしている内に、両者の均衡は崩れようとしていた。


「……っ! さすがに、『狂戦士』相手に長期戦を挑むのは分が悪い。それじゃなくても、先客が居るからな。多少のリスクは、仕方ない。一気に、勝負をつけさせてもらう」

「その2人には、私も用があるからな。そちらが、全力で来るなら私もそれに応えるのみ。誰にも、邪魔はさせない」


 両者の見解が短期決戦で一致した所で、それぞれがいきなり変身。

 鎧の化け物は各パーツがバラバラになり、全身から青白いオーラを纏った姿に。ロボットも、クモのような形状に変化した。

 そして、間髪入れずに真正面から激突する。


「……やはり、貴様は作られた機械に過ぎない。右に躱す事は、予想済みよ!」


 初撃の剣の攻撃を回避した次の瞬間、すかさずそのスペースに逆側の腕を飛ばした。

 さすがに反応が遅れたのか、大きな金属音と共に顔面にヒットする。


「そう……僅かに、力が弱かったからな。剣の1振りがダミーなのは、承知していた。そして、わざと攻撃を受けたのだ」


 完璧に捉えたかに思われたが、ロボットにとっては想定の範囲内だったらしい。

 それを裏付けるかのように、全身が淡い赤色に発光。同時に体に黒い謎の文字が浮き出るに至り、相手も意図を感じ取ったのだろう。

 慌てて距離を取ろうとするも、既に遅かったようだ。


「焦って、勝負を急いだのが敗因……恨むなら、感情をコントロール出来なかった未熟さを恨め」

「たっ……たかが、機械の分際で! 覚えてろよ……この借りは、いつか必ず――」


 鎧の化け物は恨み節を垂れ流すも、最後まで言う前にロボットの攻撃が炸裂。

 目も開けていられない閃光が発生すると共に、巨大な衝撃波が発生。靖之と舞を巻き添えにし、周囲の木々の残骸を吹き飛ばした。

 後に残ったのは、元の卵状の姿になった化け物と地面に出来た巨大なクレーターのみ。


「……っ! げほっ! げほっ、げほっ……舞は大丈夫か?」

「えっ、ええ……どうにか大丈夫」


 吹っ飛ばされた2人も、目立った外傷はないらしい。

 ヨロヨロした足取りで立ち上がるも、周りは先程の爆発の影響で木片が散乱。土煙自体はほぼないが、危険な状況である事に変わりは無い。

 移動しようにも、どこに化け物が居るか解らないのだから。


「とりあえず、まずは町に行こう。何をするにも、まずは移動しないと始まらない」

「森を徘徊して鉢合わせするのだけは、避けたいからね。あの化け物達に、途中で出くわさない事を祈るだけだわ」


 2人揃って、町に向かう事で一致。

 善は急げという事で、そのまま行動に移った。


 アイツ等は知り合いみたいだが、どういう関係なんだ?

 いや……確かに、俺達に直接関係ない事ではある。それでも、甲冑を着たヤツが言っていた評議会という単語。

 向こうの世界の話だが、もしかしてメデューサや妖精モドキもメンバーの可能性がある。

 ただでさえ、アイツ等の世界の情報は手に入らないんだ。覚えている内に、何かにメモしておいた方がいいんじゃないか?

 まぁ、それはいつでも出来る。

 今は町に行って、情報を集めるのが先だ。議事堂の続報も気になるし、そもそもモントレー卿は?

 襲撃犯もそうだし、クーデターを起こした議員の動向も気になる。

 頼むから、アイツ等に出くわしませんように……


 靖之は口には出さないまでも、内心ではかなり緊張しているのだろう。

 心臓の鼓動が早くなるのを感じつつ、舞と共に町を目指した。


 それでも、10分ぐらいは何の異変も無く順調に移動。

 木々の間から、町の灯りが漏れ見え始めた頃だった。


「……町を目指している所悪いが、私はあなた方には大きな貸しがあるはず。いや、危害を与えるつもりはない。質問を幾つかするだけだ」


 頭上から聞き覚えのある声が聞こえ、反射的に足が止まる2人。

 これまで苦労して移動した上に、目的地は目と鼻の距離である。それが無駄になると考えたのか、2人揃って顔色は最悪。

 目の前に降りて来た卵状の物体を、虚ろな目で見詰める事しか出来ない。


「……出で立ちといい、その行動原理。あの女の子が話していた内容と、完全に一致している……間違いなく、この2人だ」


 何やら勝手に満足すると、興味深そうに2人の周囲をぐるりと回って観察。

 いつ攻撃されるか解らず身構える当人達に、そのまま話を振って来る。


「私は、敵対者を抹殺する為に造られた人形……故に、知りたいのだ。己の損得などではない、行動原理を。あなた方に聞けば、その答えが出るのかもしれない」


 ロボットは真剣そのものだが、靖之達にとっては話が見えて来ないらしい。

 肩透かしを食らって顔を見合わせる人間達に向かって、勝手に話を進め始めた。


「いや……私も、ノンキに世間話をするつもりはない。単刀直入に聞こう……」


 靖之達の返事も待たない、一方的な宣言。

 拒否権のない会話は、こうして始まった。


 ――その頃、警察署を目指していた女性はというと。


「……だから、あなた方では話にならない。署長か、それに似た地位の人間に変わって欲しい」

「申し訳ありませんが、署長を始め、幹部は昨日の件で席を外していまして……」


 目的地に到着したのはいいが、受付で押し問答を展開。

 額から汗を滲ませる担当者に、女性は同じフレーズを投げ掛けていた。そして一向に進展を見せないだけに、苛立ちは募り続ける。

 まさに暖簾に腕押しの状態に痺れを切らしたのか、今度は内容を変えてみるようだ。


「あなた方だって、火事の件は知ってるはずでしょう? 放火犯は、議事堂の事件の関係者なのは明白。証拠なら、ここにある。このままでは、取り返しのつかない事になるかもしれない」

「ですから、現在幹部が不在でして……ここは日を改めて、朝になってからお越し頂くという事でどうでしょう?」


 どうにか持ち帰った紙片を机に叩き付けるも、判で押した返事を繰り返すだけ。

 これには、さすがに堪忍袋の緒が切れたらしい。


「もういい! 直接会って話をするから、署長を始め幹部達がどこに居るのか教えるんだ。もちろん、あなた方の不利益になるような事は言わないつもりだから」

「……申し訳ありませんが、それは規則で教えられません」


 彼女としては、限界まで譲歩した結果がコレである。

 もはやまともに対応する気が無いと判断し、最後通告に切り替える。


「非常事態だと認識していないようなので、最後に警告する。これ以上協力を拒むのなら、議会に働きかけるしかない。その結果、あなた方に何が起ころうとも私は関与しない。しかし、居場所を教えるなら約束は守る」


 ほぼ脅しと同義だが、それだけに効果はあったのだろう。

 受付にいる3人の担当官は、それぞれ無言でアイコンタクト。暫しの沈黙の後、遂に観念したようだ。

 その中の1人が代表して、重い口を開いた。


「……署長は本来なら勤務中ですが、愛人の家に行って留守です。幹部の方々も、建築関係者の接待を受けてどこかで飲んでいる最中かと」


 申し訳なさそうに告げるが、当の女性は話の内容に衝撃を受けて無言のまま。

 これだけでも大きなスキャンダルだが、更なる追い打ちが掛けられる。


「それから消防団の連中ですが、ヤツ等もこの時間は酒を飲んでる最中。出動は要請していますが、いつ現場に到着するか解らない状況です」

「……えっ? 酒って、非番の人間だけじゃなく?」

「ええ……元々、この町に消防署はありませんので。正直に申し上げて、まともな装備も無いのが現状です」

「……信じられん」


 女性は目眩を感じつつも、気合でフォロー。

 すぐに気持ちを切り替えると、目の前の人間達に対して指示を出す。


「……止むを得ない。今すぐ、手の空いている警官達を招集。署長と幹部連中に連絡を入れ、残った人間はそのまま火事に対応して欲しい。拒否するのは勝手だが、後で事態を悪化させた戦犯扱いされても知らんからな」

「えっ、あっ、はい……それで、あなたは?」


 一方的に言葉を投げつけそのまま外に出ようとする女性を、慌てて呼び止める警官。

 両者に明確な温度差がある中、走りながら答えるしかなかった。


「今この瞬間も、放火犯が銃を片手に町を徘徊している。次に何かをしでかす前に、出来る事をやるだけだ。そっちは、君達に任せたからな!」

「りょっ、了解しました」


 結局、最後まで意思疎通が出来ないまま会話は終了。

 今後に不安しか残らない中、彼女の孤独な戦いも先が見えないでいた。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。

 次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。

 細かい情報は、ツイッターでご確認下さい。

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