3原則と自我の目覚め(4)
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
「なるほど……その、異国から来たという2人組。どんな方なのか、実際に会ってみたかったですね」
「次の日には、手紙だけ残してどこかに行っちゃってたんだけどね……今頃、どこで何をしてるんだろう? また、会いたいなぁ……」
ロボットと少女は、まだ話を続けていた。
どこか寂しげな表情を見せる彼女を横目に、何か感じるのだろうか。
そういう事か……
この子の話から考えて、その2人は別の世界の住民だろう。何かしらの原因でこの世界にやって来たと推測出来るが、気になるのは行動理由だ。
彼らにとって、ここは縁も所縁も無い世界。
元の生活を取り戻すのが目的だとしても、揉め事に首を突っ込む必要はないはず。
それにも関わらず、2人は少女の為に自らの命を懸けて戦った。殺されるリスクがあったにも関わらず……
何故、そのような行動に出たのか?
助けた事で、何か得られるというのか?
信念を守る事に、どれだけの価値がある?
そもそも、身内でもない赤の他人の為に死ぬ覚悟で戦う神経が解らない。
いや……守りたい何かの為に戦う『覚悟』こそが、人間の美しさなのではないか。力も弱く脆弱な肉体を持ちながらも、違う強みを持った存在。
彼らに会えば、その答えが解るかもしれない。
少女から聞いた話を分析し、その人間2人に興味が出てきたようだ。
ただ彼女は、別の捉え方をしたらしい。
「おじさん、大丈夫? 何か悩んでる事があるんだったら、私で良ければ話を聞くけど?」
「いや……心配してくれて、ありがとう。ただ、あなたが話していた人達の事が気になっただけだから」
心配されたのは想定外だろうが、しっかりと礼を口にするロボット。
そのまま立ち去ろうとするが、このタイミングで異変が発生する。
「……あの光は、間違いない」
「えっ? 急にどうしたの?」
一瞬だけ空に走った光の筋に、何かを悟ったような口ぶりになるロボット。
女の子は何が起こったのか理解していないようだが、それどころではないのだろう。
「すまない……私は、行かなければならない」
「へぇ……私にはよく解らないけど、お仕事なんでしょう? 頑張ってね」
「ええ、頑張って来るよ」
「じゃあね~」
手を振り笑顔で見送る彼女に、笑顔で答えるロボット。
そのまま自然な足取りに路地に入ると、すかさずフォルムチェンジ。元の姿に戻ると、空中に浮遊。
光の筋が発生した現場に向かい、飛び去ってしまった。
――同時刻。
「……よしっ! ここは、どうやら当たりみたいだ」
玄関の扉を蹴破り中の確認するなり、その女性は確信したようだ。
先程は不審者に逃げられただけに、今回こそはという意気込みがあったのだろう。周囲を警戒しつつ、まずは家屋の中に侵入。
そして人の気配が無いのを確認すると、奥に向かって前進し始めた。
ガラの悪そうなよそ者が溜まっていたみたいだが、ビンゴだ……
まずは、トラバサミと吊り上げ式のトラップお出迎え。普通の民家のような内装だが、これもカモフラージュ。
もしかすると、隠し部屋の1つぐらいはあるかもしれない。
でもまぁ、細かい部分の捜査は警察の仕事。今やるべき事は、見える範囲の捜索を済ませる事だ。
変にこれも警察に任せたら、証拠を台無しにしかねない。
回収出来る物は、今日の内に私が持って帰らないと……
女性なりにアレコレ考えている間に、ドアが並んだエリアに到着。
警戒を強めつつも、今更引ける状況でもない。銃を手に持ち、覚悟を固めて1番手前側の扉に手を掛けた。
そして、開けると同時に中の様子を確認。
人の姿と気配も無いので、そのまま中に侵入する。
「……キッチンか。どうせロクな物も無いだろうし、ここはスルーでいいか?」
2~3歩進んだだけで、露骨に白けた声になる女性。
まだ部屋もあるだけに、早々に見切りを付けて反対側の部屋に移動する。
「……トイレとバスルームとか、どうでもいい。次だ、次……」
開けるなり吐き捨てるように言うと、次の部屋に移動。
今度は、躊躇する事無くドアを開けた。
「一丁前に、応接室かよ。全く……そんなのは、どうでもいい」
こちらも外れと判明するや、すぐにUターン。
流れるように、次の部屋に移動した。
「……ぐっ! 何て臭いだ……ここで、何をしてたんだ? とはいえ、明らかに以上な事に変わりは無い。無駄かも知らんけど、一応調べてみるか」
ドアを開けるなり異臭が鼻を突くも、逆に怪しいと判断したのだろう。
吐きそうになる腐敗臭を我慢しつつ、そのまま室内に入った。
棚にあるのは、様々な形状のガラス容器だけ……
何か実験をしてたのか? 得体の知れない液体が残ってるけど、さすがに持って帰る勇気は無い。
それに、この腐ったカエルの死体は何だ?
シンクに捨ててるけど、全部で何匹……いや、用が済んだんだったら早く捨てればいいのに。
後は、これは顕微鏡か?
それぐらいか……
あっ! 机横の暖炉に、紙片があるな。
証拠を消そうと燃やしたんだろうけど、よほど焦ったか。この大きさなら期待出来るし、まずはそこから始めよう。
まだ、他にも部屋が残ってるんだ。
1つの部屋に、時間を懸けていられない。
室内をザックリ観察し、紙片に注目した女性。
ブツを暖炉から回収すると、机の上に置いて薬品をかけた。
「結果が出るまで、まだ少し時間がある……正直触りたくないけど、それを嫌がってても先に進めない……やるしかない」
眉間にシワを寄せて大きな溜息をしつつも、両頬を叩いて気合を注入。
そしてシンクの前に移動すると、カエルの死体に手を伸ばした。
うっわっ!
完全に腐って、既にブヨブヨになってる……ウジが湧いてないのが、不思議なレベルの汚物そのもの。
いっその事、見なかった事にするか?
いや……机のペン立てに、メスがあったはず。
とりあえず、1番マシなのを選んで解剖してみよう。それで何も得られなかったら、紙の方に集中すればいい。
そうだ、そうしよう!
イライラするのを必死に堪え、意を決して死体選びを決行。
数分無言で手を動かし、比較的マシな個体を探し出す事に成功した。
「……皮膚の張りもあるし、臭いも殆ど無いと思う。これから、中が悲惨なのだけは避けられたはず……本当に、頼むぞ? こんな苦行をする為に、ここに来たわけじゃないんだからな……」
祈るような気持ちで、まずは死体の四肢をメスで突き刺して机の空いたスペースに固定。
完全に固定した上で、腹にメスを入れた。
んっ?
腐って、グチャグチャになってないのはいい。でも、これはそれどころじゃないというか……一体どうなってるんだ?
いや、確かに私は解剖の専門家ではない。
でも、これが普通の状態じゃないのは解る。
肺・心臓・肝臓とか内臓全部が、塩が吹いたみたいになってシワシワに乾燥。血管も、ちょっと触っただけでボロボロに崩れる。
それだけじゃない……
腐って変色してるのかと思ったけど、こんなに全体的に白くなってるからな。正直、見る物全部が変に見えて来た。
ちょっと、これは私の手に負えない……
次々に異常な事態を目の当たりにし、完全に思考がストップ。
同時に、それ以上考えるのを放棄したのだろう。固定しているカエルの死体を回収し、そのままシンクに叩き込んで放置。
後はトイレに向かい、しっかり手を洗って戻って来た。
「……よしっ! 書類の復元にも成功してるし、こっちの解読が終わったらさっさと次の部屋に行こう」
目に動揺の色が隠せないが、それでも気持ちを切り替えようとしているのだろう。
すぐに、文字が書かれている紙片に目を通し始めた。
――その頃、靖之達はというと。
「……はぁ……はぁ……はぁ……どっ、どうにかここまで来たけど……そろそろ、どうにかしないと」
「……えっ、ええ……いくら2対1とはいえ、さすがにちょっとね。どっ、どうにかして突破口を見つけないと」
あれから数分しか経ってないにも関わらず、2人揃って満身創痍の状態。
一方で鎧の化け物はというと、無言で彼らを見詰めるのみ。
「いくら善戦しようと、所詮は人間。このまま力尽きるのが目に見えているのに、何故そこまで粘ろうとする」
「粘るも何も、まだ勝負は付いてないだろう? もしかすると、ここから番狂わせが起こる可能性だって十分にあるんだからな……」
「そうそう……まだ死んでないのに、最初から諦めるバカがいるとでも? 私達は、アンタを倒して町に行く。それだけよ……」
化け物の問いに、当然とばかりに応える2人。
ただ、状況は絶望的である。
「……まだだっ! ここまで来て、諦めて堪るか!」
「1発……せめて、1発さえ当たればどうにかなる! 私は、最後まで諦めない!」
2人は、新たに手にした武器(両名共に剣状に変化)を手に同時攻撃。
ただ、相手は全ての攻撃を両手のみでガードで対処するのみ。余裕綽々と言わんばかりに、攻撃する素振りすら見せない。
そして攻撃が終わるタイミングに合わせて、素手で攻撃。
こちらの攻撃は両人の顎をキレイに捉え、膝を地面に着かせる事に成功した。
「……これで、解っただろ? どう足掻いた所で、私には勝てないのだ。貴様等も戦士なら、潔く散るべき……そうは、思わんか?」
「おっ……お前のような化け物に、武士道っぽい事を言われて堪るか! 俺達は、最後まで諦めない! 絶対に生きて、元の生活を取り戻す……絶対に!」
「まだ、勝負は付いてない……こんな所で、死ぬわけには……だから、最後まで絶対に諦めない」
呆れたように言い放つ化け物に対し、立ち上がりながら必死に抗う2人。
とはいえ、蓄積したダメージは相当なレベルである。何もしてないのに足元がフラフラで、少し押しただけで倒れそうになっている。
これで戦況をひっくり返すのは、絶望的と言えるだろう。
化け物のそれが解っているのか、唐突に攻撃を仕掛けて来た。
「嘆かわしい……こんな攻撃も、避けるどころか反応すら出来ないとは。私も、ここで遊んでいるヒマは無いのだ。さっさと終わらせて、本来の仕事に戻らせて貰う」
2人の真横に閃光が走ったかと思うと、後方の木が何本か倒れる音が響き渡った。
同時に木が焦げたような臭いが漂うも、靖之達は冷や汗を流すのみ。ピクリとも反応出来なかった事実に、顔には絶望感が滲み出ていた。
動かぬ事実を突き付けられ、反論する事も出来ない。
化け物は、そのまま止めを刺そうと剣を高く構えるのだが。
「……ぐぅ! 今度は、どこの誰だ!」
突然化け物の周囲で小さな爆発が発生し、あからさまに動揺してしまう。
ただ衝撃は靖之達にも影響しており、そのまま後方に吹っ飛ばされる。
今度は、何だ……
いや……そんな事はどうでもいい。爆発の影響で、大量の土煙が舞っているんだ。アイツも、俺達を視認出来ないはず。
逃げるなら、今しかない。
一瞬混乱するも、靖之の頭の中は逃げの1択のみ。
そのまま舞を探し、口頭で意思を伝達する。
「森だ! 今すぐ、ここから逃げるんだ……」
「えっ、ええ……そうね!」
考えている事は同じらしく、秒で即決する舞。
そのまま離脱を試みるも、相手も黙って見逃すつもりはないようだ。
「……おのれ! このまま、みすみす逃がして堪るか! 私の姿を見た以上、貴様等はここで死んで貰う」
何としても仕留めたいのか、先程の攻撃を放射状にした攻撃を躊躇なく実行。
直撃こそしなかったものの、周囲の木々は巻き添えで倒壊。逃げるのを防ぐ遮蔽物となってしまい、2人は現場に足止め。
更に、このタイミングで土煙が収まってしまう。
「次は無い……今度こそ、死んで貰う!」
先程の爆発で、完全に頭に血が上っているのだろう。
問答無用で殺すべく、真っ直ぐに突っ込んで来た。
「クソッ! こうなったら、ダメ元で迎撃するしかない!」
「こっ、こんな所で……」
必死に迎撃態勢を取るも、2人揃って既に心が折れているのだろう。
明らかに腰が引けているが、3者の間に何かが割って入った。
「この2人には、話がある。もしそれでも危害を加えようというなら、この私が替わって相手になろう」
「きっ、貴様……よくも、ノコノコと姿を見せたな。そっちから来たのなら、好都合。2人共々、ここで始末してくれる」
突如現れた、メタリックに輝く黒い卵状の物体。
これだけでも異常なのだが、堂々と2人の援軍だと宣言したのだ。状況が全く掴めない人間達を余所に、化け物同士で舌戦を展開。
もはや、衝突は避けられない。
「大人しく、与えられた任務だけをしておけばいいものを……貴様は、規律を乱した! このまま、見逃すわけにはいかない」
「間違っている事を指摘して、何が悪いのだ。民間人の虐殺に目を瞑る事が、あなた方の任務なのか?」
「それが、組織に属すると言う事……罪の意識を感じる機械など、我々には必要ない。せめてもの情けだ……評議会には、適当な理由を付けて処理しよう」
「……愚かな。あなたの考えは、間違っている。それを今から証明しよう」
互いの主張は、完全に決裂。
オロオロする靖之と舞を置き去りにし、化け物同士の戦いが始まろうとしていた。
読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。
投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。
次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。
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