3原則と自我の目覚め(1)
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
第1条
ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第2条
ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第3条
ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
アイザック・アシモフ著『われはロボット』より
「よりによって、こんな山奥とは……でもまぁ、昨日あんな事があったばかりだからな。下手に町に飛ばされないだけ、まだマシなのか?」
靖之は、周りを見渡すなりそう呟いた。
それなりに、林業が盛んなのだろう。近くに土が剥き出しの道が見え、傍らには材木が積み上げられた集積所があった。
探せば、作業小屋の1つぐらいは見つかるだろう。
「さて……ヤル事が無いとはいえ、遊びに来ているわけではない。まずは、舞と合流するのが最優先。今日何をするかは、それからだ」
手持無沙汰ではあっても、やるべき事は変わらない。
一応周囲に警戒しつつ、目的の人物との邂逅を目指す。
なるほど……
周りは山ばかりだと思ってたけど、遠くに光が見えるからな。町に出るのは問題無いとして、ここがどこかが問題だ。
都市部だと、昨日の余波で騒然としているはず。
出来る事なら、地方都市のどこかだと助かるんだけど……
周囲を観察しつつ、町の外れに居る所までは把握。
ただ、人の気配が無いのは相変わらず。聞こえて来るのは、動物や虫の鳴き声に、風に揺れる木々のざわめきぐらい。
月と星の光源を頼りに、15分ぐらい森の中を散策した頃だろうか。
「あっ、いた……そっちはどうだった?」
「……ダメね。遠くに町があるのは解ったけど、それぐらい。人も居ないみたいだし、さっさと移動するべきだと思う」
事前に打ち合わせした事もあり、山中にも関わらず難なく合流する事に成功。
軽く言葉を交わすも、感想は両者共に共通していた。
「仕方ない……1~2時間掛かるだろうけど、今日はその町に行ってみるか?」
「……そうね。せっかく人が居ないんだし、のんびり行きましょう。焦って、何かが変わるわけでもないんだし」
「それも、そうだな。休める時に休んでおかないと、いざっていう時に痛い目を見そうだし」
「そうよ。ここ最近大変だったんだから、今日ぐらいはね」
とりあえず、徒歩で町を目指す事が決定。
2人は、光源を目指して移動を始めた。
――同時刻
「……ありがとう。少ないけど、酒代の足しにしてくれ」
「いつも、ありがとうございます。また何かありましたら、声を掛けて下さい。姉さんの為なら、すぐ飛んで行きますので」
酒場のカウンターで小さな布袋を渡された男は、中身を確認せずに受け取った。
そして手短に話を済ませると、袋をズボンのポケットに押し込むのみ。ただ、周囲の目は気になるのだろう。
キョロキョロと視線を向けながら、出て行った。
「おいおい……姉さんが、こんな所に居ていいのかよ? 確か、モントレー卿は警察に拘束されたんだろ?」
「拘束ではなく、保護よ。それに私は、彼の秘書の1人。暫く仕事もないし、こうやってお酒を飲んでるだけ」
今度はいかにもガラの悪そうなおじさんが声を掛けてくるも、淡々と酒を煽るのみ。
周りの人間は2人には興味が無いらしく、ワイワイと楽しんでいるようだ。
「へー、姉さんが休暇とはねぇ……まぁ、そんな事はどうでもいい。議事堂が壊されたらしいけど、被害はどのぐらいなんだ。新聞を読もうにも、俺には難しい話はサッパリでな」
「……時計塔含めて、議事堂は完全に崩壊。中に居た議員達も、ほぼ全員が犠牲になった。実質、今我が国は内政・外交共に空白の状態……正直、国家存亡の危機だと言っても過言ではない」
「……ウソだろ」
聞いた本人はそこまで深刻に考えていなかったらしく、事実を聞き呆然。
黙々と酒を煽る女性に対し、慌てて話を振って来る。
「ちょっと待て! 議員の連中はどうでもいいとして、内政と外交は不味いだろ? 犯人達を始末するのは当然として、これは洒落にならない」
「……ええ、解ってる。とにかく、これから1週間が勝負。ただ、やるべき事が多過ぎるのが問題だけど」
「なるほど……って、姉さんはもう帰るのか?」
「仕方ないでしょ? 私しか動ける人間が居ないんだから」
このタイミングで酒を飲み干した女性は、勘定をテーブルに置いて帰り支度。
おじさんの肩をポンと叩くと、そのまま店を出て行った。
「議事堂を襲撃したグループの足取りは、不明なまま。既に国外に逃亡しているだろうから、今は無視してもいい。それよりも問題なのは、ウォルコット議員……何食わぬ顔で新聞の取材に応じていたけど、彼の仲間達を調べなければ」
女性は、先程受け取ったメモを片手に歩き始めた。
元々顔が広いのか、何人かの通行人に声を掛けられるが愛想笑いで対応。会話を少しするだけで、書かれた場所に直行した。
目指す場所は、町の中心部にある宿屋の1件である。
――その頃の靖之達はというと。
「このまま林道を歩いて行けば、町に出られるはず……時間はたっぷりあるし、焦る必要は全く無い」
「そうね……人も居ないし、ゆっくり行きましょう。今日は、町での情報収集がメインになるはずだし」
林道の真ん中で休憩しつつも、立った状態で周囲を警戒。
油断はしないものの、無言なのはさすがに耐えられないようだ。
「あっ! そうそう……今度の土・日なんだけど、靖之はヒマ?」
「えっ? いや……急用が入らない限り、予定はないけど」
予想してない内容に、振られた側は驚きを隠せない。
ただ舞は、そんなリアクションは完全に無視。
「西○の中に、ペットショップがあるでしょ? ちょっと欲しい物があるから、付き合ってよ」
「ああ……べっ、別にいいけど。俺も欲しい物があるし、付き合うよ」
少し視線が泳ぎつつも、あっさり同意する靖之。
しかし、舞は何か気に入らない事があるらしい。
「そういえばさ……今日、吉川さんと一緒だったじゃない? あれ、何? 同じ講義を取って、楽しくお喋りでもしてたの?」
「いや、だから……あの時も説明したけど、2限目が一緒だったのは今日知ったんだから。そもそも楽しくお喋りって、講義中に話なんて出来るわけがない」
「へーっ……その割には、楽しそうにしてたじゃない? ご飯を食べてる時も、靖之しか見てなかったし」
「そっ、それを俺に言われても……別に吉川さんと付き合ってるわけでもないし、本の件も話してないんだから」
「そんなのは、当たり前でしょ? 話した所で、理解出来るはずがないし」
ジト目で問い詰める舞に、焦りながら反論する靖之。
傍目から見れば、痴話ゲンカ中のカップルに見えるかもしれない。しかも、どうやら男女で認識が食い違っているようだ。
そして、修正されないまま会話は続く。
「吉川さんも、親父さんは事情があるからな。お袋さんも出張に同行するみたいだから、話し相手が欲しいんだと思う。もちろん彼女にこの事を相談する事は無いし、舞との関係を話すつもりもない」
「……まぁ、お父さんの件なら噂で聞いた事があるからね。私も同情するけど、あの子は別の目的があるんじゃないの?」
「えっ? 別の目的って……」
「……気付いて無いんだったら、それでいいわ。それより、土・日の件。ちゃんと約束したからね?」
「あっ、ああ……解った。細かい事は、また学校で会った時にでも。それから、風間教授の件もあるから、そっちも早く済ませよう」
「あっ……そうだった! 下見は既にやったし、確かその時は変わった所は無かったよね?」
「……そうだったはず。機材は先生に言って貸してもらうからいいとして、問題はいつやるかだ。まぁ……それも、明日学校で話すとしよう」
「そうね……今は、さすがにアレだし」
途中で話題が変わったからか、どうにか話を落ち着かせる事に成功。
それでも気まずいと感じているのか、数分の沈黙が発生した。
「……そろそろ行く? たぶん、1時間ぐらいで町に出られるだろうし」
「そうね……休むには、十分だったんじゃない」
咄嗟に話題が浮かばなかったのか、そのまま移動を再開。
代わり映えしない景色の中、周囲に視線を向けながら目的地を目指した。
昨日、あんな事があったばかりだ……
議事堂に関しては、詳しい情報を持ってないのが実情だ。せめて今日の新聞だけでも、持って帰りたいんだけどな。
もちろん、警察の動きにも要注意。
向こうの人にとっては、俺達の出で立ちは不審者以外の何者でもない。職質されただけで詰むんだから、発見される事さえ論外だ。
後……一昨日は、こんな状況からとんでもない事に巻き込まれたからな。
気になる事があっても、迂闊に飛び付くのは厳禁。舞が一緒にいるからこそ、安全を最優先にしなければ。
そうさ……
どこに、化け物が隠れているかも解らん。
他に選択肢が無いのなら、仕方ない。ただ不必要に首を突っ込んでピンチになったんじゃ、全く笑えん。
今日こそ、無傷で帰りたいもんだ。
靖之は一抹の不安を覚えつつも、時計の針は動き続ける。
何事も無いまま、20分程経っただろうか。
「そういえば、キズが完治してたんだよね……理由も解らないって言ってたけど、靖之自身はどう考えてるの?」
「……正直、見当もつかない。あの時間で、キズが塞がるはずがないんだから。つまり、十中八九あのカエルの化け物が何かをしたとしか考えられない」
歩きながらではあるが、舞も気になっていたのだろう。
本人に意見を求めるも、真相は解らないまま。
「なるほど……敵に塩を送ったとも考えられるけど、経緯を考えるとちょっとね。何か、目的があるのかもしれないけど……病院の検査も、異常は無かったんだよね?」
「血液検査の結果を見る限り、何もなし。ただ何か投与されたとして、それはヤツ等の世界の物質という事になる。現代科学でも解明出来なくても、何もおかしくない」
「そうよね……気味が悪いけど、異常がないんだったら様子を見るしかないか」
「まぁ、そうなるな。とにかく、今は1日1日を大事にして、前を向くのみ。これ以上、ヤツ等の好き勝手にさせるわけにはいかない」
「ええ、そうね。先は長いかもしれないけど、他に頼れる人は居ないんだし頑張りましょう」
「ああ、頑張ろう」
現状では解らないが、経過観察で我慢するしかないのが辛い所だろう。
ともあれ、2人は警戒を維持したまま町を目指して歩き続ける。
「……んっ? 何か、物音がしなかったか?」
「確かに……右側からだと思うけど、さすがに距離までは解らないわ」
僅かな物音ながら、2人揃ってピタッと停止。
音が発生した方角を凝視するも、それ以上の情報は得られないらしい。
「勘違いならそれでいいんだけど、もし違っていた場合が怖い。念には念を入れて、ちょっと様子を窺った方がいいと思う」
「ええ……何か嫌な胸騒ぎがするし、ちょっと慎重になった方がいいと思う」
小声で話し合うと、重要視する事で一致。
道の脇に放置された切り株の陰に身を隠し、相手の出方を窺った。
「あれ? おかしいな……近くにいるんだったら、気配ぐらいしてもいいんだけど」
「……そうね。気のせいとも思えないし、向こうも警戒してるとか?」
数分待ったにも関わらず、変化はゼロ。
徐々に焦り始め、こちらからアクションを起こす空気になった頃だった。
「……えっ? 今度は何?」
「シッ、シカだ……シカの警告音だ!」
笛のような音が大音量で響き渡り、動揺する舞を尻目に即答する響。
両人共に事態が掴めないものの、すぐに変化は現実となって現れる。
「以前、渓流釣りに行った時に聞いた事がある。あれは、外敵に襲われた時に鳴く声そのもの……」
「ウッ、ウソでしょ? ちょ、ちょっと……蹄の音? 数が多いのも不気味だけど、こっちに近付いてない?」
「ああ……そうだな」
「どっ、どうする……ここに留まる? それとも、このまま町に向かって逃げる?」
緊急事態なのは間違いないが、想定外なだけに咄嗟の判断が出来ない2人。
そして、舞には気になる事があるようだ。
「ねぇ……警戒音って事は、何かに追われてるって事よね。イギリスに、野生のクマって居た?」
「……居ない。それどころか、オオカミすら絶滅しているはず」
「……つまり」
「そう言う事だ」
2人の脳裏に浮かぶ生物は一致しており、それは本来存在してはならない存在。
本能に任せて逃げ出しそうになるのをグッと堪え、必死に頭を働かせる。
「とにかく、シカの現在地が解らないからな。迂闊に動くのは危険だし、ここに留まるべきだと思う。ただし、いつでも逃げ出せる準備はしておくべきだ」
「そっ、そうね……私もそう思う」
半ば思い付きではあるが、靖之案の採用が決定。
中腰の体勢になり、目の前の動きに全神経を集中させた。
読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。
投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。
次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。
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