表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢国冒険記  作者: 固豆腐
32/70

踏み越えた一線

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

「……がぁっ! はぁ……はぁ……はぁ……」


 靖之は意識を取り戻すと、無意識の内に飛び起き周囲を確認。

 そこは見慣れた自室であり、時計の針は午前5時32・3分を指していた。


「いっ、生きてる……それどころか、どこにも痛みが無い」


 昨晩の出来事がフラッシュバックし、同時に体をチェック。

 致命傷だったにも関わらず異常が無いだけに、彼が腑に落ちないのも当然だろう。考える前に洗面所に移動し、パジャマ替わりのジャージを脱いで直接確認。

 そして、鏡に映る自分の姿に言葉を失った。


 左胸から斜め下に走る大きな裂傷に、左腕と右脇腹の銃創痕。

 小さな切り傷も全て残っているものの、全て完全に塞がった状態。砕けた両拳も、腫れも無くキレイに元通り。

 状況が全く飲み込めず、ただ立ち尽くすしかなかった。


 ――同時刻。


「おいっ、どういう風の吹き回しだ?」

「どうって……何の事だ? 依頼ならちゃんとこなしたんだから、何の問題も無い。お膳立てもしてやったし、ターゲットに逃げられたのはヤツ等の責任だ」


 靖之との死闘を終えベンチに座っていたジョージは、話を振られるも淡々と答えるのみ。

 会話をするのも面倒な様子だが、相手はお構いなし。


「たかが人間相手に……それも、1対1でやられるとは情けない。本来なら、3人まとめて始末するべきだろ」

「戦っても無い貴様に、文句を言われる筋合いはないと思うが?」

「まぁ、そうイラつくなよ。俺は、ただ気になっただけだ。お前ほどの戦士が、何故1人の人間に苦戦を強いられたのか? それほどの、ダメージを負わせるだけの戦闘力があるとは思えんが」

「確かに、俺も途中まではそう思っていた。人間は、非力で脆弱な存在だと……」

「だろうな。ヤツ等は数こそ揃えばそれなりの脅威だが、単体ならその辺の獣にも劣るレベル。それに、ちょっと恐怖を与えてやれば勝手に瓦解する脆い精神力の持ち主だ」


 先程までとは違い、本気の声のトーンで言葉を交わす両者。

 どちらにとっても、靖之の粘りは想定の範囲を超えていたのだろう。


「両拳は、俺と戦う前から壊れた状態。疲労も溜まった状態で、致命傷を負わせるのに苦労する事は無かった」

「ああ……胸にあれだけの裂傷を受け、出血量も相当だったみたいだからな。体を動かせるだけでも、たいしたもんだ」

「そうだ。だが、ヤツは違った……決めに行った1撃を躱された上に、斧を破壊。頭に血が上った俺に対し、カウンターで応戦して来た」

「いや……カウンターとはいえ、壊れた拳だろう? 腕力とタフネスの差を考えても、受けたダメージは微々たるもの。それで、何故こんなザマになったんだ?」

「まぁ、そう焦るなよ……順を追って説明しよう。まず、人間相手に殴り合いで時間を稼がれている事。プライドが傷つけられ、攻撃はどんどん大振りになってしまった。そして、ヤツの最後まで諦めない精神力を、俺自身が認めたくなかったのだろう。ムキになって、駆け引きを度外視してしまった」

「バカめ……最初から冷静に対処しておけば、こんな恥を晒さずに済んだものを」

「全くだ……それに関しては、否定のしようが無い」


 吐き捨てるように辛辣な言葉を投げ掛ける相手に、ジョージは苦笑するだけ。

 その反応が気に食わないらしく、更に話を振って来る。


「それで……ヤツは完全に意識を失ったわけだが、ターゲットのモントレーとかいう人間はどうした? あっちもソイツの片割れの女に妨害されて、逃げられたんじゃないのか?」

「ああ、そうだ。騒動に便乗した、クーデターグループの妨害まであったからな。大半を始末出来たとはいえ、数的有利な状況下でリーダーを逃がしたのは致命的だ」

「リーダー? どうせ、住民が騒ぎ始めたから撤退しただけだろ」

「だろうな……ただ、あんな状況だ。あの場でターゲットを始末しようにも、自分の顔を住民を見られるわけにはいかんだろ。敵に首を取られなかっただけ、まだマシなんじゃないか?」


 会話は靖之達から、モントレー卿やウォルコット達にシフト。

 まだ騒動が集結して数時間ながら、相手にとっては気になる事が多いようだ。


「モントレー卿の暗殺に失敗し、議事堂は炎上中。中に居た議員達も巻き添えになり、既にこの世には居ない。貴様は、この後どうなると思う?」

「そうだな……俺は政治には疎いが、今回の騒動が国政に与えたダメージは取り返しがつかないレベル。いや、歴史の分岐点になったと言っても過言ではないだろう」

「ほぉ……具体的には?」

「まず、議事堂という国政の象徴が襲撃を受け炎上したという事実が1つ。これにより内政が極端に不安定化し、好景気の波が停滞。もちろん、機能しなかった警察と軍への信用低下が2つ目に当たるだろう。そして、国力の低下と他国とのパワーバランスの崩壊が3つ目。ザッと考えただけでも、これだけ負の材料が生成されたんだ。まともな方法では、もうこの国が発展する事は無いだろう」

「かつての大帝国も、今は昔か……それで生き残ったモントレーだが、ヤツはどうするつもりだ? まさか、このまま逃げるわけにもいかんだろうし……だからといって、姿を見せればこれまで以上に殺されるリスクが増す事になる」

「おそらく、それは覚悟の上だろう。国政の議員の大半が死んだ以上、政治的に不安定になるからな。クーデター派の狙いはそこだろうし、止められるのはヤツしかいない」

「なるほど……クーデターの事実を暴露しようにも、実際に暴れたのは海外勢。それに1番の証人は、既にこの世にはいない。まともな証拠を残すとは思えんし、その線は使えんな」

「そう、証人はいないんだ。同じく、それは実行犯にも当て嵌まる。我々に接触して来たのも、それが狙いだろうし」

「まぁ、俺達だって同じような事はやるからな。評議会のメンバーもこっちの世界に現れたようだし、油断禁物。出し抜かれないように、利用出来るものは利用するだけよ」

「そうだな……先が見えないから心が折れそうになるが、だからといって俺達はこんな姿だ。逃げ出すわけにもいかんからな」

「……全くだ」


 明るい展望が描けず、両者共に暗い顔になるだけ。

 咄嗟に言葉が出ないのか、暫く沈黙が続いた。


 ――その頃、ウォルコットはというと。


「……解った。モントレー卿に関しては、放置して構わない。どのみち、顔を合わせる事になるだろうからな。変に動いて、足が付くのだけは避けたい」

「はっ! 了解しました」


 何食わぬ顔で議事堂に戻ると、少し離れた場所で側近と会話中。

 目の前では懸命の消火活動が続いているが、どう見ても手遅れの状態だった。


「完全に崩れるのも、時間の問題だな……中の議員共どうなろうと知った事ではないが、国民に迷惑を掛けたのも事実。だからこそ、やらなければならない事がある」

「そうですね……腐敗した役人や警察に、軍の関係者。現に、海外のテロリストグループにやられましたし」


 火の勢いは変わらず、建物全体が徐々に崩れ始めている。

 出火の原因の特定はもちろん、死体の数を把握する事も不可能だろう。ウォルコット達も便乗したとはいえ、何も感じないわけではないようだ。

 苦虫を噛み潰したような表情をしつつ、ジッと議事堂を見詰める。


「内政問題に関しては、時間が掛かるがいずれ落ち着くだろう。それよりも問題なのは、列強諸国対策だ。ヤツ等はもちろん、他の国もこれを機に動き出すだろう。スパイに警戒する事は当然として、第2のテロを未然に防げるかがカギになる」

「ええ……ウチの警察では、逆立ちしても対応出来ないでしょうし。早く組織を再編させて、備える必要があると思います」

「今回の件で、我々も多数の犠牲者を出した。彼らの死を無駄にしない為にも、休んでいるヒマは無い」

「はっ! 早急に再建計画をまとめるべく、我らの総力を挙げて練り上げます」

「すまんが、頼むぞ? 私は、これから暫くの間議員として事件の後始末をしなければならない。モントレー卿の動きはこっちで監視しておくから、貴様等は組織の再建に全力を注いでくれ」

「了解しました!」


 周りに聞かれないように手早く話をまとめると、側近はそのまま離脱。

 1人残されたウォルコットは、静かに目を閉じ呟いた。


「モントレー卿には逃げられたものの、ヤツ等の視点から見れば作戦は成功したのも同じ。それに、これで満足したとも思えない。次に同規模のテロ行為を実行した場合、今の我が国にそれを止められるだけの力があるだろうか?」


 今回の一連の経緯を振り返り、自分なりにシミュレーションしたようだ。

 そして芳しくない結果だったのか、彼の目の色は暗く淀んでいた。


 ――そのテロリスト達は、何をしているのか?


「……よしっ。全員揃ったな?」

「はっ! 負傷者の手当ても終わり、後は撤退するだけです」


 既に町の外れにある畑に集結しており、後はそのまま脱出するだけ。

 周囲に人の姿は見受けられず、準備も万端のようだ。


「全員、聞け! 我らは、議事堂の破壊を達成。ヤツ等は国政の象徴を失い、同時に大勢の政治家を失った。モントレー卿の暗殺に失敗したとはいえ、与えたダメージを考えたら誤差の範囲内。ここに、本作戦の成功を宣言する!」

「「おおっ!」」


 まずはしっかりと鼓舞して、気を引き締める所からスタート。

 もはや障害など残ってないように見えるが、敵地のど真ん中なので真剣そのもの。


「それでは、当初の計画通り行動し合流地点に向かってくれ。何かあった時は、それぞれのリーダーの判断に任せる。くれぐれも、我々の存在に気付かれないように……ここまで来てミスをしたら、目も当てられんからな」

「「サー・イエス・サー!」」


 しっかりと念押しした上で、移動する部下達を見守る首領。

 その場に残されたのは、1部の幹部を含めて数人だけになった。


「……それで、今回の作戦で犠牲になったのは何人だ?」

「12人であります!」


 ただでさえ張り詰めた空気がいっそう重くなるが、致し方ないだろう。

 避けては通れない話題なだけに、我慢して会話を進める。


「12人か……議会のクーデター1派の存在があったとはいえ、死なせたのは私の責任。後で、全員の名前を教えてくれ」

「はっ、了解しました」

「……まぁ、クーデターは失敗に終わったみたいだからな。モントレー卿共々いずれ始末するとして、問題なのは例の2人組だ。アイツは、何と言っている?」

「……戦闘不能にしたが、逃げられた。ただ我々の計画はもちろん、素性に関しては何も知らないと判断したようです」

「なるほど……2人の素性は?」

「他国の民間人ということ以外は、不明なまま。ただ現地の警察はもちろん、モントレー卿とも面識が無いようなので……我々が警戒する相手ではないと思われます」

「そうか……とはいえ、暗殺に失敗した最大の要因である事に変わりは無い。偶然なら放置しても構わないが、どうも気になる?」

「了解しました……リストに入れておきますので、何か解りましたら報告します」

「……頼む。1度ならまだしも、2度目は絶対に避けなければならない。見つけ次第背後関係を洗い出し、確実に仕留めてやる」

「了解しました」


 どうやら靖之達、特に舞に恨みを持っているらしく感情を隠せないまま指示。

 同時に、これで話す内容も無くなったのだろう。


「じゃあ、我々も撤退するとしよう。一旦拠点に戻って、そこで組織を再構築。スパイの選定も忘れずにやっといてくれ」

「解っております。既にリストアップしておりますので、ご安心を」

「さすがだな……では、この町とも暫しの別れだな」

「ええ、またすぐに訪れる事になりますが……」


 手早く会話を済ませると、そのまま撤退。

 数時間後に畑の持ち主が姿を現すが、そこに人が居たと気付く事はなかった。


 ――再びジョージ達はというと。


「なぁ、気になった事があるんだが……聞いてもいいか?」

「答えないかもしれんが、それでいいのなら」


 暫く続いた沈黙を破ったのは、相手だった。

 とはいえ、デリケートな質問ではなく単純な興味らしい。


「例の薬を、ヤツに使っただろ? あのまま放置していたら勝手にくたばったのに、何で最後に助けたんだ?」

「いや……特に理由は無いが、強いて言うなら何となく。そうとしか言えない」

「おいおい……そんな、見え透いた嘘をつかなくてもいいだろ? もしかして、戦っている内に情でも移ったのか?」

「まさか? ただ、気になっただけだ。これから先、ヤツ等に待っているのは絶望のみ。そんな中、どう運命と向き合うのか。どんな最期を迎えるのか、興味があってな。こんな所で終わらすのは、勿体ないだろ?」

「……訂正する。やっぱり、お前は鬼か悪魔だな。私は2人を実際に見てないが、心から同情する」

「鬼か悪魔? 冗談はよしてくれ。どこの誰が見ても、俺はただのカエル。それに、あの薬を人間に投与してどんな影響が出るか実験するチャンス。データ収集にも貢献しているんだから、むしろ褒められるべき。違うか?」

「……聞いた私がバカだった。もう、何も言わん」


 あからさまにドン引きする相手に、含みのある笑みを浮かべるジョージ。

 殺気にも似たひんやりした空気とは裏腹に、空は明るくなっていた。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。

 次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。

 細かい情報は、ツイッターでご確認下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ