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夢国冒険記  作者: 固豆腐
30/70

モントレー卿暗殺計画(6)

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

「モントレー卿が見つかったら、一巻の終わりだ。これから移動するから、舞はサポートを頼む」

「えっ? サポートって……私達だって、まともに戦える状態じゃないのよ? ましてや、あんな化け物を相手にどうするつもりなの?」


 小声で耳打ちする靖之に対して、露骨に反対する舞。

 客観的に考えてまともな反応だろうが、靖之なりに考えがあるのだろうか。


「……冷静に考えるんだ。あの化け物は、俺達やモントレー卿を発見出来てないからな。逆に考えるなら、動くなら今しかない。一瞬だけでもいいから、意識を引き付けられたらこっちのもんだ。頼む……危険なのは承知だが、生きて朝を迎えるにはやるしかない」

「……あーっ、もう。そこまで言うなら手は貸すけど、絶対に失敗しないでよ? 見つかったら、私達までアウトなんだからね?」

「ああ、解ってる……任せといてくれ」


 渋る舞を強引に納得させると、すぐに準備を開始。

 カエルの化け物の動きを観察し、ココというタイミングで舞が背後に石を投げた。


「……っ! あれっ? 確かに、物音がしたんだが……」


 反射的に振り返ったものの、当然そこには誰も居ない。

 対して靖之はその隙を逃さず、一気にモントレー卿が隠れている場所に移動した。


「……モントレー卿。何が何やら訳が分からないでしょうが、今は私の言う事を聞いて下さい」


 まずは恐怖で固まっている対象に向かって、話し掛ける所からスタート。

 相手も靖之に危害を加える意図が無いと判断したのか、何度も首を縦に振った。


「見ての通り、今は説明しているヒマはありません。この場は私と仲間が何とかしますから、モントレー卿は逃げて下さい。あなたがここで死んだら、取り返しのつかない事になります」

「いっ……いや、しかし……私のせいで罪の無い人間が死に、一般市民の混乱を招いてしまった。これ以上、逃げるわけには」

「気持ちは解りますが、状況を考えて下さい。ここであなたまで死んでしまったら、議事堂を襲った人間達の思う壺。本当に責任を感じているなら、生きて現実に向き合うべき。違いますか?」

「しっ、しかし……いや、確かに君が言う通りかもしれない。どこの誰かは知らないが、礼だけは言っておく」


 靖之の説得に、形だけとはいえモントレー卿も納得したようだ。

 後は彼を逃がすだけであり、それは言う程難しい話ではない。


「こっちに逃げれば、相手からは死角になります。そのまま公園を出て、町の郊外に逃げて下さい」

「……すまない。この恩は、一生忘れない」


 化け物は石の音が気になっているのか、2人は完全にノーマークの状態。

 だからモントレー卿が脱出した時も、気付く素振りすら見せなかった。


 よしっ!

 これで、不安要素だったモントレー卿も居なくなった。

 後は、この化け物を警戒しつつ俺達も脱出するだけ。幸いここは身を隠す場所も多いし、ヤツだけをマークすればいい。

 適当に撒けば、朝まで時間を稼げるはず……


 靖之は素早く考えをまとめると、慎重に元居た場所に帰還。

 舞と合流すると、今度は自分達が逃げるべくタイミングを計り始めた。


 ――同じ頃。


「……報告します! 議事堂周辺に居たグループが、撤退を開始。周辺を警戒していた人間達も、姿を消したとの事です」

「報告、ご苦労。議事堂も燃えている以上、我々の意図も把握しているはず。ここに来るのも、もう時間の問題だろう。だが、これも想定の範囲内。ヤツ等が来る前に、モントレー卿を始末するだけだ」


 公園の一角で、何かを話し合う数名の男達。

 会話の中心に居るのは、会議場を占拠したウォルコット議員だった。彼としては、計画通りに事が進んでいると信じていたのだろう。

 少なくとも、この瞬間までは。

 だが、それも次の報告が入るまでだった。


「……なんだと? モントレー卿を尾行していたヤツ等との連絡が途絶え、行方不明になっただと?」

「3人も居て、見失った……何て失態だ! 今すぐ、そいつ等を呼び戻して代わりの人間を送り込め」

「どうするんだ! 公園の外に逃げられたら、こっちは手が出せんのだぞ」


 報告に対して、動揺を隠し切れない幹部連中。

 咄嗟に解決策も出ない中、ウォルコットも黙って考え込むだけ。


「とにかく、議事堂を襲ったヤツ等がここに来るのも時間の問題だ。ただでさえ、人数ではこっちが負けてるんだ。何とかしてモントレー卿を見つけ出し、我々の手で始末するしかない」

「だから、どうやって始末するんだ? 公園の中に居るのか、それとも外に脱出したかも解らんのだぞ? ヤツ等がここに来る前に、撤退するべきだ」

「ここまで来て、引けというのか? 我々が今回の計画を立てるのに、どれだけの時間と資金をつぎ込んだと思ってる? こんなチャンスは、2度とないかもしれないんだぞ?」

「そんな事は、言われなくても解っている。ただ、現実を見ろ。モントレー卿を逃がしたとはいえ、他の議員連中は始末出来たはず。しかも、全責任はアイツ等が背負うんだ。我々は、次の機会を待てばいいだろ」

「しかし……」


 意見が衝突するだけで、まとまる気配はゼロ。

 時間だけ無駄に消費する中、ここでウォルコットが口を開いた。


「尾行に失敗した件は痛いが、今更時計の針は戻せない。そして、まともな神経なら、今頃公園の外に出たはず。だったら我々が何をするべきなのかは、考えるまでも無い」


 言った本人は自信があるのだろうが、周囲の人間には解らないのだろう。

 少しの沈黙を挟んで、再び話し始めた。


「モントレー卿がここから逃げるとしたら、このルートしかない。そして、町の中心部を除外すると残されたのはココとココ。議事堂の連中が公園に気を取られている間に、我々が先回りすればいい」


 地図を片手に熱弁を振るうウォルコットに、幹部連中も納得したのだろう。

 ただ、話をするのに夢中になったのが彼らにとってマイナスに作用した。


「……ぎゃあぁっ!」

「コッ、コイツ等……いつの間に!」

「クソッたれ……!」


 近くで銃声がしたかと思うと、既に包囲され掛かっている状態。

 もはや作戦どころではなく、一気に戦闘へと発展していった。


 ――その頃、靖之達はというと。


「それにしても、この化け物……ちょっと、しつこ過ぎるんじゃないか? ストーカーじゃあるまいし、さっさとどっかに行けよ」

「……本当、冗談抜きでイライラするわ。いくら探しても、そこにはモントレー卿は居ないのに……」


 カエルの化け物が動く気配を見せないので、2人揃ってストレスがピークの状態。

 戦って勝てる相手ではないので、我慢しているだけ。そうでなければ、とうの昔に排除していただろう。

 完全な膠着状態が続く中、それは突然訪れた。


「そこの、人間2人組。男と女が1人ずつ、そこに隠れてるだろう? このままじゃラチが明かないし、そろそろ出てきたらどうだ?」


 突然の化け物の発言に、驚き固まる2人。

 正確には身動きが出来ないだけなのだが、言った本人は別の捉え方をしたようだ。


「出て来ないなら、そのまま死ぬだけだ!」


 どうやら痺れを切らしていたのは化け物も同じらしく、腰の銃を抜いていきなり発砲。

 被弾こそ避けられたものの、茂みから追い出される格好になった。


「こうなったら、仕方ない……コイツは俺が相手をするから、舞はモントレー卿を頼む」

「ちょ、ちょっと……モントレー卿を頼むって、靖之1人でどうやって戦うつもりよ?」

「……解ってる。でも、見つかった以上仕方ない。それに、モントレー卿は大勢の人間に狙われている存在。彼が死んだら、これまでの苦労が水の泡になる」

「でも、1人で戦っても殺されるのがオチじゃないの! 変な意地を張ってないで、ここは2人で戦うべきだわ」

「頼む……舞は、モントレー卿を守ってくれ」


 最後まで意見を曲げない靖之に、舞が折れた形で話は終了。

 そのまま離脱するが、化け物は動かなかった。


「どうやら両拳が壊れているようだが、本当にいいのか? 私なら、迷わず2対1で戦うがね」

「あんたには解らんか……まぁ、こっちには守るべき人間が居てね。2人掛かりで戦うほど、ヒマじゃないんだ」

「モントレー卿だろ? 今回のターゲットだが、どのみち非力な人間であることには変わりない。貴様を殺して後を追っても、十分間に合う」

「そうかな……油断してると、痛い目に遭うかもしれんよ」

「……ほぉ、いい面構えだ。なら、見せてみろ。追い詰められた人間の力とやらを……」


 互いに口上を済ませると、そのまま戦闘がスタート。

 靖之が絶対的な不利な状況の中、彼は勝負を制する事が出来るのだろうか。


 ――同時刻。


「ウォルコット様……ここは、我々が食い止めます。あなた方だけでも、逃げて下さい」

「なかに、我々だったら心配無用です。こっちを片付けたら、すぐに合流しますので」

「あなたは、俺達の希望……こんな所で留まる人じゃないでしょ?」


 数的不利な状況下で、文字通り体を盾にして奮戦する部下達。

 ただ、ウォルコットも的確な指示を送り続ける事で崩壊だけは阻止していた。


「100年そこそこの歴史しか持たぬ、蛮族風情が! 貴様等の反逆を機に、我が国の勢いが止まったのだ。歯牙を抜かれ、国内にしか目を向けぬ政治家。己の生活にのみ金を使う民衆共。またしても、邪魔をしようと言うのか!」


 追い詰められた状況に、感情剥き出しで応戦。

 ただ志を同じくする同志達にとっては、士気が上がったのも事実だろう。一方的に押されていたのが、互角なまでになっていた。

 これには、攻めていた側も驚いたらしい。

 ムキになって、更に攻勢を掛けて来た。


「こんな少数の敵に、何をやっている! こんなザマじゃ、ボスに報告出来んぞ」

「無駄な抵抗ばかりしやがって! さっさと、くたばりやがれ」

「数では、こっちが圧倒的に有利なんだ。焦らず、このまま磨り潰せばいい!」


 冷静さを欠いているだけ、状況はほぼ互角。

 ここが勝負所とみたのか、ウォルコットが突然動いた。


「我々は、このままモントレー卿を追う。貴様等は応戦しつつ、このまま後退。ヤツを仕留めるまでの、時間稼ぎに専念してくれ。解っているとは思うが、絶対に無駄死にはするな。自暴自棄になるのだけは、避けてくれ」

「「了解!」」


 素早く指示を出すと、ウォルコットは数名の側近を引き連れて脱出。

 相手は攻めるのに夢中で、その事実に気付く事は無かった。


 ――その一方で、靖之である。


「はぁ……はぁ……はぁ……まだだ。まだ、俺は戦える」


 必死に自分を鼓舞するものの、既に満身創痍の状態。

 10分ほどしか経ってないのに、体力はほぼゼロになっていた。


「……まさか、人間がこれほど粘るとは。正直、驚いている」


 靖之とは違い、こちらは余裕そのもの。

 息1つ切らさず、体力の消費も見受けられない。


 この前のメデューサといい、勝てる気がしない……

 でも、コイツさえ倒してしまえば全ての障害が取り払われる。モントレー卿も、舞が居るから心配ない。

 後は、俺が!


 攻撃をまともに貰ってないにも関わらず、この疲労具合である。

 根性や気合で乗り越えられるラインは超えているように見えるが、それでも諦めない。


「このっ……野郎っ!」

「またそれか……既に壊れた拳など、何の脅威にもなり得ない。それに、疲労でモーションも大振り」


 次々に拳を振り回すものの、全て空振り。

 カリーナ戦と同じ構図ながら、それでも攻撃を続ける靖之。


「ぐほっ、げほっ……くそっ! あっ、当たりさえすれば!」

「……見苦しいまでの、闘争心よ。このまま続けてもいいが、こっちも後に客が控えてるんだ。そろそろ、終わらせて貰おう」


 戦いに飽きたのか、勝負を決めるべく遂に斧の使用に踏み切るつもりらしい。

 まともに動けない靖之に、渾身の力を込めて振り下ろす。


「……っ! ぐあっ!」

「ちっ、当たりが浅いか? でも、十分だな」


 ヒットする直前に身をよじったものの、靖之の左胸辺りを捉える事に成功。

 そのまま大量の鮮血と共に、前のめりに倒れてしまった。


「……思ったより粘ったが、所詮は人間よ。後は逃げた2人を追うだけだが、あっちは期待出来ないだろうな」


 靖之を始末したと確信し、そのまま立ち去ろうとするカエルの化け物。

 しかし、どうやら決着は着いていないようだ。


「……げぼっ! おっ、おい……どこに行くんだ? 俺は、まだピンピンしてるぞ」

「……止めておけ。既に、それだけの出血。手当を受けた所で手遅れだと思うが、今なら助かるかもしれない。俺は、十分楽しんだ……だから、命を粗末にする事も無い」

「そっ、そうはいかない……まっ、舞は俺の大切な友達……こっ、このまま……貴様を行かせるわけにはいかな……い」

「……仲間の為に、命を捨てるというのか? それも無駄な事だというのに」


 口と幹部から血を噴出させながら、戦おうとする靖之。

 化け物は彼の意思が理解出来ないようだが、だからといって見逃すわけでもない。完全に息の根を止めるべく、再度斧を振りかぶり攻撃を仕掛けてくる。

 ただ、瀕死の重傷を負った人間だけに気を抜いたのだろうか。


「……しっ、しまった!」

「この瞬間を待っていた!」


 靖之は体1つ分だけ躱し、斧を回避。

 地面に刺さって動かせないのを見て、刃付近の柄を踏み抜いて破壊した。


「おのれ……斧を破壊したぐらいで、図に乗るなよ!」

「……げほげほっ! おいおい……俺は、まだ生きているぞ! さっきまでの威勢の良さは、どこに行った?」

「もう、容赦しない。今度こそ、あの世に送ってやる!」

「どうだかな……案外、逆の結果になるかもしれんぜ」


 仕留めそこなった上に武器も破壊され、頭に血が上っているのだろう。

 靖之は薄れゆく意識の中、それでも闘志だけは失っていなかった。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。

 次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。

 細かい情報は、ツイッターでご確認下さい。

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