もう1人の体験者
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・今回が導入部分の最後になります。
・ヒロインは幼馴染みではありません。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
【前回までのあらすじ】
佐山靖之は、讃岐浜大学に通う大学1回生。
本屋で入学祝として受け取った、謎の羊皮紙本の解読に挑むも難航していた。そして素人の限界を感じたのか、学校の先生を頼る事を決断。
時間も遅かったので眠りに付くも、目が覚めるとそこは18世紀のロンドン(?)らしい。
状況が呑み込めない中、いきなり銃で撃たれ左腕を負傷。どうにか逃げる事に成功するも、大きな橋を渡る途中で捕捉される。
絶体絶命のピンチに陥った靖之は、右脇腹に被弾しながら川に飛び込む事に成功した。
――靖之が川に飛び込んで少し経った頃。
「……うっ……ぐぅ……っ!」
靖之は、気が付くと自分のベッドから飛び起きていた。
机・TV・パソコン・クローゼットと、見覚えのある自室の光景。まだ頭は混乱しているものの、自分が夢を見ていたと理解したのだろう。
大きく溜息をつき、安堵する。
壁の時計を確認すると、午前3時15分を示していた。
何か、嫌な夢を見てたような気がする……
いや、今はそんな事はどうでもいい。
大学の1限目が始まるのが、午前9時半だからな。事前にアポを取ってないのを考えると、少なくとも1時間前には研究室に行くべき。
それでも会えなかった場合は、昼休みか放課後にするか?
後、この中途半端な時間が問題だ。2度寝するには微妙だし、寝過ごすなんて論外。だからといって、話を聞いてる途中に眠くなったら意味が無いからな。
ここはモ○スターエ○ジーでも飲んで、このまま起きておくべきか?
確か、まだ冷蔵庫にストックがあったはず……
ベッドから上半身だけ起こしたまま、アレコレ考える靖之。
さきほど夢の中で殺されかけた事は、既に忘れているらしい。
「……トイレでも行くか。ついでに、冷蔵庫からモ○スターを取って来ないと」
いつもの調子で、ベッドから出ようとした時だった。
突然、左腕と右脇腹に激痛が走る。
「ぐっ……つぅっ!」
本人も予期していない痛みに、思わず突っ伏して身悶えてしまう。
そして、夢の内容を鮮明に思い出す。
「えっ……ウソだろ? アレは夢の中の話であって……いや、そんな事はどうでもいい。どうせ人に話しても、キチガイ扱いされるだけだし……どうする? 血は止まってるとして、何が起こった? 何が原因だ? 異世界に飛ばされた? そんな、ラノベみたいな展開が現実にあるか?」
痛みに耐えながら頭を働かせるが、かえって混乱するだけ。
このままでは、ラチが開かないと考えたのだろう。ヨロヨロした動きながら、再び床に就いた。
そう、病院に行く体力を養う為に。
――約8時間後。
「……つぅっ! 治療してもらってマシになったとはいえ、痛いのは仕方ないか……正直何がなんだか解らんとはいえ、考えても無駄だからな。だったら、せめて本でも調べて気を紛らわせないと。寝ると、またあの世界に飛ばされるかもしれないし。全く……一体、どうなってるんだ?」
靖之は病院での治療を終え、大学に来ていた。
辛かったのは、救急外来だと面倒事になる可能性も考慮して朝まで我慢した事だろう。
出血だけに留まらず、患部が熱を持って疼く事態にまで発展。ロクな常備薬も無かったので、一時は救急車を呼ぶ事も考えたほどだ。
気力で持ちこたえたとはいえ、ギリギリの状態だったのは事実。
現に、タクシーで病院に向かう途中で何回か意識が飛んだほどだ。
ともあれ、どうにか目的地に到着。
ケガの内容がアレだけに、(病院の)先生から根掘り葉掘り聞かれるのは仕方ない。そこは、植え込みに突っ込んだと言い張って強引に突破した。
幸い、左腕と右脇腹の両方とも出血のみ。
何かの破片が体内にも残っている事も無く、軽く何針か縫うだけで治療は終了。警察を呼ばれる事も無く、処方された薬も痛み止め・抗生物質・化膿止めぐらいだ。
ただ診察は午前9時からであり、結果として1限目前に話を聞きに行く計画は頓挫。
放課後まで、持ち越す事になった。
「……え~っと、今が11時半だろ? 2限目の授業が終わるまで、約1時間あるからな。今なら人も少ないだろうし、さっさと学食で昼飯を済ませてしまおう」
思い立ったらなんとやら。
靖之はメインストリートから右折すると、そのまま直進して目的地に向かった。
途中でロ○ソンが左手に見えるが、完全に無視。数人のグループが店前でキャッキャ喋っているのを横目に、そのまま前進を続ける。
だいたい、50メートルぐらいだろうか。
運動部が使うグラウンドの手前に見える、2階建てのノッペリした建物。
座席数は、800ぐらいだろうか。
構内に3ヶ所ある学食の内、最も大きいとされる『第1食堂』である。
「え~っと、肉うどんの大をお願いします」
「あいよ、肉うどん大1つね~」
そのまま中に入ると、入口脇のトレイを取りカウンターで注文を済ませる。
ここは半セルフ方式であり、おばちゃんに声を掛けてそのまま横に移動。ちくわの磯部揚げ・イカのゲソ天・のり巻きおにぎりを確保する。
後はレジ横でうどんを受け取り、会計を済ませて席に向かうだけ。
時間的に客の姿は少なく、場所も選び放題の状態だ。
少し全体をキョロキョロ見回した後、返却口に近いレジ前をチョイスした。
はぁ……
昼休みは12時40分からだけど、先生も同じタイミングで休憩に入るはず。そう考えると、研究室に行くのは余裕を見て1時ぐらいがいいか?
これなら3限目が始まるまで30分あるし、そこまで迷惑にならないはず。
細かい話は、今日じゃなくてもいいわけだから。
あっ、そうだ!
出来れば避けたいけど、入れ違いになる可能性もあるからな。食べて終わったら、手紙を書いておこう。
それなら、ドアの下に差し込んでおけば読んでくれるはず。
便箋と封筒なら、学校のコンビニにも売ってるからな。図書室にでも行って、さっさと書いてしまうか。
よしっ、そうと決まればこんな所でノンビリしてられない。
今後の行動方針も決まり、急いで昼食を口に突っ込む靖之。
そして、ほぼ完食した頃だろうか。
「あれっ? 佐山君じゃない。慌てて食べてるけど、この後何か用事でもあるの?」
「……ああ、奥田さん。俺は……ちょっとね。この後用事があって」
気が付くと、靖之の背後に1人の女性が立っていた。
色白の肌に、金に近い淡い茶色の長髪を後ろで束ねたヘアースタイル。身長も160センチ半ばほどあり、女性の中に居れば目立つ存在といえるだろう。
そして容姿に関しても、スッと通った鼻筋に大きく丸い目といった美人タイプである。
当の靖之も急な声掛けに一瞬驚くが、相手を確認するなりホッとした顔に変わった。
彼女の名前は、奥田舞。彼とは高校時代からの付き合いであり、仲の良い友人として同じく讃岐浜大学に通っていた。
所謂、クラスメイトという間柄である。
小・中学校は別々であったものの、高校が同じ三ヶ崎高校だったのが2人の出会い。
話すキッカケになったのは、偶然席が隣になったから。以来たわいない会話を交わす友人関係になったが、ただそれだけ。
周囲がアレコレ詮索したり冷やかしたりするも、距離は3年間変わらなかった。
そもそも、人生の歩み自体が対照的。
波乱万丈そのものの靖之とは違い、舞は祖父母・両親全員が健在なのだ。しかも、親戚含めて関係者全てが地方公務員というオマケ付き。
ただ、彼女自身は堅苦しく視野の狭い考え方にウンザリしているのも事実。
同じ職場を望むのに反発し、自分の好きな研究者の道に進む事を決めた。
『私は、必ず夢を叶えてみせる。大学・大学院に進み、研究の道に。もしダメだったら、その時は皆の希望に従う事を約束する』
高校入学時に宣言した通り、ここまでは順調そのもの。
彼女が見ているのは、『彼』だけだった。
「ごめんね……申し訳ないけど、すぐ終わるから」
「あっ、ああ……そうまで言うんだったら、別に構わないけど」
普段ならここで楽しく談笑するのだろうが、残念ながら今はそれどころではない。
会話も適当に流し、食事に集中したいが彼女の方はそう思ってないらしい。
「ねぇ、ちょっと聞いてもいい?」
「えっ……急に改まったりして、どうした?」
声のトーンがマジなだけに、靖之としても驚きを隠せないのだろう。
つい食べる手が止まってしまうのに対し、舞は横のイスに座って食事を開始。ハンバーグを口に運びつつ、暫しランチタイムを満喫する。
そして少しの沈黙の後、唐突に話を振って来た。
「私達って、友達よね?」
「ああ、もちろん。付き合いこそ短いかもしれないけど、俺にとっては大切な友達である事に変わりは無い。もし何か困ってるなら、何でも遠慮せずに言ってくれ」
深刻さを感じ取ったのか、先程までとは違い真剣に答える靖之。
とりあえず、今後の予定は頭の片隅に追いやったのだろう。しっかりと舞の目を見て、続きを口にするのを待つ。
マジなのは彼女にも伝わったらしく、ニコッと笑うと再び話し始めた。
「数日前だったかな? 連続した夢を見るようになってね。それだけだったら普通なんだろうけど、内容が異常というか……」
「夢の内容? 化け物に襲われるとか、誰かにずっと追われ続けるみたいな怖い系。もしくは、伝わるかどうか解らないけど……こう、クトゥルフのような不思議な体験とか?」
「いや……不気味っちゃ、不気味なんだけどね。こう……夢じゃなくて、現実世界の出来事のような感じ」
「なるほど……目が覚めて、そこで夢だったって気付くと」
「そう……その通り」
まずはザックリと探りを入れたものの、特に深刻に悩んでいるとは思えない内容ばかり。
頭の中で首を傾げる靖之に対し、舞はなおも言葉を続ける。
「何て言えばいいんだろう……そう、まるでシャーロックホームズの世界にタイムスリップした……ううん、不思議の国のアリスみたいに迷い込んだ――」
「いや、何でもない……続けて」
急に身に覚えのあり過ぎる単語に、思わず立ち上がってしまう靖之。
これには舞もビックリした様子だが、すぐに座り直すと続けるように促した。
「まず寝ている時とは違う服装なのは、夢じゃよくある話。でも目が覚めて、向こうの世界から戻って来るじゃない? でも、まだリアルに感覚が残ってて。正直……とてもじゃないけど、夢とは思えなくて」
「……その夢は、何日も連続で見てると? もしかして、向こうの世界も同じ時間というか……時間の進み方がリンクしてると言ったらいいのか? そんな感じはする?」
舞としては軽く相談しているだけのようだが、これこそ靖之が求めていた情報。
ついつい、聞かれたこと以上の質問をしてしまう。
「ええ……夢を見始めて、確か1週間ぐらいだったかな? ためしに、向こうの新聞で日付を確認した事もあるけど、時間の進み方も同じだと思う」
「じゃ、じゃあ……もし向こうでケガをしたら、こっちでも同じ状態になると?」
「……たぶん。私はケガをした事がないから、何とも言えないけど。というか……急にどうしたの? まるで、佐山君も同じ体験をしたみたいだけど」
途中から雰囲気が変わったからか、今度は舞の方が驚きを隠せないらしい。
状況が呑み込めない彼女に対し、左腕の服を捲って包帯を巻いた患部を見せる靖之。
「実は、昨日俺も似た状態になったんだ。そして銃で撃たれたんだと思うけど、このザマで。右脇腹もこんな状態だし、本当に危なかった……危なかったんだ」
「うそ……でも、よかった……助かって、本当によかった」
顔面蒼白の靖之に、ショックを隠せない舞。
同時に今生きている事が嬉しいらしく、優しく患部を触れながら微笑んでいる。
ただ、喜んでばかりでもいられないのも事実。互いに同じ現象を体験した以上、偶然の産物ではないのだから。
2人は再び真顔に戻ると、話を続ける。
「こんな話、何も知らない人に話しても変人扱いされるだけでしょ? だから、佐山君に相談出来てホッとしてる……でも、このままじゃ何の解決にもなってないもの。どうにかして、抜け出す方法を探さないと」
「確かに……俺だけならまだしも、奥田さんも同じ世界に飛ばされている。そして、今解っているのは、ヴィクトリア朝時代のイギリスと夢の中での出来事というだけ……材料がこれだけだと、手掛かりすら掴めないな」
同じ境遇の人間を見つけて安堵するも、それだけでは気休めにしかならない。
2人の話は、核心部分に移ろうとしていた。
「原因……私達が同じ体験をしてるからには、共通した何かがあるはず……あっ、もしかして! いや、でも……」
「んっ? 何か思い当たる節があるなら、遠慮しないでくれ。どんな内容であっても、バカにはしないし否定もしないと約束するから」
ようやく、突破口に繋がる可能性が出て来たのだ。
自信がなさそうな舞に、真面目に向き合う靖之。
「もしかして……佐山君って、本を持ってない? アンティークっていうか、古い動物の皮で作られた年代物なんだけど」
「えっ、ああ……確かに、昨日入学祝で貰ったのが該当するけど……でも、あれってパッと見白紙の本だしな。奥田さんが言ってる本と同じなのかは、自信がないんだけど」
「いや……多分、それで間違いないはず。今日、学校には持って来てない?」
「あっ、ああ……自分では解読できなかったから、この後文学部の先生に相談するつもりだったから」
「なるほど……さっき言ってた用事って、本の事だったのね」
話が本屋で貰った羊皮紙本に移り、言われるがままバッグから取り出す靖之。
舞も彼の最初の反応に合点がいったのか、苦笑しつつも頷いた。
「これなんだけど……奥田さんが言ってる本って、これで合ってる?」
「……やっぱり」
実際の本を見るなり、舞は確信したようだ。
表紙・裏表紙を軽く確認し、その流れで開いてパラパラとページを捲り始める。
「ねぇ、佐山君……放課後の予定って、空いてる?」
「問題無い。もともと、今日は本の件で先生に話を聞きに行くつもりだったし」
かくして、両者の思惑は完全に一致。
同時に、放課後の予定が埋まった。
読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。
ジャンルとしては、変則的な転移系ローファンタジーです。
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