モントレー卿暗殺計画(5)
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
「……ウソでしょ? 近くに人の気配なんて無かったはずなのに」
「とりあえず、まずは落ち着くんだ……どこから撃って来たかも解らん以上、このまま様子を見るしかない」
靖之達は銃撃に気付くと同時に地面に伏せたものの、出来た事はそれだけだった。
下手に動けず状況認識もままならない中、攻撃は続く。
「こっ、ここまで来て……私には、やらなければならない事がある! こんな所で、無様に殺されてたまるか!」
仲間を撃たれた直後こそ動揺しはしたが、自身に矛先が変わり吹っ切れたのだろうか。
次の銃弾が着弾する前に、近くの木に避難。陰に体を隠して被弾を避けつつ、弾切れを誘う戦術に切り替えた。
そして、靖之達も自分達の存在に気付かれてないと確信。
ゆっくりと体勢を立て直すと、周囲の観察を始める。
「相手は3人か……このまま逃げようと思えば、たぶん簡単に逃げられる。ただ、近くに仲間が居ると厄介だ。幸い、俺達の存在には気付いて無いからな。念には念を入れて、アイツ等は排除しておいた方がいいんじゃないか?」
「……私も、そう思う。リスクは排除するに越した事はないからね。このまま背後に回り込んで、一気にカタを付けるべきだわ」
これまでの経験からか、2人は先制攻撃で意見が一致。
問題の3人を攻撃するべく、静かに彼らの背後に回り込んだ。
「クソッ! このままじゃ、らちが明かない。俺がアイツの気を引いとくから、お前達2人は両サイドから回り込んでくれ」
「待て……もう少しで、議事堂から応援が到着するんだぞ? 下手に動くより、ここでモントレー卿を足止めするべきだろ」
「……そうだ。ここで逃げられたら、これまでの苦労が水の泡になる! 焦らず、確実にヤツを殺すんだ」
攻撃を続けつつも、3人はプランの内容で意見が分断。
すぐに結論が出るわけでもなく、それでも手を止めずに攻撃を続行していた。まさか、自分達に接近している人間達が居るとも知らず。
2人がその時に備えて慎重に動く中、靖之は妙な違和感を覚えていた。
んっ?
ここに来た時は虫やカエルとかが喧しく鳴いていたのに、それがピタリと止んでいる。それも、1分や2分ではない。
少なくとも、5分ぐらいか?
いや、今は攻撃に集中するべきなのは解っている……
とはいえ、これまでこの予兆が出て良くない事が起こったのも事実。何か不吉な事が起こらなければいいが。
それとも、単純に銃声に驚いているだけなのか?
詳しい事は解らないけど、奇襲の失敗は俺達の死を意味する。迷いを捨て、攻撃に集中しつつ警戒だけはしておかないと。
重要なのは、咄嗟の判断なのだから……
靖之の胸中に言いようのない不安が広がりつつも、攻撃ポジションへの移動が完了。
木の陰に隠れつつ、3人の内2人が弾切れになるのを確認した。
「……そろそろ、弾が少なくなってきた。もうすぐ応援が来るとはいえ、このままじゃ危ないんじゃないか?」
「そうだな……逃げられるのだけは避けたいし、そろそろ強攻策も検討するべきだろ」
「まぁ……数では、こっちが圧倒的に有利だからな。モントレー卿の動きに注意を払いつつ、一気にカタを付けた方がいいかもしれん」
なかなか仕留めきれないのに加え、不安要素の出現で焦りが出て来たのだろうか?
このままだと、ゴリ押しにシフトチェンジするのは時間の問題と思われた。
――同時刻。
「クソッたれ! まさか、こんな所に隠し通路があったとは……」
「いや……ここは、国家の中枢である議事堂だ。万が一に備えて、これぐらいの仕掛けがあってもおかしくはないだろう」
「せっかく、ここまで完璧にやってたのに……いつ逃げたのかは解らないが、これじゃあもう追掛けるのは無理だよな?」
ようやく襲撃グループが例の隠し通路を発見したものの、幹部連中は既に諦めムード。
すかさず追撃する動きは見せず、ただ立ち尽くしていた。
「おいっ、どうするんだ? 警戒中のA・B班に連絡して、捜索するか?」
「ヤツが、どこに逃げたのかも解らんのだぞ? 捜索しようにも、指示の出しようがないだろ……」
「とは言っても、このまま引き下がれるかよ! 俺達が、今回の件でどれだけ時間を掛けたと思ってるんだ?」
苛立ちと無力感からか、彼らが感情を抑えられないのも無理はないだろう。
皆が絶望感で下を向く中、このタイミングで首領が到着。誰よりも怒りを抱いているかと思いきや、彼だけは淡々としたまま。
それどころか、全く動こうとしない幹部連中に指示を出し始める。
「モントレー卿の脱出は想定外だったが、何も手が無い訳じゃない。それよりも、警察の動きが気掛かりだ。プランをB3に変更し、すぐに撤退する準備をしてくれ」
彼は平然と命令を口にしたが、幹部達は落胆した表所のまま幹顔を向けるのみ。
場に居る全員が、言葉の内容を理解出来てないようだ。
「あの……プランB3ですと、議事堂に火を放って撤退する事になりますが、それでよろしいでしょうか? 御覧のように、モントレー卿は既に逃げた後ですが……」
「追跡が不可能な以上、この場に留まるのは危険だろ? それに、議事堂を燃やすだけでも政権にとっては大打撃になるのは必至。モントレー卿を暗殺するのは、次の機会を待っても遅くないんじゃないか?」
「待てっ! 皆、落ち着け。ボスは、モントレー卿については手が無い訳じゃないと言ってるんだ。だったら、我々は指示に従って行動するべきだろ?」
困惑して口々に喋り出すが、この状況では当然なのかもしれない。
首領もそれが解っているのか、手で静かになるように指示するだけ。それを無視する程のパニックではないようで、声の大きさと比例して口数も減少。
全員が沈黙したのを待って、今度は具体的な指示を出し始める。
「貴様等には黙っていたが、作戦を実行するに当たってイレギュラーが発生するのは当然。今回もまた然り。ターゲットが脱出したケースも想定して、別働隊を用意しておいた。従って、モントレー卿に関しては問題無い」
「……ですが、脱出した後の行方は解ってないんですよ? 相手だって必死に逃げるでしょうし、ここの土地勘では向こうが上。我々が捕捉出来るとは、到底思えませんが?」
「ここに来る途中、資料室で議事堂の図面をチェックして来た。ヤツ等……ご丁寧に、隠し通路も全部記載してたからな。この通路の出口は、南西の公園だ。既に近くを警戒中のA・B班を向かわせている上に、別働隊も急行させている。例の邪魔者達も向かっているようだが、返って一石二鳥……まとめて、殲滅するチャンスだろう」
「なるほど……その上で、プランB3だったんですね」
「了解しました。すぐに行動に移れるように、指示を出します」
「ああ、それで……解りました」
具体的な説明を受け、幹部連中も納得したのだろう。
反論が出なくなったのを確認し、最後に念を押す首領。
「日が昇るまでの、後1~2時間が勝負のカギになる。我々は議事堂を燃やした後、速やかに撤退。これは、バリケードを作って待機中のC・D班にも徹底させてくれ。警察の無能さを国内外に知らしめるのも、今回の作戦に含まれるからな。これ以上被害を出さず、所定の合流ポイントに集合。後の指示は、まとその時に出す……以上だ。何か、質問があればこの場で挙手するように」
「「了解しました!」」
「よろしい……では、行動開始だ!」
――その頃、公園では。
「よしっ! いつでも行ける」
「……じゃあ最後に確認するが、俺とコイツで左右から挟み撃ちにすればいいんだな?」
「そうだ……ただ、あくまでも弾切れを装う事を忘れるなよ? こっちの意図に気付かれたら、そのまま逃げられてしまうんだから」
「解ってる……ここまで来て、そんなヘマをするほどバカじゃない」
「任せてくれ。さっさとアイツを始末して、とっとと帰ろう」
銃撃を続けていた3人も、どうやら襲撃プランを決定したらしい。
後は実行するだけだが、それは背後で息を潜めている靖之達も同じ。モントレー卿に動きが見られない中、その時はやってきた。
勝負は、一瞬だった。
「しっ、しまった!」
「……えっ? コッ、コイツ等!」
まずは、挟み撃ちをするはずだった2人を靖之と舞が攻撃。
移動の途中で拾った木の棒で思いっきり殴打する事で撃破する事に成功した。
「くそっ! 何で、背後に……貴様等! 一体、何のマネだ!」
襲われている側としては想定外の存在にパニックを起こし、銃の狙いが定まらない。
それに対し、2人は迷う事なく攻撃を加えた。
「はぁ……はぁ……はぁ……どっ、どうにか排除出来たな」
「えっ、ええ……そっ、そうね……これだけ殴っておけば、当分目を覚ます事はないでしょうし」
時間にして1分も掛かってないだろうが、失敗が許されない状況で2人は疲労困憊。
血だらけになって沈黙する3人を見下ろしつつ、乱れた息を整える。
「後は、あの人を逃がすだけだけど……どうする? このまま私達が声を掛けても、向こうからすれば不審者にしか見えないでしょうし」
「さぁ、どうしたもんかな……下手に騒がれるのも避けたいし、だからといってスルーするのも後味が悪い」
モントレー卿は何が起こったのか解らず、木の陰でオロオロするだけ。
事前に対処方を決めてなかった事もあり、靖之達も声を掛けられないでいた。ただ、このまま無言でいる程ヒマではないのも確かだろう。
その証拠に、北東方向で大きな爆発が発生したのだから。
「野郎……議事堂を破壊したみたいだな」
「方角的に、そうでしょうね……おそらく、この人……モントレー卿でしたっけ? 彼を仕留めそこなって苛立ってるんじゃない?」
「俺達の世界に当て嵌めると、国会議事堂が爆破されるようなもんだからな。犯行声明でも出してやれば、国内外に大きくアピールする事が出来るはず……その後の事は、考えたくもないけど」
大量の黒煙が夜空に吹き上がるのを見上げながら、疲れ切った表情を見せる2人。
同時に、自分達の現状に対する危機感も高まったようだ。
「とりあえずモントレー卿には自力で逃げて貰うとして、俺達はこれからどうするかだ。公園内に留まるのは確定として、さすがに茂みに隠れ続けるのは無理があるだろ」
「十中八九、この3人の仲間が近くに居るでしょうし……それに、コイツ等が爆破の実行犯グループか別のグループかも解らないまま。とにかく、日が昇るまで1~2時間でしょうし、私達はこのまま隠れ続けるしかないんじゃない? もちろん……茂み以外の安全な場所を探す必要はあるでしょうけど」
「面倒臭いけど、それしかないか……」
「全く……どこの誰かは知らないけど、余計な事をしてくれたわ」
不満を隠せないが、それでも今後の行動方針を決める事は出来たらしい。
すぐに、モントレー卿に声を掛けようとするのだが……
「おいおいおい……何だ、この化け物は?」
「……ウソでしょ? ここまで来て、それは無いわ」
2人は目を見開いて驚くが、それもそのはず。
目の前の道路に姿を現したのは、人間の体型をしたカエルの化け物である。
「えっ? もしかして、アイツ(カリーナ)もここに居るのか?」
「私に聞かないでよ……でも、あのメデューサだったら魚人じゃない?」
「あっ、そうか……じゃあ、へんてこな妖精の方の仲間?」
「だから、私に聞かないでよ……どこの誰の仲間か知らないけど、私達の仲間じゃないのだけは確かだわ」
「……だよな。変に見つかると面倒だし、出来ればやり過ごしたいんだけど。でも、モントレー卿は大丈夫か? 今ココで見つかったら、さすがに俺達だけで助けるのは無理だからな……頼むから、ジッとしててくれ」
「だっ、大丈夫じゃない? あんな化け物なんだし、普通は怖くて体が動かないでしょうし」
突然の事で困惑する2人だが、それはモントレー卿も同じ。
ただ舞の見立て通り、恐怖で硬直しているのだろう。気配こそ感じるものの、木の陰に隠れて動けないでいた。
一方のカエルの化け物は、立ち止まって周囲をキョロキョロみて執拗に観察。
明らかに、何かを探しているようだ。
落ち着け……まずは、落ち着いて様子を窺うんだ!
身長は、おそらく150センチ半ばほど。着ているのは甲冑ではなく、ここから見る限り革系のようだ。
ただ、手に持っている斧が問題だろう。
手斧にしては大きいにも関わらず、片手持ち。腰には古臭いながら銃もあるし、背中は大きな盾でガード済み。
戦うとしたら、正面から殴り合うしかない。
ただでさえ不利な上に、今は俺の両手が壊れた状態だ。さっき木の棒で攻撃した時に感じたけど、明らかに何ヶ所か折れてるからな。
正直、戦うのは自殺行為以外のなにものでもない。
どうにかモントレー卿を逃がし、ヤツが立ち去るのを待つしかない。
俺達は、後数時間耐えるだけなんだ。だから、どんな手段を使ってもこの場を切り抜けるだけ。
その方法を、今考えるしかない!
突然降って湧いた危機に、焦りと恐怖に押し潰されそうになる靖之。
彼に与えられた時間は、あまりにも短かった。
読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。
投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。
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