モントレー卿暗殺計画(4)
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
「……本当に、手の具合は大丈夫? 何か、さっきより腫れてるような気がするけど」
「いや……骨折の可能性はあるけど、戦えないほどじゃない。朝になるまでだったら、これで十分だ」
靖之達は公園に到着したものの、先程の戦闘で負傷した両拳はほぼ壊れた状態である。
本人は口では否定するが、既に握り込む力は激減。事実上、彼は戦闘不能の状態であると言わざるを得ない。
もし万が一にも敵に発見されるような事にでもなれば、万事休すである。
茂みに身を隠しつつ、2人は朝になるのを待ち続けるしかなかった。
「議事堂がどうなったか気になるけど、完全に包囲されてたからね。中の人は、もう……」
「そうだな……今更助けが来た所で、もう遅過ぎる。交渉目的でアイツ等が議事堂に立て籠もるとかしない限り、中の人間は厳しいだろうな」
「全く……とんでもない現場に出くわしちゃったもんね」
「まぁ、こればっかりは仕方ないだろう。命が助かるなら、俺の拳なんて安いもんだ」
「いや、それは違うでしょ? 今回それで済んだのは、たまたま運が良かっただけよ。次も同じとは限らないだし、もっと慎重に行動しないと」
「ああ、確かにその通りだ。反省するべき所は、しっかり反省しないと。特に、舞には心配を掛けて申し訳なく思ってる」
「本当に、もう……私達は、一心同体。靖之に何かがあったら、私にもそれだけ影響があるんだから。くれぐれも、無茶と勇気は違うって自覚してよ?」
「……ごめん」
到底1日では回復出来ないケガなだけに、舞としては見過ごせないのだろう。
露骨に釘を刺されたが、ド正論なだけに靖之も素直に認めるしかなかった。
「とりあえず手は病院に行っての検査待ちとして、問題はこれからどうするかよ。このまま隠れるにしても、いつまでもここに居続けるのは危険じゃない?」
「まぁ、さすがに入り口脇の植え込みじゃ危ないだろうし……そうだな。どこに何があるのか解らんけど、動くなら今しかない。周囲を警戒しつつ、このまま奥に向かおう」
「そうね。今なら、ここはノーマークでしょうし……出来るだけ、安心して隠れられる場所を探さないと」
「重要なのは、誰にも見つからない事。現地の警察でさえ、この状況下では敵同然なのを忘れてはならないのだから」
軽く意見交換をし、行動方針を決めるとそのまま移動開始。
慎重に、だが確実に奥に向かって歩き始めた。
――同時刻。
「……そう、それでいい。皆さんの協力に、感謝する」
会議場に姿を現した男は、銃で威圧する事で議員全員の身柄を確保。
机に体を倒すように指示し、完全に生殺与奪権を握っていた。
「ウォ……ウォルコットよ。こんな事をして、何になる? 今は、産業革命を国を挙げて後押しする時。今からでも、全然遅くない……考え直せ」
「そうだ、ウォルコット議員。もうじき、警察がここに来る。素人がいくら暴走しようとも、相手はプロ。殺されるのが、関の山だぞ」
それでも何人かは口で抵抗するも、当の本人はどこ吹く風。
苛立ちや焦りも見せず、ただ議員達を監視するのみ。
「我が国は、好景気の真っただ中。仲間割れをしても、敵国の思う壺だと何故気付かない。これは、千載一遇のチャンスなんだ」
「考え直せ、ウォルコット……警察には、我々が上手く説明する。だから、仲間に言って攻撃を止めさせろ」
議員連中は説得を試みるものの、よく聞いてみると心配しているのは己の命のみ。
この期に及んで、誰1人として住民達を気遣う者は居なかった。
「どいつもこいつも、揃いも揃って嘆かわしい……誰かが昔言ってたが、人間の本性は言葉ではなく行動で決まるらしい。貴様等は、自分達の安全しか考えていない。そんな事では、この国はいずれ滅びるだろう。私は、それを変えたいのだ」
男はそれまで黙っていたが、人質達の言動が余程気に障ったらしい。
淡々と言葉を投げ掛けるも、咄嗟の返答は誰からも無かった。
「植民地との戦争に敗れて、約100年。今でこそ好景気で浮かれているものの、それは国内にしか目が向いていないから。我々が平和ボケしている間に、他国に出し抜かれ続けているではないか? 雇用創造・インフラ整備・文化の醸成、私に言わせれば全てクソだ。国は強くなければならない……弱ければ死に、強ければ生きる。この単純な理屈を、何故理解しようとしない?」
議事堂内は水を打ったように静かだが、この言葉を聞いてもピンと来ないのだろう。
互いの顔を見合わせるだけの議員達を見て、男はただ目を閉じて首を横に振った。
――その頃、議事堂の外では。
「……報告します! 議事堂内に突入しましたが、バリケードにより制圧が難航。予定より、15分程遅れています」
「15分なら、問題無い。それより、モントレー卿の居所は解ったのか? 奴さえ始末してしまえば、後の連中はどうでもいい」
「はっ! スパイからの情報通り、モントレー卿は本会議場の近くの部屋に居るようです。出入り口は我々が抑えているので、袋のネズミも同然かと」
「よしっ! ならば、後は数で押すのみ。後詰めの人間も投入し、一気にカタを付けろ」
「はっ、了解しました!」
幹部と報告に来た人間のやり取りを尻目に、1人腕組みをして考え込む首領。
状況は自分達の絶対有利にも拘らず、何か気になる部分があるらしい。
「……議事堂から逃げ出して来た人間達は?」
「はっ! 既に始末しましたので、ご心配なく。周囲に異変もありません」
「……いや、それはいい。全員で何人ぐらいだ?」
「えーっと、少しお待ち下さい……私の手元のデータが正しければ、全員で20名。職員と警備員が約半分ずつです」
「やはりな……」
幹部の報告を受け、首領は何か納得したように頷いた。
ただ言った方からすれば事態が呑み込めないらしく、キョトンとした顔のまま。
「あの……失礼ながら、やはりとは?」
「考えてみろ……部分的とはいえ、建物の内部であれだけの爆発があったんだ。それにも関わらず、議員連中が外に逃げ出さないのは何故だ? それにバリケードの設置も早過ぎる」
「あっ! 確かに、言われてみれば変ですね」
「そうだ。可能性はいくつか考えられるが、さっきの件を考えると第3勢力の存在を疑うしかない」
「なるほど……という事は、ヤツ等の仲間が既に内部に……」
「だろうな……だからこそ、いますぐにでもモントレー卿を始末しなければならない。万が一にも、そいつ等に身柄を抑えられると面倒な事になるからな」
「……っ! わっ、解りました! すぐに攻勢を掛け、一気に決着を付けます」
「待て! 急いで逃げられては、元も子もない。ヤツ等が中にいるのは間違いないとして、人数は少ないはずなんだ。先を越されたら、その時はまとめて始末するだけ。我々は、計画に沿って動けばいい」
「なるほど……了解しました!」
一連のやり取りで、患部も納得したのだろう。
細かい指示を部下に伝えるべく、そのまま走り去った。
――再び、議事堂内部では。
「……以上の通り、建物は完全に包囲された状態。バリケードが破られるのも、時間の問題と思われます」
「なるほど……議員連中は私が見ているから問題ないとして、問題はモントレー卿だ。近くに隠れているのは、間違いないはずだがまだ見つからないのか?」
「……申し訳ありません。目下全力で捜索中ですが、想像以上に部屋が多いのが問題でして。現状、発見の目途も立っていません」
「とにかく、急いでくれ。外の連中も、そろそろ我々の真意に気付く頃だ。ヤツ等に身柄を拘束されたら、もう取り返しがつかん。その前に、我々の手で始末するんだ」
「はっ! 了解しました」
会議場の外で仲間に指示を出すが、先程までは違いが焦りの色が濃厚。
ターゲットが発見出来ない事に対する苛立ちが募り、感情が丸出しになっている。
「……報告します! たった今、バリケードがヤツ等に突破されました。予定通り撤退していますが、何か変更点はございますか?」
「……ちっ、思ったより早いな。とはいえ、想定の範囲内。当初の予定通り、合流ポイントに集合。脱出に備えてくれ」
「はっ、了解しました!」
こちらの報告は、そこまで驚きはなかったのだろう。
用意した指示を与えると、そのまま持ち帰って行った。
「ヤツ等がここに来るまで、約10分。ここまで探して居ないのなら、モントレー卿は別の場所に移動したか隠し通路で逃げたかだ。とはいえ、このまま長居してヤツ等と鉢合わせするのだけは避けたい。不本意だが、ここは撤退するか?」
作戦の失敗を認め、脱出に考えがシフトしているのだろう。
隣の患部らしき男は複雑な顔をしているが、ここで流れを変える報告が入った。
「報告します! 周辺の部屋を捜索中に、建物の外に繋がる隠し通路を発見。モントレー卿の物と思われる、革のカバンも発見しました」
「でかした! 何人か人を集めて、その通路を使って追跡。向こうは、我々を撒いて安心しているはず。郊外に逃げられる前に、身柄を抑えろ。手段も、生死も問わない。必ず、ここで止めるんだ」
「了解しました!」
すぐに指示を飛ばすと、後は自分達だけ。
男は幹部に耳打ちをすると、再び会議場に戻って行った。
――同じ頃、靖之達はというと。
「……あんな騒ぎがあったから、さすがに人も居ないな。まぁ……俺達にとっては、そっちの方が好都合なんだけど」
「そうね……人が居ないとはいえ、逆に不気味っていうか。田舎の夜って感じがして、何か嫌な気分だわ」
公園の奥に進んだはいいが、現代の公園とは違い街灯はメインの道路のみ。
身を隠すには好都合のはずが、それよりも心理的な恐怖を感じていた。
「そういえば、例の4人組を殺した男。アイツって、結局どこの誰だったのかしら? 警察関係の人間とは思えないし、自警団にしては手慣れてたし」
「さぁな……田舎町を、テロリストの集団が占拠するような国だ。今更何が起ころうが、驚く事はないんじゃないか?」
「確かに……まぁ、どこの誰にせよ私達2人だけじゃどうしようもないからね。犠牲になった人には悪いけど、こればっかりはね」
安全な場所に逃げ込んだからか、2人は騒動に対して他人事な発言ばかり。
ただ、隠れる場所に適したポイントはなかなか見つからないのだろう。
移動を始めて結構な時間が経過したが、まだ公園内を徘徊していた。
「……それにしても、今日は両手をケガしただけで終了か。元の生活に戻ろうにも、手掛かりすら掴めない。全く……毎日毎日嫌になるな」
「まぁ、焦っても仕方ないんじゃない? それに何回も言うけど、無謀と勇気はイコールじゃないからね。生きて元の生活に戻りたいんなら、もっと慎重に行動するようにしないと」
「確かに。いや、今後気を付けるから……」
さすがに正論を言われれば、靖之も反省するしか出来ないようだ。
再び隠れ場所を探すべく無口になるが、その直後に一変する。
「……あっ、危なかった。あのまま、あの部屋に居たら今頃殺されていただろうな」
「とりあえず、ここまで来たらもう安心でしょう……もう少ししたら馬車を用意しますので、モントレー卿はそれでお逃げ下さい」
「……すまない。この恩は、必ず返す」
「いえ、我々は公務員。国民の皆さんを守るのが仕事であり、だからこそあなたは生きなければならない。モントレー卿は、我が国の希望なのだから」
少し離れた所で人の話す声が聞こえたので確認すると、男2人が茂みに隠れていた。
両名共に服は泥とかで汚れているものの、身なりは紳士そのもの。ホームレスには見えないだけに、靖之達も興味を持ったのだろう。
発見されない範囲で接近すると、静かに聞き耳を立てて観察を開始した。
「それにしても、議事堂を襲撃する輩が現れるとは……残念ながら、国民が警察をバカにするのも頷ける」
「まぁ……モントレー卿が無事だっただけ、まだマシです。どこの誰の犯行かは解りませんが、これは国家に対する反逆でもあります。総力を挙げて捜査しますので、どうか安心して下さい」
「うん、そうか……期待している」
疲労困憊ながら、起こった事件の大きさ的に放置は出来ないのだろう。
同時に周囲に敵が居ないか心配で、動くに動けないようだ。
「……モントレー卿は、ここでお待ち下さい。馬車がここを見つけられない可能性もありますので、私が誘導して来ます」
「いっ、いや……君1人を、そんな危険には晒せない。私も――」
痺れを切らしたのか男が立ち上がった瞬間に銃声が発生。
モントレー卿が言葉を言い終わる前に、その場に倒れ込んでしまった。
「おっ……おいっ、しっかりしろ! 目を開けるんだ」
慌てて体を揺するも、反応なし。
モントレー卿としては、突然の事で状況が呑み込めないのだろう。涙こそ流れるが、言葉は何も出て来ない。
そして驚きのあまり無言なのは、茂みに隠れている靖之達も同じだった。
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