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夢国冒険記  作者: 固豆腐
22/70

バラの花輪は死の香り(6)

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

「……あっ、そこに水溜りがあるから。そこの右側から、グルッと回り込んだ方がいいと思う」

「……えっ? あっ、確かに。右ってことは……ああ、了解。ちょっと待ってて」


 夜の森という慣れない環境と先程の雨の影響からか、移動に難儀する靖之と舞。

 あからさまにスピードが落ちているものの、焦りを隠して逃走を続けていた。


「高低差が殆ど無いとはいえ、こうも地面の起伏が激しいとは……ちょっと歩いただけで、一気に疲れが来るというか」

「……俺達は、普段は平坦で整備された場所しか歩いてないからな。慣れれば平気なんだろうけど、いきなりはさすがに無理だ」


 両者揃って、完全に息が上がった状態である。

 口を開くペースも落ちているが、それでも足だけは動かし続けていた。


「……とっ、とにかく隠れられる場所を探そう。さすがに、このまま逃げ続けるのは無理があるし」

「賛成……足に力が入らなくなってきたし、体を隠せる場所を探しましょう」


 どうにか気力と根性で耐えたものの、さすがに限界なのだろう。

 歩きながら周囲に視線を向けるが、靖之には別に気になる事があるらしい。


 おかしい……

 あれだけ騒いでいた動物達の鳴き声が、ピタッと止まっている。

 いや、さっきまで雨が降り続いていたのは確かだ。とはいえ、既に止んだ状況でここまで静まり返るものなのか?

 もしかして、何かが起こる予兆なのでは……

 ダメだ!

 すぐそこまで、建物を襲ったヤツ等が追って来ているかもしれない。今は余計な心配はせずに、逃げる事に集中するべき。

 さすがに、これだけ広いんだ。

 川で出くわした化け物ならいざ知らず、同じ人間相手ならそう簡単に発見されないはず。俺達が気を付けるべきなのは、慌てず慎重に行動する事。

 このまま朝まで生き残れば、それだけでこっちの勝利なのだから。


 脳裏をよぎる不安要素を取り除こうとするも、どうも安心出来ないらしい。

 舞に打ち明けられないまま、時間だけが過ぎて行った。


 ――時を遡る事、約1時間前


「おのれ……どこの誰かは知らんが、計画的な襲撃なのは間違いない。おそらく、生き残っているのは我々だけだろう」

「……しゃ、社長! ここも、いつまで安全か解りません。すぐに逃げないと、私達も殺されます!」


 建物内で一方的な虐殺が行われていた頃、社長と数人の幹部は難を逃れていた。

 ただ、突然の襲撃で手ぶらの状態。本来死守するべきデータ等を放置したまま、地下通路に逃げ込まざるを得なかった。

 やはり、命には代えられないのだろう。

 動揺を隠せない中、誰もが生き残る為に必死である。


「ヤツ等の目的は、我々の抹殺と研究データの奪取のはず。暫くは建物の方に意識が向くだろうから、逃げるなら今しかない」

「それはそうですけど……逃げるっていったって、ここは森の中ですよ? しかも今は夜ですし、迷って野垂れ死にするんじゃ……」

「だからといって、この状況で他にどうしろと? 建物の中に隠れても、殺されるだけなんだぞ!」

「そんな事は、言われなくても解っている! ただ、闇雲に逃げても結果は同じだと思っただけだ!」

「でも、逃げ切れる可能性もあるだろ! このまま、何もしないよりかはマシだ」


 淡々と分析する社長に対し、動揺を隠せない幹部達。

 全員の顔に悲壮感が漂うも、どうにか屋外に脱出する事に成功したらしい。井戸みたい出入り口から外に出て、周囲に人が居ない事を確認。

 まだ不安そうな顔の面々に、トップからの指示が飛ぶ。


「このまま森に逃げ込んだとして、正攻法では追い付かれるのが関の山だ。不本意だが、奥の手を使うしかない」

「……えっ? 奥の手っていうと」

「余計な事をするより、このまま森の中に逃げ込んだ方が早いんじゃ……」


 自信をのぞかせるのは社長のみで、他の人間達は何を指すのか解らないのだろう。

 互いの顔を見合わせキョトンとする面々に、山を指差して説明を始めた。


「この辺りの木は、材木目的で植樹されたブナが殆どだ。とはいっても、植えられて10年ぐらいだからな。根が広がりきってない上に、山の池は去年の大雨の影響で決壊寸前。ちょっと刺激を与えただけで……というわけだ」

「おおっ、なるほど……でも、今から細工をして間に合いますか?」

「……確かに。時間稼ぎをする前に、こっちが巻き添えになるリスクもありますし」

「いや、この一帯の地形を見る限りコントロールする事は可能だ。それに材木運搬用の道までは、よそ者のアイツ等は把握出来てないはず。1時間もあれば、仕込みは十分なはず」

「なるほど……それなら、試してみる価値はあるでしょうね」

「でも……池を決壊させるにしても、誰がやるんです? 発破の知識を持った人間は、我々の中に1人も居ないわけで」

「それなら、問題無い。この先に、林業の人間が寝泊まりしてる小屋があるからな。わざわざ、農家のふりをしてコネを作ったんだ。今それを活用しない手はないだろう?」

「ああ、確かに……どっちみち、捕まったら命は無いんだ。こうなったら、もうやるしかない」

「じゃあ……伝達役は私達が行きますので、残りの皆さんはそのまま逃げると言う事で。後は集合場所ですけど、どこにしますか?」

「そうだな……集合場所は、森を抜けた先の町でいいだろう。あそこならそれなりに人も多いし、ヤツ等もそうそう手が出せないはずだ」

「了解しました。他の皆さんも、異論はないですか?」


 切羽詰まった状況で、まともな判断力を失っているのだろう。

 社長の説明のペースのまま、話し合いはアッサリと終了。各々の役割を割り振ると、そのまま行動を開始。

 そそくさと、森の中に消えて行った。


 ――再び時が戻り、現在


「おいっ! 生存者は、まだ見つからないのか?」

「たかが人間数人相手に、何てザマだ。このままだと、俺達も処分の対象になりかねんのだぞ?」

「とにかく、ボスが来る前に始末するんだ! 人間の足なんて、たかがしれている。まだ、この近くに居るはず……とにかく、急がないと」


 最初こそ発見は時間の問題だと分析していたが、意外と難航。

 しかも集団のトップ以外の存在も明らかになり、徐々に焦りの色が出て来ていた。とはいえ、既に何人かの始末は完了済み。

 残っているのは、社長と側近1~3人ぐらいである。


「……報告します! ポイント4‐6‐3のエリアに、山小屋を発見。林業関係者の休憩場所のようですが、どうしますか?」

「何! そんな場所は、想定してなかったぞ……放置していても、作戦に支障は出ないとは思うが……それでも、カリーナ様の命令は『目撃者は全員始末せよ』だ。念の為、死んで貰うか?」

「いや、まだ肝心要のターゲットを始末してないだろ? そっちは何人かに見張らせておいて、排除するのは最後でいいんじゃないか?」

「……ああ、それもそうだな。とにかく優先するべきは、建物から逃げた人間達の抹殺。もう少ししたらカリーナ様も来るだろうし、その前に仕事を終わらせないと」


 こちらも、人間同様に判断力が低下しているのだろう。

 本来は誰よりも敏感なはずの、動植物の変化を完全に失念。余裕が無くなり混乱しつつも、自分達の目的達成を急いでいた。

 誰1人として、疑問を抱かないまま。


 ――同時刻


「はぁ……はぁ……はぁ……クソッ! これだけ探したのに、まともに隠れられる場所がどこにも見当たらない」

「……そっ、そりゃそうでしょう。簡単に見つかるなら、苦労しないわよ」


 靖之と舞の体力は既に尽きており、目の焦点も合わない有様である。

 足元がふらつきながら前進するも、当然ながら成果はゼロのままだった。


「ここまで探して、何もないからな。隠れる場所を探すよりも、遠くに逃げる事に集中した方がいいかもしれない」

「確かに、ここまで空振り続きだとね……こんな状況だし、ジロジロ周りを見るより前に進んだ方がいいかも」


 2人共、危機感自体は忘れてないのだろう。

 可能性の問題として、逃げる事に集中する事で一致。ただでさえ少なくなった口数も、無言同然になるも足だけは止めない。

 そして、15分ほど経過しただろうか。


「……久しいな。とは言っても、あれから2日ぐらいしか経ってないが」


 突然背後から聞き覚えのある声が聞こえ、2人は反射的に振り向いた。

 そこに立っていたのは、両人にとっては忘れられない相手だった。


「……こんな森の中に、何の理由があって来たのやら。それから、用事があるなら日を改めてもらえると助かるんだけど」

「そうね……私達は、今ちょっと立て込んでて。今日はあなた方に迷惑も掛けてないし、話があるならまたの機会でお願いしたいわ」


 割とストレートに対話を拒否するものの、カリーナはお構いなし。

 ジロジロと2人を見回すと、当然の如く話を振って来る。


「建物を襲った集団が気になっているようだが、そちらは問題無い。今回の目的は、貴様等とは何の関係も無い。ただ、利用させては貰ったが」

「……あっ! なるほど。妙に手際が良いとは思ってたけど、まさか実行犯があんた達だったとは。でも何の目的があって、あの建物を?」

「まぁ、ちょっとな……細かい話は出来ないが、我々の世界の住人がこっちで悪巧みをしていたようだ。放置していると、後々面倒な事になるからな? 早めに止めさせて貰ったが、ただそれだけだ」

「……という事は、靖之が見た水鳥の死骸と何か関係があるんでしょう? 殺された人達が何をしていたかは置いといて、せめて私達に影響がないかぐらいは教えて欲しいんだけど」

「ああ、それだったら問題無い。人体に影響が出るレベルにするには、この時代の科学力では無理がある。だから、安心していい」

「じゃあ、次の質問をさせてもらう。俺達を利用したと言ったが、もしかして最初弓矢で攻撃して来たのはあんた達なのか?」

「その通りだ。こっちが誘導すれば、貴様等が建物を調べると解っていた。後は、ゆっくりと攻撃するチャンスを窺うだけ。おかげで、楽に仕事をする事が出来た。悪いとは思わんが、一応礼は言っておく」

「そんなのは、どうでもいい……じゃあ、目的は達成したんだったら俺達が逃げる理由はもう無いんだろう?」

「まぁ、そう邪険にするなよ。せっかく、貴様等にとって有益な情報を教えてやろうと言ってるんだ。耳を傾けるぐらいは、してもいいんじゃないか?」

「ほぉ……それは、さぞかし有益な情報だととっていいのか?」

「ちょっと、靖之! 相手は、さっき私達をおとりに使ったのよ? 今さら簡単に口車に乗って、後で痛い目を見るかもしれない。もう少しで夜が明けるだろうし、ここは無視するべきじゃないの?」

「確かに、俺も舞の言う事にも一理ある。ただ、川で出くわした妖精モドキの件があるだろ? せっかくの機会だし、こういう時に情報収集するのも大事だと思う」

「はははっ! 妖精モドキとは、また上手い事を言う。そうだ……私からの忠告は、まさにそいつだ。ヤツに何を言われ、次にあった時に何を吹き込まれるかは知らんが……全て無視しろ。いや、聞く耳を持つべきではないと警告しよう」

「いや、聞く耳も何も……はなから信用などしないし、信用するつもりもない」

「ええ……もちろんそれは妖精っぽい女もそうだし、あなたも同じだけど?」

「これはまた、2人揃って手厳しい。でも、今はまぁいいだろう……とにかく、忠告はしたからな。どうするかは、貴様等次第だ」

「……おいっ! いきなり姿を現して、勝手に消えるなよ」

「ちょっと、せっかく向こうが勝手に引いたんだから……もう逃げる必要もないんだし、今日はそれで十分でしょ?」

「でもっ! こうまで……いや、止めよう。今日は目立ったケガも無かったし、それだけで十分だ。反省するのは、日が昇ってからでいいんだし……」

「そうよ……生き残る事が1番大事なんだから」


 カリーナが姿を消して、ようやく緊張の糸が切れたのだろう。

 急に体に力が入らなくなったのか、2人揃ってその場に尻餅をついてしまった。


「とりあえず、このまま寝ても問題無いか……どうせ、もう誰も襲って来ないだろうし」

「……いいんじゃない。あの口ぶりだと、建物の中に居た人達は全員殺された後。どうせ、気が付いたらベットの上よ」


 疲れと睡魔が一気に襲って来たのか、ノンキに眠ろうとする2人。

 しかし、それは文字通り甘い夢でしかなかったようだ。


「ちょっ、今度は何事だ!」

「えっ? あっ、あれ……部分的だけど、何か山が崩れてない? しかも……このままだと、ここも巻き込まれそうだし」

「……ああ、そうだな。とりあえず、犯人探しはどうでもいい……現実逃避も、考える時間も後回しだ……走れ!」

「全く……せっかく、丸く収まりそうだったのに!」


 いきなり、『ドンッ!』という地響きと共に土砂崩れが発生。

 2人としては現実に引き戻された格好だが、事態は急を要するのは確かだろう。すぐに頭を切り替えると、山から遠ざかるように全力でダッシュ。

 無我夢中で、森の中を疾走した。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 今回で、「バラの花輪は死の香り」のパートは終了です。

 次回は、今回の後日談を予定しています。

 投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。

 次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。

 細かい情報は、ツイッターでご確認下さい。

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