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夢国冒険記  作者: 固豆腐
16/70

同級生との再会は冷や汗と共に

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・今回も前回に続き長編パート前の日常回(?)です。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

【前回までのあらすじ】

 朝から学校に訪れた靖之は、舞と共に学食で食事。

 ケガの影響が大きいものの、先生に会いに行く前に図書館に向かう事を決断した。時間に余裕はあっても、無駄にするわけにはいかないとの判断からだ。

 そして、あの世界でも素人相手に自分達のボスが負けた事に衝撃が走っていた。

 ただ、そこはテロリストグループのトップである。敗北を認めつつも、2人への対策は立ててあるらしい。

 その上で、興味を持たれたのである。

 靖之と舞はそんな事とも知らず、目的地である研究室の前に来ていた。




 ――2人が研究室の前で先生に会って少し経った後。


「「ありがとうございました。失礼します」」


 2人は頭を下げて礼を口にすると、ドアを閉めて研究室を後にした。

 まだ、昼休みという事もあるのだろう。電気が点いている部屋も多く、コンビニ帰りと思われる関係者にも多く遭遇した。

 彼らに会釈をしつつ、靖之と舞は小声で言葉を交わす。


「……マークっていうか、紋章だったっけ? イギリスの貴族のヤツに似てるらしいけど、何か事件と繋がりがあるのかしら?」

「当時の貴族と言えば、今とは比べ物にならないレベルの権力を握ってたはず。テロリストが目を付けても、何も不思議じゃない」

「って事は、まさかターゲットになってるとか?」

「いや……いずれ対象に入れる事はあっても、アイツ等は田舎の町を1つ掌握した段階に過ぎない。組織としてもそこまでの規模じゃないだろうし、おそらく違うと思う」

「なるほど……でも、それだと雇われの殺し屋の手帳に紋章が書かれてあるのは変じゃない?」


 決定打には至らなかったとはいえ、情報を得た事に変わりは無いだろう。

 互いに推測し、昨晩の事件の手掛かりを掴もうと言葉を交換する2人。


「確かに、俺もそこには違和感がある。手帳は口封じの際に回収すればいいが、外部に人間の手に渡るリスクもあるからな」

「ええ、現に今私達が持ってるからね」

「動かぬ証拠になる物なんだから、普通はトップと幹部連中だけに留めておくはず。だとするなら、別の目的があるのかもしれない」

「別の目的?」


 手帳をペラペラ捲る靖之に対し、素直に疑問をぶつける舞。

 可能な限り情報を増やそうと、気になった事はすぐに口にするつもりのようだ。


「そう……例えば、何かしらの理由で失敗して警察に実行犯が捕まった時の捜査を攪乱させるとか」

「ああ、自分を貴族の関係者だと思い込ませるってことね?」

「まぁ、1つの可能性だけど。後は偽のテロ計画があって、そのターゲットが紋章の貴族だとか。ただなぁ……正直考えたらキリがないし、手帳の情報だけじゃこれ以上は考えるだけ無駄だと思う」

「そうね……殆どが今回の事件に関する事だったし、実行犯はこの世には既に居ない。紋章の他にも何か解ればよかったけど、残念ながら空振り。ダメ元だとはいえ、ちょっと堪えるわね」


 あくまでも、推論がメインなのだ。

 両人共に歯切れが悪いのは仕方ないだろう。


「……それは、仕方ないって割り切るしかない。生き延びてさえいれば、情報は集まる。今回は、向こうの物を持ち帰る事も出来ると解ったのが最大の収穫。それでいいんじゃないか?」

「……うん、そうね。生きてさえいれば、やり直しはいくらでも出来るもの。お互い、力を合わせて頑張りましょう」

「ああ、もちろんそのつもりさ」


 話に一区切り付いた所で、研究室棟の外に出た2人。

 近く設置された時計に目をやると、3限目が始まる10分前になっていた。


「まだ間に合いそうだし、私は講義に行って来るけど佐山君はどうする?」

「うん……3限目は休むつもりだったけど、今は調べる事もないし。退屈だったら寝るとして、とりあえず講義には顔を出そうかな?」

「OK。じゃあ、そうね……4限目は、入ってる?」

「いや、4限は元々何も入ってないから大丈夫」


 非常事態に陥っているとはいえ、2人の本分はあくまでも学生である。

 3限目は互いに講義に出るとして、その後の予定を話し合うつもりのようだ。


「なるほど。私も入ってないから、終わったらコンビニ前で待ち合わせはどう? 1人じゃ退屈だし、駅前のカフェで時間を潰しましょう」

「いいね。時間的に小腹が空く頃だし」

「じゃあ、終わったらコンビニ前でね」

「了解」


 軽く言葉を重ねると、2人は別々の方向に歩き始めた。

 ただ、靖之はある疑念が頭から離れなかった。


 あれは、確か一昨日だったか?

 あのメデューサの化け物……確か、カリーナって名前だったな。どこの世界から来たかは知らんが、他にも迷い込んだヤツがいるのだろうか?

 もちろん、居ないに越したことはない。

 しかし、確証が無い以上存在すると考えるべきだろう。

 現に、ポーリーでは一方的に叩きのめされたたんだ。実力的には完敗であって、助かったのは単純に運が良かったに過ぎない。

 ただし、次同じ状況になったら確実にアウトだろうな……

 いや、まずは現時点で解っている事を整理しよう。

 1つは、産業革命真っただ中のイギリスに酷似した世界。

 この騒動の舞台であり、俺や奥田さんにとっては悪夢そのもの。正直関わりたくないが、逃げ出せないんだから仕方ない。

 しかもだ。

 地名とか、現実とは似て非なる世界ときてる。

 例の羊皮紙の本といい、まだ何かが隠されているのは間違いないだろう。それが何か解れば、元の生活を取り戻せるはず。

 え~っと……話を戻そう。

 次に2つ目だけど、これは俺達が暮らす世界。

 慣れ親しんだ日常であり、本来いるべき所でもある。本屋であんな本さえ貰わなければ、こんな苦労もしないで済んだんだけど。

 まぁ、愚痴っても何も始まらない。

 昨日図書館の前に現れたガイコツの化け物といい、既に干渉を受けているからな。早く抜け出さないと、取り返しのつかない事態になりかねん。

 それと、前々から気になってたんだ。

 俺と奥田さん以外に、あの世界に飛ばされた人間は居るのか?

 だって、この小さな地域で2人だぞ。本が何冊出回ってるかは知らんが、2冊だけってことはないはず。

 人知れず、苦悩している同士がどこかに居るはず。

 探し出すのが難しいのは、承知している。ただ右も左も解らないんだから、せめて1人でもいいから協力してくれる同士が欲しい。

 いや、『たられば』の話をしても空しいだけだ。

 話を戻して、最後の3つ目にして最も警戒するべき相手。

 そう、あの化け物達が暮らしている世界だ。

 正直、何も解ってないから推測だらけだけど仕方ない。ただ船での会話からして、アイツ等も俺達と同じで飛ばされたタイプのはず。

 こっちの素性もあっさり見破ったし、人間の細かい差も判別出来るみたいだし……

 おそらく、あっちの世界にも人間が存在するのだろう。

 船に乗っていた魚人みたいなのは、マーフォークだったか? タコの化け物も向こう出身だし、他にも紛れ込んでいてもおかしくない。

 例えば、エルフとかドラゴンにドワーフとかファンタジー世界の住人。

 映像越しに見るぶんには楽しめるが、残念ながらこれは現実だ。実際に自分が経験するとなると、厄介この上ない。

 せめて、俺達にも友好的な種族が居ればいいんだけど……

 とにかく、これに関しては情報が少な過ぎる。あのメデューサに再び出くわすのは勘弁として、別のヤツと遭遇しないと話にならない。

 それがいつになるかは解らんけど、頭の片隅には置いておこう。

 全く……まともに寝られないだけで、こんなにストレスになるとは思ってもみなかったな。


 靖之は思わず憂鬱な気分になるが、そうこうしている間に目的地に到着。

 講義が始まる直前とあってか、建物の周りには多くの学生で賑わっていた。


「あ~っ、面倒臭ぇ……授業なんてサボって、遊びに行こうぜ?」

「えーっ、無理だって。だって、俺金ねぇもん」

「ねぇ……今日バイトだから、次の授業代わりに出てくれない? 今度、ランチ奢るから」

「う~んっ、別に……いいけど、今日だけだからね。それから学食じゃなくて、ちゃんとした場所にしてよ?」

「OK、大丈夫! ちゃんと良い写真が撮れるカフェを抑えるから、安心してて」


 ノンキに会話をする学生達を尻目に、そのまま無言で中に入って行く靖之。

 途中で友達に出くわす事もなく、講義のある教室に到着した。


 え~っと……

 この講義の先生は声が小さいから、座るなら1番前の列。ヒマだった時に寝ることも考えると、端っこの方がいいな。

 そうだな……よしっ、あそこにしよう。


 軽く教室を見回すと、最前列の窓際の席を選んで着席。

 数分後に始まる講義に向け、カバンから荷物を取り出している時だった。


「あれっ、佐山君でしょ?」

「え……っ? 吉川さん! 最後に会ったのが3月半ばだから、約3週間か? どこの大学に行くか聞いたけどヒミツの1点張りだったけど、水臭いな」

「へへっ、次会った時に驚かそうと思ってね。まぁ、これも1種のサプライズってやつよ」

「マジでビックリした。まさか、こんな所で会うなんて思ってもみなかったからさ……」


 声の主を確認するなり、反射的に立ち上がって驚きを隠せない靖之。

 一方の吉川さんはウインクをしておどけて見せると、反応を待たずに横の席に座った。


「いや~学校と学部学科まで一緒なのは知ってたけど、同じ講義を受けてるとはね。やっぱり友達が横に居ると落ち着くわ」

「あっ、ああ……確かに」


 再び腰を下ろした靖之に、グイグイ来る吉川さん。

 思わずたじろいでしまうが、構わず話を振って来る。


「あっ、そうそう……今はドタバタして忙しいけど、5月ぐらいになったら落ち着くでしょう? 日曜日に久しぶりに、古本屋巡りでもしようよ」

「えっ? 5月の日曜日……まぁ、夕方までだったら空いてるから大丈夫だけどさ」

「よかった……じゃあ、その時は家まで迎えに行くから。まぁ……まだ先の話だし、細かい話はまたその時にでもね」

「わっ、解った……」


 あっという間に話を進められ、先の休日の予定が埋められる靖之。

 ここで先生が姿を現したので会話は止まるが、言われた本人はそれどころではない。


 いや、マジでビックリした……

 吉川さんがここの大学に通ってる事もそうだけど、こんな性格だったっけ? もっと、大人しいというか落ち着いた感じだったと思うけど。

 まぁ、中学校の時を考えれば明るくなるのは良い事だ。

 これを機に、新しい友達が増えれば更に喜ばしいんだけどな。

 それに、吉川さんとは長い付き合いになる。俺の性格をよく知ってるから、あの話をしてもまともに取り合ってくれるはず。

 いや……

 俺は、それでいいだろう。

 でも、彼女は本とは無関係の人間だ。

 変に話して心配させたくないし、それが原因で何かトラブルに巻き込むかもしれない。それだけは、何としても避けなければ。

 ようやく、前向きになったんだ。

 この笑顔は、何てしても守らなければ。


 靖之が真面目な顔で考え込む中、3限目を告げるベルが鳴り響く。

 気持ちを切り替えて抗議に集中する靖之を、吉川さんはジッと見詰めていた。


――数時間後


「……それで? あの女の子は誰で、靖之とはどういう関係なの?」

「いっ、いや……彼女は吉川陽菜さん。俺の中学時代からの友人であって、それ以上でもそれ以下でもないって散々――」


 露骨に不快感を露わにする舞に、弁明に終始する靖之。

 傍目から見れば痴話ゲンカに見えるかもしれないが、本人にとっては修羅場そのもの。


「友達が、あんな顔をするわけないでしょ? 靖之だって見たでしょ? ベタベタベタベタ、見苦しいったらありゃしない!」

「いっ、いや……久しぶりに会ったから、ホッとしたというか……安心しただけじゃない?」

「そんなわけないでしょ? 何なのよ……っていうか、靖之も靖之よ。付き合ってるわけでもないのに、女を連れて来るってどういう神経してる?」

「だからそれも、断ったけど強引について来たのであって……俺が望んで連れて来たのではないから」


 靖之としては真実を話しているだけだが、舞はその点を完全に無視。

 矢継ぎ早に、トゲのある言葉を投げつける。


「へぇ~っ、それならいいけどね。でも、これは確認だけど……あの事は、あの女に話してないわよね?」

「もちろん。無関係の人間に話しても、無駄にややこしくなるだけだし」

「あっ、そう……随分、お優しいじゃない? 私と話してる時と、対応が違うように見えるけど?」

「まさか……吉川さんとは、あくまでも友人の1人。ただ、それだけの関係なんだから」


 講義が終わって3人でカフェに移動したが、吉川さんがトイレに行くなり舞が爆発した。

 対面から見る限り顔こそいつもと同じながら、目の瞳孔はガン開きの状態。しかも、テーブルの下ではガンガン膝辺りを蹴って来るのだ。

 まさに、浮気を問い詰められる彼氏状態である。

 これがTVとかだったら笑えるのだろうが、今はそれどころではない。やられている側に出来るのは、必死に弁明あるのみだった。

 それを見て、相手は何を感じたのだろうか。


「あっ、そうそう。お互い、命を預ける間柄だからね。名字で呼び合うのも他人行儀だし、たった今から名前呼びにするから」

「えっ、急にどうした? 奥田さんらしく――」

「名前呼びって言ったでしょ? 聞こえなかったの?」

「いっ、いや……ごめん、舞」


 突然の呼び名変更に、困惑を隠せない靖之。

 咄嗟にどう返事をしていいか解らないでいる中、問題の発生源が戻って来た。


「……トイレに行って来るから、荷物持ってて」

「りょっ、了解……」


 軽くカバンを投げて席を立つ舞に、動揺する靖之。

 今すぐにでも逃げ出したい気持ちに駆られていると、戻って来た陽菜が声を掛けて来た。


「彼女、どうしたのかしら? 何か、イライラしてたみたいだけど」

「さぁ……俺にはよく解らない」


 真横の席に座り不思議そうに聞く陽菜に、心底疲れ切った顔で答える靖之。

 言いたい事はあるもののグッと堪えるが、当の本人は至ってマイペース。


「あっ、そうだ……ただ待ってるのもアレだし、頼むメニューだけでも先に決めておかない?」

「……ああ、うん。そうだね」


 キャッキャしながらメニューを開く陽菜に、感情が欠落した顔で答える靖之。

 後に彼は、『あの日ほど女の子が怖いと思ったことはない』と語ったという。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 ジャンルとしては、変則的な転移系ローファンタジーです。

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