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夢国冒険記  作者: 固豆腐
15/70

手帳の中身を求めて

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・今回は長編パート前の日常回(?)です。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

【前回までのあらすじ】

 テロリストグループとの死闘を、どうにか制した靖之達。

 とはいえ、実質的には相打ちの状態である。ダメージも無視出来ず、かつ町は収拾不能なのは明らかだった。

 そこで、苦肉の策ではあるもののミコットが住む教会に避難していた。

 ケガの手当てを受け、更に晩御飯を出して貰う厚遇ぶり。ただシスターから国(特に地方)の現実を聞き、未来が暗い事実を改めて知らされる。

 靖之は苦悩するも、結局答えは出なかった。

 かくして、後味の悪い形で朝を迎えた。




 ――4月18日(木)、午前9時15分頃。


「おいおい、その顔はどうしたんだ? 痛々しいなんて、生易しいもんじゃないぞ?」

「佐山君……私でよかったら、話を聞くよ?」

「酷い事しやがる……俺のダチをこんな姿にするなんて、許せねぇ! 1発ぶん殴って来るから、名前と居場所を教えてくれ」


 靖之は学校に行くなり、顔を合わす友人皆をギョッとさせていた。

 まぁ、それも無理はないだろう。顔面は青アザと打撲の痕でボロボロ、足取りもビッコを引いて真っ直ぐに歩けないのだ。

 打撲・切りキズ・擦りキズのトリプルコンボからの激痛で、表情の維持も出来ない。

 それでも家に引き篭もらなかったのには、それなりの理由があるようだ。


「あっ、佐山君……おはよう。随分痛々しいけど、本当に大丈夫? 辛かったら、無理に今日にしなくてもいいんじゃない?」

「ああ、奥田さん……おはよう。どのみち家に居ても、寝たら意味が無いんだ。それに、今日を逃したら次にいつ会えるか解らないし」

「……そっか。でも、その顔じゃ嫌でも目立つからね。もうすぐ2限目が始まるし、早めに学食でお昼ご飯でも食べて時間を潰さない?」

「確かに。お腹も空いてきたし、ちょうどいい。でも、心配させたみたい……いや、させてゴメン」

「急に畏まらないでよ。私と佐山君の仲じゃない? 気にしなくてもいいって」


 2人はメインストリートで合流すると、立ったまま軽く談笑。

 講義に向かう学生達の波から外れ、学食に向かった。


「おばちゃん。いつも通り肉うどん大で。それから……今日はお腹が空いてるし、チーズチキンカレーも追加しようかな?」

「あいよ! 肉うどん大とチーズチキンカレーね。それで……そっちのべっぴんさんは、どうするよ?」

「べっぴんさんって、そんな……え~っと、私は照り焼きチキン定食のライス大とハムカツのトッピングで」

「あいよ! 照り焼きチキン定食に、ライス大とハムカツのトッピングね。すぐに作るから、レジの所で待ってて」

「「はい、お願いします」」


 慣れた様子で注文を済ませ、トレーを手に取ってそのままレジ前に移動する2人。

 時間が早い事もあり、まだ人もまばらな状態だ。いつもならそこまで気を遣わないが、今はケガの件もある。

 なるべく人の目に触れたくないだけに、ありがたかったのだろう。


 あーっ、まだズキズキする……

 今日はまだ病院に行ってないけど、これ以上酷くなるなら行くしかないだろうな。こんな状態だと、あっちに行った時に奥田さんの足手纏いにしかならん。

 クソッ!

 ただでさえ、腕と脇腹のキズが治ってないのに……

 いや、痛みの原因の大半は打撲のはず。骨に異常が無いなら、1週間ぐらいで完治するだろう。

 あの状況でこの程度で済んだんだから、運が良かったと思うしかない。

 それよりも、気になるのはミコットさんの今後だ。

 シスターも良い人そうだし、住んでいる所に問題は無い。ただ、治安が最悪な上に国の支援が期待出来ないっていうのがなぁ。

 一応手紙は置いて来たら、それから彼女が何か感じ取ってくれたら……

 とにかく、逞しく生きて欲しい。


 靖之なりにアレコレ考えているうちに、注文の品が完成。

 代金を支払い、席に移動しようとするのだが。


「若いっていいわね……まさに、青春してるって感じで」


 唐突なおばちゃんの発言に、首をかしげる2人。

 思わず足を止めるが、当の本人は感慨深そうに頷きながら言葉を続ける。


「年長者として、アドバイスしてあげる。付き合ってる事に新鮮さを感じるのは、今の内よ? 数年もしないうちに飽きて来るし、結婚に至っては忍耐の連続。冷めた恋愛観を拗らせない為にも、ケンカはしておいた方がいいわよ?」

「へっ? いや……僕と彼女は友達であって、別に付き合ってるわけじゃないですから。ねぇ、奥田さん?」

「えっ、ええ……佐山君は大切な友達ですけど、深い仲じゃありませんし。ただ、アドバイスに関しては今後に生かしたいと思います」


 おばちゃんの指摘に、きっぱりと否定する2人。

 ただ、言った本人は別に捉えたらしい。


「いやいや……こう見えて、私だって50年以上生きて来たからね。隠さなくても、2人から出る雰囲気で感じるわよ」

「う~ん、そう言われましても……ねぇ?」

「……ええ、私達は付き合ってないわけですし」


 どうやら、まだ誤解したままのようだ。

 それに対して2人もムキになっても逆効果だと判断したのか、あくまでも冷静に対応。


「そう……じゃあこれ以上詮索しないけど、友達だからってなぁなぁじゃダメよ? 特に彼は無茶しそうだし、いざという時はあなたが止めてあげないと。女がしっかり手綱を握ってないと、男は役に立たないんだから」

「そうですね。本当に無茶しかないですから……特に、彼の場合は」

「はははっ……辛辣なご意見ですが、肝に銘じておきます」


 途中から話が変な方向になりそうになるが、会話はここで終了。

 おばちゃんに軽くお辞儀をして礼を示すと、そのまま席に移動。トレーや器の返却口に近く、尚且つ人目に付き難い奥の壁際に陣取った。

 ここなら、人が増えて来たら非常口から外に出れるからだろう。


「とりあえず、先生が2限目に講義が入ってるのは確認済み。そして、出来れば昼休みに入る前に接触しておきたい。となると、終わる10~15分前に研究室に行けば間に合うはず」

「……そうね。じゃあ移動時間を逆算すると、ここを出るのは20分前の12時ちょうどってところ?」

「それでいいと思う。せっかく、手帳をこっちの世界に持って来れたんだ。俺達みたいな素人が調べるより、専門家に見せるべき。まぁ、正直ダメ元だからあまり期待はしてないけど……」

「それでも、何もしないよりはマシだと思うし……それに、私達がここでウダウダ話しててもラチが開かないからね。ダメだったら、また次の機会を窺えばいいわけだし」


 まずは、この後のスケジュールの確認をする2人。

 ザックリした曖昧な形ではあるが、それ以上の事を決めるには情報が足りなかった。


「確かに。向こうの物をこっちに持って来れるって解っただけ、マシかな? 前回はダメで、今回は大丈夫だった基準は解らないけど……いや、深く考えるのはよそう。今は、自分達に出来る事に集中しないと」

「そうそう、変に考え過ぎてもロクな結果にならないんだから。逃げられない以上、最後に頼れるのは私達2人だけだし」

「……ごもっとも。前々から思ってたけど、開き直った時の女の人の胆の座り方って尋常じゃない。少なくとも、俺には無理だわ」

「いやいや、佐山君の追い詰められた時の開き直りようの方がスゴいんじゃない? 今の私には、あそこまでの覚悟は持ててないだろうし」


 どういうわけか、互いに褒め合う2人。

 変な空気になるも、話の流れで会話は続く。


「でも俺だけならまだしも、友達が死ぬかもしれない状況なんだから。そこで背を向けて生きていけるほど、神経が図太くないだけ。だって、そうじゃない? 生涯十字架を背負って生きて行くなんて、辛過ぎるだろうし」

「本当……佐山君のそういう所を、私も見習いたいわ」

「だから、急にしんみりしなくていいから……ほらっ、話しててもご飯が冷めるだけ。さっさと食べて、話すのはそれからにしよう」

「……うん、そうね。食べられる時に、しっかり食べておかないと」


 急に恥ずかしくなったのか、靖之が強引に話止めると2人は早めのランチを口にした。

 昨晩の事もあるのか、両人揃ってよっぽど空腹だったのだろう。食事の間は一言も発さないまま、黙々と箸を動かした。

 そして、10~15分ほど経っただろうか。


「ふぅ……お腹も膨れたし、図書館辺りで先生に聞く話をまとめる?」

「……あっ、ええ。次、いつ会えるか解らないからね。『後でアレも聞いておけば』って言いたくないし、いいんじゃない?」

「今なら講義中で人も少ないし、ちょうどいいと思う。さすがに、本を探す時間はないだろうけど……」

「入れ違いになってもアレだし、本に関しては別の日でいいんじゃない? それよりも、確実に研究室に来た所を捕まえたいし」


 2人としては、形だけであっても成果が欲しいのだろう。

 万全の準備をするべく、移動を決断した。


「よしっ、そうと決まればさっさと移動しよう」

「了解」


 2人は軽く話をまとめると、食後の会話をすることなく席を立った。

 そしてトレーを返却すると、そのまま食堂を後にした。


 ――同時刻。


「なぁ……ウチのボスが、外国のガキと1対1で戦って負けたって本当なのか? しかも、どっかのスパイとかじゃなくて素人らしいし……あのボスが、だぞ? ちょっと、信じられないんだが」

「ああ、その話なら俺も聞いた……でも、ターゲットは死んだわけだからな? こっちの目的はそれで達成ってことで、いいんだろ? だったら、何の問題もない」


 町はずれの小屋の前で、ヒソヒソと小声で話をする2人の男。

 格好こそ農家に見えるものの、手や顔は汚れ1つなく服も洗濯した状態のまま。これだけでも怪しいが、更に拍車を掛けるのは手に持った銃だろう。

 彼らはカモフラージュする事も忘れ、話に花を咲かせていた。


「いや……そうは言っても、相手は素人のガキだぞ? いくら目的は達成したとしても、目撃者に逃げられた事に変わりはないだろ」

「おいおい……さっきから何回も負けたって連呼してるけど、どうせアレだろ? ボスなりの考えがあって、敢えて負けを演出したとか。じゃあなかったら、今頃俺達は血眼になってガキを探してるはずだろ?」

「まっ、まぁ……それはそうだけどさ。ボスが負けたのがショックっていうか……このまま放置してていいのかな? って、不安になっただけで……」

「いいから、いいから……俺達がそんな心配をしなくても、ボスがなんとかしてくれるさ。だって、あの人が判断に間違ったことなんて1回もないだろう?」


 片方は本気で心配しているようだが、もう片方は淡々と自分の意見を口にするだけ。

 あきらかな温度差を残しつつ、会話は続く。


「……ああ、その通りだ。どんな不可能に思えた事も、ボスは実際にやり遂げて来たからな」

「だったら、今回も信じるんだ。どうせ一週間もしないうちに、身元不明の死体として路地裏に転がってるだろうさ」

「だよな。あ~っ、心配してたけどホッとしたわ」

「はははっ、そうビクビクするなよ。俺達みたいな末端の人間は、ドンと構えて与えられた仕事をしていればいいんだ」

「ボスは、俺達にとっての希望……誰にも邪魔させない」


 散々職務放棄した挙句、勝手に決意を固める男達。

 そこに、噂の張本人が側近達を引き連れて戻って来た。


「……以上の事から、計画は順調に進んでいます。確かに始末し損ねましたが、相手は異国の人間。我が国の政治に影響をもたらすとは、到底思えませんが……それとも、やっぱり探し出しますか?」

「いや……我々がそこまでしなくても、いずれ向こうから姿を見せるはず。決着を付けるのは、その時で十分だ」

「お言葉ですが、相手は素人の旅人。黙ってても、そのうち自分の国に帰るはず。変に意識せず、本来の計画に集中するべきです」

「確かに、お前の言う事も解る。ただ、よく考えてみろ。今この国に、弱者を守る為に自分の命を懸けられる人間がどれだけ居る?」


 こちらも、どうやら意見が一致してないようだ。

 そして、最後のボスの言葉には黙っているわけにはいかないらしい。


「えっ、いや……わっ、我々が居ます! 私達は、ボスに絶対の忠誠を誓った身。いざという時は、命を投げ打ってでも……」

「その結果、我々……いや、1対1で彼に負けたのは私だ。そして、気になるのだ。あの覚悟は、どこから来るのかと」

「でっ、ですが! 確かにボスを1人にした私を含め、幹部にも責任があります。ただ、あれは不意打ちを食らったからであり、覚悟なら我々にもあります!」

「それは解っている……話は、最後まで聞け。私が言いたいのは、彼の戦う動機だ。我々のようなビジョンも無く、立ち向かう。ただ、純粋にその原動力を知りたいだけだ」


 ボスとしては純粋に靖之達の事を知りたいようだが、側近には理解出来ないのだろう。

 だから、返事も曖昧になる。


「はっ、はぁ……そうですか」

「そうだ……他人の為に怒り、他人を守る為に身を盾にする。自分の信念を曲げず、決して引かない覚悟……私は、国を変える為に必要な何かを彼の姿勢に見た。だからこそ、もう1度会いたいのだ。もちろん、再び牙を向けて来るのなら構わない。その時は、確実にこの手で始末するだけだからな」


 ボスはそう言い放つと、僅かに口角を上げた。

 とはいえ、漏れ出る邪悪なオーラを感じ取ったのだろう。周囲の部下達は、一様に押し黙ったまま。

 そのまま小屋の中に入って行くのに対し、そのまま後に続く事しか出来なかった。


 ――その頃、靖之達はというと。


「あれっ? 君達は見ない顔だが、こんな所でどうした?」

「突然、すみません。私は、生物学部生物学科の1回生。佐山靖之です。ちょっと先生にお聞きしたい事があり、失礼とは思いましたが待たせて頂きました」

「同じく、生物学生物学科1回生の奥田舞です。他学部の先生に対して失礼なのは承知していますが、御容赦下さい」


 研究室棟の1室前で、初老の男性に頭を下げて自己紹介する2人。

 声を掛けた側はポカーンとしているが、それは当然の反応だろう。対して、待っていた側は真剣そのもの。

 明確な温度差を生み出しつつ、ただ沈黙だけが続いた。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 ジャンルとしては、変則的な転移系ローファンタジーです。

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