少女はガレキの中で夢を見る(4)
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・今回は、2つ目の長編の4パート目です。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
【前回までのあらすじ】
靖之とミコットは、2人組の殺人犯を倒す事に成功。
持ち物をチェックし、計画的な犯行であった事を突き止めた。とはいえ現地警察は当てに出来ず、自分達で調べる事に。
素人ながらに推理し、町の外れにある教会に目星を付けた。
しかし移動の途中で、謎の爆発が発生。混乱し暴走しかける住民達を尻目に、どうにか目的地に到着。
そこで首謀者らしき集団の会話を盗み聞きするも、肝心な所で発見されてしまう。
絶体絶命のピンチが訪れる中、靖之とミコットの戦いが始まろうとしていた。
――靖之達の存在に気付かれた直後。
「そこに隠れているのは、解っている。どうするかは勝手だが、一応警告だけはしておく。抵抗すれば、容赦はしない」
相手のボスらしき人物の言葉に、固まったまま動けない靖之とミコット。
どう考えても、逃げるのは不可能な状況だろう。そもそも戦おうにも、相手の方が人の数で上回っていて既に警戒している状況である。
絶体絶命のピンチの中、2人はどんなリアクションを見せるのか。
「ほぉ……ようこそ、異国の青年よ。話を聞かれたからには、生かして帰すわけにはいかん。今すぐ消えてもらいたいが、その前に2~3ほど我々の質問に答えてくれ」
「……もし、断ったら?」
「もちろん、すぐに死んでもらう。同じく質問にウソを言ったり、変な動きを見せたりした場合も同様。貴様を生かすも殺すも、我々の気分次第だという事を忘れるなよ?」
「丸腰相手に脅迫とは、趣味が悪いな……」
「褒め言葉として、受け取っておこう」
靖之はミコットに耳打ちをした上で自分だけ姿を現し、反応を窺うことに終始した。
当然ながら、状況は圧倒的に不利である。
ボス1人でも手強そうなのに、傍には3人の側近。しかも全員の手には拳銃が握られ、銃口が向けられている状態だ。
突破口の糸口さえ見えない中、それでも会話は続く。
「さて……前置きも飽きてきたから、本題に入らせてもらう。貴様はどこの誰で、ここに来た目的は?」
「……俺の名前は、佐山靖之。あんたがさっき言った通り、大陸の東にある島国の人間だ。目的は……話しても理解されないだろうから、想像に任せる」
「想像? どうせ、出稼ぎの類だろうが……まぁ、今となってはどうでもいい。次の質問だ。貴様と似た格好をした女は、知り合いだろ? どんな関係だ?」
「知り合い? 大切な友人の1人ではあるけど、今日はまだ会ってないんだ。だから、彼女が何をしているかまでは把握していない」
下手な小細工は逆効果だと考えたらしく、素直に答える靖之。
相手も少しでも情報を引き出したいのか、すぐに始末しようとはしなかった。
「なるほど。では、最後の質問だ。貴様は、この国についてどう思う?」
「えっ? この国って――」
それまで平静を装っていたものの、いきなり最後と聞き動揺を隠せない靖之。
自分の死期が間近に迫っているだけに、脳ミソをフル回転させる。
どっ、どうする?
答えた瞬間、口封じで殺されるのが目に見えてるからな。
だからといって、無言でも結果は同じ。小細工が通用するような相手でもないし、引き伸ばしも無意味だろう。
だからといって、正面から戦いを挑むのも自殺行為。
クソッたれ……
策が全く無いわけじゃない。ただ、成功するかどうかはミコットに掛かってるからな。鍵になるのは、タイミング。
1秒でいいから、ヤツ等の注意を逸らせれば勝機はある。
問題は、その方法なんだけど……
考えてはみたものの、妙案は浮かばなかったようだ。
それでも沈黙を続けるわけにもいかず、渋々ながら口を開く靖之。
「工業化が一気に進み、目覚ましい発展を遂げたように見える。だが、それは都市部だけの話。田舎は置き去りにされ、治安や景気は悪化するだけだろう。そして子供が学校にも行かず、働く現実は常軌を逸しているとしか思えない。しかも、あんた達みたいなテロリストグループまで活動してるからな。まさに、世も末ってやつだ」
「はははっ! 貴様だって、その風貌を見る限りまともな労働者には見えんが? まぁいい……貴様の言う通り、この国は腐っている。いや、浮かれているといった表現の方が正しいだろう。我々はそれを正し、この国を元に戻したいだけ。テロリストのような、上辺だけの正義を振りかざしているつもりはない」
靖之としては苦し紛れの言葉だが、何を思ったのか思ってもみなかった反応だった。
同時に自分達の目的を開陳するも、内容と経緯だけに鵜呑みにはしない。
「元に戻す……帝国主義ってやつか?」
「ほぉ……若いのに、物をよく知ってるな。ますます、このまま生かして帰すわけにはいかんな」
「はぐらかすなよ。その考えは自国には多大な恩恵があるが、奪われる側はどうなる? 数えらないほどの犠牲者を踏み台にして得られる繁栄に、何の意味がある?」
「犠牲者? 弱い者は死に、強い者が生き残る。文化・宗教・人種・価値観……人は解り合えない以上、共存など机上の空論に過ぎん。現に、海を挟んだ先の列強国は領土を広げているではないか。今、この瞬間も」
途中から、互いの主義をぶつけ合う両者。
互いに相手の主張が間違っていると信じているのか、妥協する素振りは無い。
「力で抑え付けた先に待っているのは、血で血を洗う争いだけ。皆平和にみたいなキレイ事を言うつもりはないが、方法を考えるべきじゃないのか? 戦争ばかりじゃ、経済は疲弊するだけだろ? 破綻した先に待っているのは、植民地の一斉蜂起。そうなったら、もう取り返しがつかない。それでもいいのか?」
「貴様は、大陸の東側の人間だ。この辺りの事情に疎いようだから、あの世への餞別に教えてやろう。我が国は、かつて世界の中心だった。それが王族の殺し合いや政治家のバカ共が情勢を見誤った結果、アストゥリアスやヒスパニアに後れを取ってしまった。海外進出に至っては、約100年の遅れ。アメリゴ独立した後は、国が崩壊する寸前まで追い込まれたぐらいだ。産業革命で息を吹き返したとはいえ、まだまだ不十分。腐敗しきった上層部を完全に排除しなければ、かつての栄光は取り戻せない。そう……破壊なくして、再生なし。その過程で生じる犠牲など、祖国の復活に比べたら些細な事よ」
両者一歩も引かず、議論はそのままヒートアップ。
しかし、靖之としては思わぬ恩恵があったようだ。
なるほど……
やっぱり、思っていた通りだ。コイツの話の内容からして、時代背景はヴィクトリア朝時代のイギリスとほぼ一緒。
アストゥリアスとヒスパニアは、ポルトガルとスペインの旧国名だったはず。
アメリゴに至っては、考えるまでも無くアメリカだろう。
こっちの世界と俺の知る世界は、全く一緒ではないと思う。ただこれから先の歴史を考えると、ヤツ等の考えは時代の流れそのもの。
むしろ、自然な事なのかもしれない。
それでも、やっぱり弱者を犠牲にするやり方は間違っていると思う。
しかし、だ……
歴史についてアレコレ考えるのは自由だが、現実問題として殺されかけているんだ。時間稼ぎも、いつか限界が来る。
命乞いが通用する相手ではない以上、どうにかして打開策を見出さなければ。
数秒でいい……
とにかく、ヤツ等の気を引く方法を考えなければ!
普通に会話をしているとはいえ、状況は絶望的。
確実に死刑執行の時が迫る中、それでも沈黙は許されない。完全に詰んだ状態ではあるものの、今靖之に出来る事は1つだけ。
そう、会話の引き伸ばしである。
「邪魔者を1人ずつ排除して、まずは田舎から掌握して行く。一見すると合理的な計画のようだが、それだけでは焼け石に水だろう。都市部に近付くほど、警察の目も厳しくなるからな。いくら国力が落ちたとはいえ、あんた等だけで革命は成功しない。庶民を味方につけられない以上、この勢いもいずれ失速するはずだ」
「失速はしないさ。民衆は、己の利益しか考えてないからな。しかも、弱者だと認めたくない心理を持っている。ヤツ等を操ることなど、造作も無い。憎しみを国外に向け、我々はそれを煽るだけ。自分達は強いと思い込ませ、我が国は列強国の頂点に立つ。産業革命は、その為の大きな武器となるだろう」
独裁者が口にしそうなセリフを、平然と口にする相手。
ただ話に乗って来たのは、靖之にとってはプラス材料である。
「だからこそ、足元を見るべきだ。堅実に内需を伸ばさなければ、不測の事態に備えられない。他国との争いに、必ず勝てるという保障がどこにある? 普通の戦争も経済戦争も、どっちも勝たなければ意味が無いんだぞ? 歴史を作るのは勝者であり、敗者はどんなに正しかろうと服従するしかない。あんた等に、国の……国民の未来を全て背負う覚悟はあるのか?」
「……覚悟か。そんなものは、15年前に全てを奪われたあの日から出来ている。私は、この国を再生する。これまでに志半ばで倒れた同志達の為、我々の考えに賛同する者達を救う為。後の世に暴君と言われようとも、彼らが救われるならそれでも構わない。政治はキレイ事に意味は無く、結果が全てだからな」
思わぬ形で相手の過去に繋がる話が出たが、今は論戦の途中である。
双方共に感情的になっているのか、全く気付かずスルー。
「じゃあ、今どん底の生活をしている人々はどうする? 彼女達も救うというなら、その考え方は違う。大多数を味方につけて、少数を排除すればいいというのか?」
「産業革命とは無縁の、平和ボケの田舎者には解らんさ。だが、世界の植民地化は必然。奪われたくなかったら、自分が奪うしかない。貴様等も、いずれ身をもって知る時が来るだろう」
「解るさ……少し前まで、俺達の国はどん底だった。責任を取らず、何も決められない政治家。甘い言葉で国民を騙し、いざ政権を取ったら実行しない公約。相手を増長させるだけで、国益を一切顧みない外交。だが、俺達はこの売国奴を叩き落とした。選挙という、公平で平和的な手段で。あんた等みたいに、暴力で支配するような野蛮な国とは違う」
「ほぉ……ちょっと前から気になっていたが、貴様は何者なんだ? 10代半ばから20歳辺りだろうが、発言と雰囲気が妙に引っ掛かる。まるで、未来の世界から来たか別の次元の世界から迷い込んだ人間のような……」
靖之の言葉を聞き、何か考え込むような仕草を見せるボス。
周りの幹部がキョトンとするのを無視し、2人だけで会話を続ける。
「……気が変わった。貴様が何者でここに何をしに来たか、是が非でも知りたくなった。我々と一緒に来て貰おう」
「……断ったら?」
「それぐらい、言わなくても解るだろう?」
「クソッたれ……」
今度こそ、完全に詰んだといっていいだろう。
余裕綽々の相手側に対し、追い詰められた靖之。
茂みに隠れたままのミコットは助かるとして、連れて行かれる人間の生存は絶望的だ。もはや、チャンスとかタイミングとか論じている場合ではない。
破れかぶれながら、一発勝負を仕掛けようとした時だった。
遠くで、何か大きな物体が崩れるような爆音が発生。
先程の爆発で炎上していた建物の耐久が、遂に限界を超えたのだろう。大量の砂埃を巻き上げ、綺麗サッパリ姿を消してしまった。
同時に、ボスを含む相手側全員の視線が向いたのを靖之が確認。
彼は、この瞬間をひたすら待っていた。
「……しっ、しまった!」
「えっ? がはっ!」
「野郎……ぶっ殺し――っ!」
まずは、手に握っていた地面の砂をボスの顔面目掛けて投げつける靖之。
続けて隠れていたミコットが立ち上がると、持っていた銃を側近の1人に投げつけた。
双方共に肉体的なダメージは少ないものの、影響は甚大らしい。
まずは、靖之が1人目の側近に急接近すると右フックでテンプル辺りを強打。足元がふらついて意識が無いところで、2人目に向かって手を掴んで投げつける。
銃で反撃しようとしたタイミングで、人が飛んで来たのだ。
当然避けられるわけも無く、まともに衝突してしまい両者共にダウン。残るは、視界の効かないボスと3人目の側近のみ。
幸い近くに固まっていた事もあり、距離を詰めるのは簡単だった。
「こっ、こいつ! いい気に! なるな……っ!」
3人目の側近の放った苦し紛れの右ストレートを軽く躱すと、まずは左ジャブで牽制。
血が上って右フックを繰り出してくるのに対し、カウンターで左フックを叩き込む。こちらは辺りが浅く、掴み掛って来たので右ストレートで止めを刺した。
これで、残すはボス1人。
すぐに片付けようと、振り向くのだが。
「おっと、動くなよ。ちょっとでも動いたら、首の骨を折るからな?」
「……クソッたれが」
ミコットの首と口を抑え、靖之を脅して来るボス。
ここまで上手くいっていただけに、悔しさを隠せないのも無理はないだろう。側近は戦闘不能で悶絶しているだけに、悔やんでも悔やみきれないミスといえる。
ただ、視界は完全に元に戻った訳ではないらしい。
しきりに瞬きをし、真っ赤に充血した眼からは涙が流れ続けている。
勝負を掛けるなら、今しかない。
ジタバタもがくミコットを見ながら、靖之が襲い掛かるタイミングを見計らう。失敗すれば即終了の状況が、5分程続いただろうか。
ボスが口を開こうとした時、それは起こった。
「佐山君、女の子を!」
銃声と聞き覚えのある声がしたかと思うと、ミコット達の足元に着弾。
突然の至近弾に、ボスの手が緩んだのが解ったのだろう。ミコットが、自力で相手の手を振りほどいてエスケープに成功した。
同時に靖之が距離を詰め、逃げ出したミコットを手で受け止め声の主の方に突き放す。
「ちっ……まさか、貴様の仲間がここに来ていたとは驚きだ。しかし、飛んで火に入るなんとやら。探す手間が省けてよかった」
「強がるのはよせよ。こっちは3人の上に、銃を持ってるからな。あんたは1人だけであり、目だってダメージが残ってるだろ?」
「私が、素人相手に押されてるとでも? これぐらい、いいハンデだ。3人まとめて、叩き潰してくれるわ!」
「やってみろよ! 勝つのは俺達だ!」
両者共に啖呵を切ると、そのまま1対1のタイマンが発生。
ミコットと舞が見守る中、男同士の殴り合いが始まった。
「既に、計画は動き始めている。貴様みたいな温室育ちのガキに、邪魔されてたまるか!」
「何を偉そうに! 帝国主義のテロリスト風情が、一丁前に大義や信念を振りかざすんじゃねぇよ!」
「今変わらなければ、この国は亡びるしかない! 民衆の目を覚まさせるのは、自身の痛みと恐怖のみ。それが、何故解らん!」
「今の世界情勢を考えれば、それは自然の考えなのかもしれない。それでも、力と恐怖の政治は改めるべきだ!」
テクニックもクソも無い、ただの殴り合いである。
互いに手の届く距離で、ガムシャラに拳を交わすだけのようだ。
「奴隷制度に、貧しい環境で働かざるを得ない子供達。全員を幸せに出来ない以上、せめて自分達だけでもと考えるのは当然の権利だ。世の中、平等ではない。弱者は死に、強者の糧になるのみ!」
「これだから、ヨーロッパの人間は嫌いなんだ。他者から奪って当たり前? 自分達の正義の為なら、人道から外れた行為も正当化される? なぜ、国民1人1人が団結しようとしない? 辛い時こそ互いに手を取り合い、どん底から這い上がる気概を見せろよ!」
「手を取り合って団結? それこそ、キレイ事だろ? 人は皆、心に獣が住み憑いている。上辺こそ取り繕うが、追い詰められればどうだ? エゴ剥き出しで、他者を攻撃して自分を正当化するだけ。貴様等も、同類よ!」
「俺……いや、俺達は違う! 周りを海に囲まれているとはいえ、もともと災害が多いからな。手を取り合わなければ生きていけないし、子供の頃から助け合いの精神を教えられてきた。弱者を食い物にするあんた等と、一緒にするな!」
靖之も、それなりに波乱万丈な人生を歩んでいる自負があるのだろうか。
周りの人間の存在も忘れて、感情に任せて拳を繰り出す。
「仲間との協力も、つまるところは弱者の発想よ。より強く、より大きい集団こそが勝者。それが出来ないから、身内で肩を震わせて耐えているだけ。弱みを見せれば、漬け込まれるだけだろ?」
「……よその人間から見れば、そう映るかもしれない。だが、俺はそれが人間の美しさだと思う。他者が困っている時は、手を差し伸べる。仲間に危害を加える相手には、決して引かない。その気高き精神を、人は絆と呼ぶんだ!」
「なるほど……では、その絆とやらを証明してみろ」
殴り合いながら、持論をぶつけ合う2人。
互いに引けない理由があるのか、ノーガードで殴り合うのみ。既に出血と腫れに加え、全身で内出血が発生しボロボロの状態。
まともに話す事も困難になりながら、それでもギブアップはしない。
泥臭い戦いが、5分程続いた頃だろうか。
遂に、決着の時が訪れる。
「負けない……俺は……に誓ったんだ! 大切な人を守ると……その為なら、この身が尽きても構わない!」
「……キング・ジョーンズ・ウェイン、皆志半ばで死んでいった。彼ら同志の為にも、ここで止まるわけにはいかない。俺には、この国を変えてみせる。邪魔をする者は、排除するまでよ!」
最後の攻撃は、奇しくも両者共に右ストレート。
そして顔面にクリーンヒットすると、そのまま同時に倒れ込んだ。
「感動のフィナーレと言いたいところだけど、これは映画やドラマじゃないからね。早く逃げないと、手遅れになるわ」
「その女の人とか色々聞きたい事があるけど、今はとにかく逃げないと……そうだ。私がお世話になってる教会なら匿ってくれるだろうし、まずはそこに行きましょう?」
「そっ、そうだな……2人共、ありがとう」
ミコットと舞に両肩を支えられながら、ヨロヨロと立ち上がる靖之。
未だ倒れ込んだままの敵の残し、3人はゆっくりとした足取りながら教会を後にした。
読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。
ジャンルとしては、変則的な転移系ローファンタジーです。
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