路地裏のオルゴール
「変わらないものなどない」
「かならずまた会える」
夢の中で誰かが囁いた。
また乾風が吹く季節になった。
都から郊外に抜けた先にあるアイリスの家は裕福とは言えず、この季節になると北から吹く乾いた風が家の隙間という隙間から入り込んでくる。
収穫祭はついこの間のように思ったが満月に照らされた湖を見て、もう一周月の満ち欠けが終わったのかといつの間にか過ぎていた時間を思い出す。
「パンケーキみたい」
隙間風から身を隠すように隣でくっついてくる弟が呟いた。
「そうね、お隣のナリッサおばさんが焼くパンケーキみたい。ラズベリーのジャムたっぷり塗ったやつ、久しぶりに食べたいなぁ」
「俺はラズベリーじゃなくてアプリコットがいいな。ナリッサおばさんのアプリコットジャムここいらで一番うまいもん」
今年は夏前の大嵐のせいで、ラズベリーもアプリコットも実が小さなうちにダメになってしまった。昨年に作ったジャムはラズベリーもアプリコットも、もう底をついてしまい、次の収穫が待ち遠しいばかりである。
ナリッサおばさんはこの地区で一番のお料理上手だ。湖の魚も森の山菜もおばさんの手にかかればあっという間に食欲をそそる逸品に姿を変える。
「おばさん大丈夫かなぁ」
「お昼に様子を見た時にはまだしんどいって伏せてたわ。次にお医者様がくるのはいつになるのかしらね」
「明日は俺も行く。ナリッサおばさんの家まだ祓いが済んでないだろ。おじさん1人じゃ大変だし、俺手伝うよ」
年越しの前までに済ませる祓いは、冬に北からやってくる悪霊を寄せ付けないように森で一番大きな木の枝を家の玄関に飾るおまじないだ。
元々は家を枝や枯葉で覆って人が住んでいる事を隠す意味合いがあったのだが、今では玄関に枝を飾るだけになっている。




