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92、穏やかなフェル

「姫様は病み上がりなのに外で屍兵と遊んでいてはいけませんよ。」


 そう言われ、部屋に放り込まれた私は、改めてフェルの元に……


 今度こそやっとフェルとの時間が戻って来た。


 抜け道を抜けると暗い部屋だった。


あれ?フェルの部屋じゃあ無い!!


なんだここは!?


どこかで見た広い広い空間。


少し目がなれてきた。石造りの部屋の奥に棺のような物が、


反対側の隅にはがらくたが積みあげてある。


 ここは前にフェルが連れてきてくれた地下室?

相変わらずの暗さで周りが見えにくい。

前に来たときは恐怖の対象だったが、今は置いてある棺も怖くない。

だって大事な私のアレスが眠っていた場所ですから。


 飾ってある絵を見た。


アレスとヴァリアルとフェルとニーナ


どうしてヴァリアルも入ってる絵なんて飾っているんだろう……

この男がアレスとニーナを……


見ていたら怒りがこみ上げる!

ヴァリアルの部分だけ切り取ってしまいたい!!

この部分いらんやろ?


 ニーナの顔を見る。


 あの時焼かれてしまった筈のアレスが無事なのはニーナのお陰なのだろう……


 フェルと同じでアレスの事が大好きだったんだね。


 今なら確信出来る。あの夢は夢でなく実際に起きたことで、何故か私は夢を通して過去を見ていた。


 現在アレスがフェルの所にいるのは……


……フェルがアレスを見つけて隠したからだろう。


 死体の山の焼け跡の中、アレスとニーナを探したのだと想像して身震いした。

 アレスとニーナを失って生き延びる為にフェルはヴァリアルの命令をきいたのかもしれない……

 以前ロイドが言っていた、フェルが屍兵の完成に関わったというのはきっと自分が生き延びてアレスを守るためだったに違いない。


 涙が勝手にでてきた。


フェルはあんなに穏やかなのに、すごい苦しみを抱えていたんだ。

なんて悲しい人なんだろう……


あのあとずっと一人で苦しんできたんだね。何年も、何年も……


初めて会った時のフェルのやつれ具合を思い出して涙が止まらない。


フェル……苦しかったね。大変だったね。

ひとりぼっちでずっとアレスを守ってくれていたんだね。



 私が姫巫女だとしたら何が出来るだろう。

何も出来そうにない私だけど、フェルの力になりたい。


 すると後ろの扉が開いた。


「あれ~リリア? さっき出ていったのにもう来たの~? 早かったね~。驚いた~? 勝手に出口動かしてごめんね~。あのね~この前アレスがメモを握っててね~出口を地下へしろってぇ~忘れちゃってたからさっき動かして……? リリア?」


 フェルが喋りながら入ってきて、私がボロ泣きしているのに気が付いた。


「リリア~どうしたの? お腹いたい?」


フェルが心配そうに聞いてきた。

私は泣きながら首をふる。


「あ、もしかして!ボクがさっき知らない女の子をお茶に誘ったからヤキモチ!? リリアの分のお菓子は出してないよ。」


 私はフェルに抱きついた。

抱きついてめっちゃ泣いた。

フェルはすごく戸惑っていた。


 どうしてこんなに穏やかでいられるのか、ここまでくるのにどれだけ苦しんで、どれだけの時間が必要だったのか。

私には想像も出来ない。


 フェルを困らせるつもりはなかったのだが、私の涙はなかなか止まらなかった。


 その間フェルは、お菓子を出したりおもちゃを出したりしてくれていたが、どうして泣いているのか分からず困っていた。ホントに申し訳ない。

子供ってすぐ泣くから困るよね。(本当は私は大人の筈ですが……)


 最後にフェルは思い付く。


「アレス~、リリアを慰めて~!」


そうだ、アレス!

私はアレスの事を迎えに来たんだった!!


 すると絵が飾ってある反対側の奥で何かが動いた。


アレスだ!!

簡易ベッドが置いてあり、そこで寝ていたようだ。

そんなところにいたのね。私のアレス!!


うわっ格好いい!


まだ暗くてシルエットしか見えてないのにそう思ってしまった。


現金なもので久しぶりのアレスに私はもう泣き止んだ。





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