86、残虐な夢
今回は後半がちょっと重たいお話です。苦手な方はとばしてください。
その後王都に着くまでロイドから聞けた話は、
私が生まれる前にフェルは勇者の魂を呼び戻す儀式を何度も繰り返していたらしい。
当時フェルの助手をしていたロイドはそれを見ていた。しかし何度やっても成功はしなかった。
勇者の魂はまるで帰って来るのを拒んでいるようだったらしい。
そしてロイドはある事件をきっかけでフェルと決別したらしい。
その事は教えてくれなかった。
モーモに行ったことを揉み消すためにひたすら馬車は進んだ。
何とか時間調整出来そうだとロイドが言っていたので一応安心する事にした。
王都にだいぶ近づいた頃、アレスの動きも少し悪くなってきた。
アレスを素顔で王都に入れる事は出来ないのでとりあえず馬車に隠す。
やっと私の所に戻って来た。
夜通しロイドと御者はキツかったでしょ?
お疲れ様。
また図々しくアレスと腕を組んでみる。
ああ、アレスやっぱりかっこいいな~。
横顔を覗きこみ、アレスのイケメンぶりとかわいらしさにうっとり。
黒髪に黒い瞳。この世界には珍しいのか今のところ他で見たことはない。
転生前は珍しくも何ともない髪色と瞳色。
どうしてこんなにアレスに惹かれるんだろう?
日本が恋しいから?
ううん違う。
強いて言うならアレスが恋しい。
アレスに心臓を掴まれて離されない。そんな感じ。
この虚ろな瞳から目が離せなくなる。
そのままアレスにくっつき私は眠ってしまった。
ーーーーーーーーー。
また夢だ。たぶん夢だが……
身体が動かない。
全身が鉛のように重い。
どうしたんだろう。
真っ暗だ。
あ、目を閉じているからか……
でも瞼も重くて開かない。
誰かが泣いている。離れたところから徐々に近づく……
「回復!」
大きな音がした。何かが倒れる音と沢山の足音。
うるさいな~
「回復!回復!!」
誰がこんなに泣いてるの?
「回復!」
さっきからめっちゃ回復してるけど……?なに?
重い、重い瞼。動かない身体。
ああ、もうやだ。この夢早く終わってくれないかな……
「回復!」
泣き声が大きくなった。
また大きな音がした。
うるさい、うるさい! 耳元で泣くな!
まったく誰だよ。
私は根性で目をうっすら開ける事に成功。
赤毛の女の子が泣いている。
この世の終わりのような泣き方だ。
あれ? この子って……
遠くに赤毛の少年が倒れている。
その倒れている少年の回りに兵士が取り囲み動けないように剣や槍を突き立てられていた。
赤毛の少年はぐったりして気を失っているようだ。
ーーーーーーこれは!?
まさかのこの前の夢の続きだ!!
倒れている少年はフェルだ!
泣いている女の子はフェルの双子のニーナだ!
「お前が危険だと言うこともわかっている」
ニーナの後ろに男が立っていた。
王冠を被った栗毛の男が、泣いているニーナの背に槍を向けていた。
そうか、こいつはヴァリアル! 私をチラ見した親父、エターナルの王だ!
「喜べ、またすぐにアレスに会える」
ヴァリアルは無表情でニーナの背に槍を突き刺した。
ニーナから悲鳴があがった!
私の上に覆い被さり倒れるニーナ。
私? これは私じゃない!
勇者だ! 背中に剣が刺さったままの勇者だ!
そう思ったら一気に勇者の身体から意識が離れた。
天上から眺めるような視点になる。
「この者は私を殺そうとした反逆者だ。罪人の死体と共に燃やせ!」
ヴァリアルが冷たく言い放つと、年若い兵士が震えながら言った。
「ヴァリアル様、勇者様はそのような事はなさいません。何かの間違いです!」
別の兵士も泣きながら言った。
「罪人と共にアレス様を燃やすなど私には出来ません!」
「ならばお前達も死ね!」
そう言って二名の兵士が首を跳ねられた。
兵士の首が跳ばされ床に転がる。
「他にもアレスにそそのかされた反逆者はいるか?」
ヴァリアルは回りを見渡す。
その場の兵士達が凍りつく。
「下賤な女から産まれた卑しい人間が王族を名乗りましてや勇者など! アレスは反逆者だ! 良いな! 異論を唱えるものは全て処刑する!!」
兵士達の顔は真っ青だった。誰一人何も言えない。
「その顔は二度と見たくない! すぐに燃やせ!」
アレスとニーナが運ばれる。
そのまま外まで運び出されて、積み上げられた死体の山に放り込まれる。
ニーナの指が動いた。
ニーナはまだ生きている?
しかしもう回復は使えないようだ。
ニーナはアレスを見た。涙が溢れる。
死体の山に火がいくつも放り込まれる。
辺りが燃え始めた。
「アレスを守らなければ……」聞こえないくらいの声でニーナが呟く。
ニーナが祈り始める。
アレスの身体が薄い光に覆われた。




