85、酷い男ロイド
機嫌の悪そうなロイドが立っている。
「あれ~ロイド、御者はいいの?」
なるべく穏便に聞いてみた。
「アレスに任せて来ました。彼は優秀ですよ。彼のお陰で仮眠を取ることも出来そうですが、必要な事だけ話したら戻ります。」
そう言いながらイライラしているのが分かる。
「ロイド、サナおばさんは……」
「その件は後日で、まったく、貴方に関わったせいで今私達は物凄く不味いことになっているんです。ちょっと興味を持ってしまった自分も悪いですが……本当に貴方の事など放っておけば良かった。」
え? それ私に言ってるの? 11歳の子供に向かって何てキツイ事を言う男なんだ。ビックリだよ!
「勇者の剣が抜かれるとあんな派手な事が起きるとは……何人くらいがあれを見てしまったのか……」
「派手なこと……?」
「見てなかったんですか? 天に向かって光の柱が上がったでしょう!? そして空が晴れた。あんなの他の町や村から見えてしまったかもしれない!勇者が復活したか誰かが勇者に選ばれたことが、バレバレになってしまったんです!」
「え~!!」
マジすか……朝もやが晴れたな~くらいにしか思ってなかった。
「肝心の勇者は、復活してないのに……陛下に知られてしまう可能性もある……そうなる前にアレスが完全復活しないと、姫様は詰みになりますね。」
ロイドが溜め息をついた。
私が詰みになるって何だよ。
「そんな訳で、[勇者は復活したかもしれない]でも[我々は関係ない]にしないとなのです。我々はカホイで観光を楽しんだ後、まっすぐ王都に帰った。そう言うことにします。いいですね?」
「は、はい」
あれ? これって味方してくれてるって事だよね……?
「王都に着いたらこの話題は無しです。してはいけません。あと私とマルタが危なくなったら私はすぐに裏切ります。信用しないように」
「それ自分で言う~?」
「当たり前じゃないですか。マルタが1番大事だと言ったでしょう? でもバレなければ少し位手伝ってやらなくもないです。そもそもあれだけ止めたのに姫様は大賢者フェルに会っていたでしょう? 本当に姫様はびっくりするほど図太い!」
けなされているのか、怒られているのか、誉められているのか……
なんだこれ?
そのあと私はフェルにどうやって会っていたのか問い詰められた。
絶対に口を割るものか、人には誰しも内緒にしたい事があるのさ、としらばっくれた。
「頑固ですね。わかりました」
ロイドの深翠の瞳が光った気がした。
え? これって前にあったよね。
私はちょっと気が遠くなる。
「……なるほど、そんな風に道があったんですか。」
は!!?
なんだ今の!
まさか、これか? これがさっきマルタが言ってた魔眼?
「ず、ずるい、今のなにしたの? 酷い! おとなげない! 卑怯!」
私は悪態をついたがもう手遅れらしい。
酷いよ、フェルに何て言えばいいのよ!
「抜け道の先は地下室にした方が安全だと伝えてください」
そう言ってロイドは御者台に戻っていった。




