82、神剣エルシオン
で? ここに何しに来たの?
ロイドは勇者の剣の刺さった台座に足をかけ、剣を抜こうとしていた。
「ふむ、やっぱり抜けませんね」
ロイドが手を離す。
あんた何してるの?
勇者の剣を抜きに来たの?
まさか勇者になりたかったん!?
「フフ、たまに挑戦したがる人がいるのよね。でもアレス様以来誰も抜けないわよ」
サナおばさんが自慢げに言う。
「でしょうね。勇者の可能性を持ったものは全て排除対象ですし……」
なにげに恐ろしげな事をロイドが言う。
「それにしても、リリアちゃん、二人ともカッコいいお兄さんね。王都の人なの?」
ロイドとアレスを見てサナおばさんが嬉しそうに言う。
その時、サナおばさんが「ん?」となった。
ああ、見られちゃいましたね。アレスに若い時に会ったことあるのだったら気がつきますよね……
でもサナおばさんは黙っている。そっくりだけど別人と思ったかな?
そうだよね。ちゃんと生きていればこんなに若い筈ないもんね。
サナおばさんの表情が複雑になっている。
「では普通の人間には抜けない事を確認したので、アレス抜いてくれ」
ロイドがアレスに指示を出す。
普通の人間? 普通の人間代表のつもりですか? ロイドが?
「ロイド、アレスに抜かせるのは無理だよ。だってアレスは……」
死んじゃってるから無理では? と言おうとしてやめた。
「アレス!?」流石にサナおばさんが反応した。
アレスが勇者の剣に手をかける。
「勇者の剣と呼ばれる"神剣エルシオン"。この剣を神の石の台座から引き抜けるのは神に愛される魂であり魔王を打ち砕く存在でなければと聞きます。エルシオンに認められれば抜くことが出来る筈ですが、アレス以降は持ち主が現れない。それは勇者の可能性のある者が密かに消されたからと思っておりましたが、もしかしたら30年前から持ち主が変わっていない可能性もあると思いまして……」
ロイドが真剣な表情で言う。
しかしアレスは握ったまま動かない。
「驚いたわ。本物のアレス様に生き写しね。名前もアレス? もしかして役者さん? でもやっぱり剣は抜けないでしょう?」
サナおばさんが興奮気味に話す。
「駄目か……」
ロイドがポツリと言った。
諦めかけた頃……
アレスが剣をゆっくりと引き抜き、持ち上げた。
周りの朝もやが晴れて明るくなっていく。
勇者の剣を太陽に掲げた。剣が輝き出す。
剣の形状がみるみる変わって行く。
あの夢の中に出てきた勇者のゴツい剣の形状になって行き、徐々に形が安定していった。
これは本物だーーーーーーーーーーーーー!!!
ショボい発言ごめんなさーーーーい!!
「勇者様ーーーーーーーーーーーーーー!!」
叫んだのはサナおばさんだった。
「村の者を呼んできます! ちょっと待ってて!!」
サナおばさんは連れていたモーモを置いたまま走って行ってしまった。
おいおいモーモは?
私はモーモが逃げないようにその辺に結んであげた。
でもサナおばさんの興奮がわからない訳ではない。
やっぱりアレスは勇者だった。
勇者だったというか、今も勇者だ。
私の心はもうワクワクでいっぱいだった。




