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76、優しいマルタ

 お風呂から上がるとロイドがアレスを連れて行き包帯を巻き直してくると言う。


"私が巻く"と言うと、"魔導コアの魔力の流れを見ながら適切に魔包衣独自の巻き方をしないとなので邪魔をしないでくれ"と冷たい言葉で言われた。


「森の中でロイドは治せないって即答してたのに出来るの!?」


「あの場では治せないと言う意味です。それに3、4日位しか持ちません。簡易処置だと思ってください。」


そう言って私を隣の部屋で待つように指示してくる。

不安だ。


「アレスに変なことしないでね。約束して!」


「私がどう変なことすると思うんですか。姫様の願いを叶えようと尽くしているのに。姫様は見ない方が良いですよ。彼の背中の傷はかなりグロいです。」


背中の傷がグロい!?


ちょっとどう言うこと! って言おうとするとシーラとレイラに捕まり隣の部屋で待たされた。


 その間シーラとレイラに見張られる。

 最初マルタもいたが30分位すると何か思い出したように"ちょっと行ってきます"と部屋を出ていく。


 私はアレスが心配でいてもたってもいられない。

ロイドに預けていいのか? ロイドは味方なのか? 本気で協力してくれるのか? もう頭がぐるぐるしてきた。

そして背中の傷がグロい?

もう気になることばかり言うなよ、と思う。


むきーーーーーーーーーーーーーーーー!!


私のイライラがピークになった時、


「もう良いそうですよ」とマルタが顔を出した。


マルタは大きなバスケットに布を被せ持っていた。

そんなこと気にする間もなく、私は大急ぎでアレスのいる部屋へ行き、ドアを開けた。


そこには椅子に座ったアレスがいた。

包帯はしっかり巻き直されている。


離れていた時間は一時間位だが、私はアレスに思いっきり抱きつく。


「アレス、大丈夫? アレス変な事されてない? アレス!!」


「だから変な事とは何ですか? 姫様は私を何だと思ってるんですか?」


不機嫌なロイドが立っていた。


「ロイド、アレス治せた?」


「私に出来る事はしました。これで暫くは以前のように動くでしょうが、私はもう関わらないので次はないですよ」


物凄く不機嫌そうにロイドが答える。


その後ろでマルタがテーブルにさっき持っていたバスケットを下ろし中の物を出し始めていた。


私はアレスの顔を見る。

「アレス、手をあげてみて」


アレスは手をあげた。動きはスムーズだ。


ーーーーーーーー!!


治った!?


凄い、動きがスムーズ、とりあえずは治った! どうして? どうして? 凄い!


ロイド天才じゃない?


さっきまでの不安が一気に消えて、ロイドが凄い人に見えてきた! 疑った自分が恥ずかしい。


「凄いです。お父さん!! 尊敬します!!」


私のテンションはグングン上がる! テンションが上がりすぎてまたロイドがお父さん扱いになる。


「やっと姫様にも私の凄さが分かりましたか」


どや顔で言われた。かなり嬉しそうに見える。


その後ろでマルタがテーブルに置いた小さなお鍋の蓋をあけお椀によそっている。あれ? マルタ、夜食?


そしてお椀にスプーンを入れ、そのスプーンをアレスの口元に運ぶ。


「お腹空いたでしょう? どうぞ」


ーーーーーーーーーーーー!?


そのままアレスの口にスプーンが入る。


ダメーー!!!!

私とロイドが止めようとした状態のまま固まる。


 マルタにはアレスの事を"森で拾った怪我人"と最初に説明した。

その後ロイドとアレスの話をしたり色々不自然な事はあっただろう。

 でもマルタは最初の説明を信じたままだったのだ。

そういえば宿の主人に後で消化の良いものを……とか言っていた。

あれはマルタにとって本気だったのだ!


マルタがあら? どうかした? 的な顔をする。



「……落ち着きましょう姫様、口に入った物は出せば問題ないです」


「そっか、飲み込んだ訳じゃないし……」


急いでアレスの口に手をかけるが……


ゴクン


飲み込んだーーーーーーーーーーーーーーーー!?



死人にメシ食わせたらダメですよね!?












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