70、見なかった事にする
私はすごい声でぎゃん泣きだった。
アレスに駆け寄り泣きついた。
「は? アレス……?」
ロイドが私と、すっ飛ばされたアレスを交互に見る。
「その少年がアレス……"カズクン"ですか?」
答えずにえぐえぐ泣く私をどけ、アレスを抱えてロイドが診る。
「首の骨は折れていないようですね。申し訳ありません。どこかの刺客かと思いました」
「アレス大丈夫なの? ロイドに殴られる前から動きがおかしいの……」
「……この包帯は……おそらく魔包衣ですね。染み込んだ薬草が抜けて結びが緩くなっているせいで魔力を流せないのでしょう。」
「魔包衣……?」
「昔、私の師匠が研究開発していたものです」
おおーっ! そうか、ロイドはフェルの弟子だった。アレスの様子がおかしいのもわかるし、治せるかもしれない! なんて心強い、ロイドがすごく頼もしく見える!
期待を込めて見つめる私の心を察したロイドが直ぐ様口を開く。
「治せませんよ」
さらりと言われた。
「何でこんなモノが起動しているのかわかりませんが、見なかった事にします。さあ、姫様戻りましょう」
え? なにそれ……アレスを置いていく気?
私はさっとアレスに張り付く。
「アレスと一緒じゃなきゃ帰らない!」
油断した! 最近は前より優しくなった気がして私の味方のように考えてしまったが、ロイドは私ではなくエターナル王に仕えているんだ。
私の考えが正しければエターナル王は魔王だ! つまりロイドは魔王に仕えている敵なんだ!! アレスを見せるべきではなかった。鎧を脱がせなければ良かった!
「姫様、マルタも心配しております。帰りましょう」
やれやれという感じで言う。
そうだ、ロイドはこういう奴だった! すっかり忘れていた。
「…………」
私は黙ったままアレスにしがみつき考えた。どうすればアレスを助けられるのか……
王都に戻ってフェルに診てもらうしかない。それには連れて帰らないとなのに……
「……ってやる……」
「は? 姫様何かおっしゃいましたか?」
「マルタに言いつけてやる!」
さんざん考えてもこれしか出てこないとは、我ながら情けない……
でも、ロイドの弱味はマルタしか思いつかない。
「どうぞ、言いつけて下さい。私は気にしませんよ」
ロイドが余裕の笑みを見せる。
ああ、悔しい!! 全然勝ち目がない。でも絶対に私はアレスから離れない!
バサッ!
ロイドが上着を脱いだ。
!? なんだ?
「邪魔ですよ、姫様」と言いながら上着をアレスに着せる。
何してるの? 私はキョトンとした。
「この格好じゃ目立ちますよ。」
え? 連れてってくれるの?
「まあ見られても怪我人を運んだって事に出来そうですが……」
ええ? 助けてくれるの?
「あと姫様、余りアレスの名を大っぴらに言うのはどうかと思いますよ。誰かに聞かれたらどうするんですか? 人前では"カズクン"でしょう?」
「ロイド……知ってるの……?」
「何をですか? 姫様、私は"見なかった事にする"と言いましたよ」




