63、やっと帰れますよ
やっと帰れる!
私は馬車の中で伸びをした。
寒いけれど窓を開け外の景色を覗く。スノウハイランドが遠ざかって小さくなって行く。
馬車に乗る前、シャーロット様が見送りに来てくれた。
昨日ロイドにバッサリだったけれど、めげている様子はない。
シャーロット様、意外にメンタル強いぞ。
「リリア様、なかなか楽しかったですわ。是非また遊びにいらしてちょうだい」
シャーロット様が笑顔で握手してきた。
遊びにって……それは難しいと思うよ。
「はい、ありがとうございます。シャーロット様。機会がありましたら是非」
社交辞令で答えた。
しかし、シャーロット様は嬉しそうな顔をした。
そして私の後ろのロイドに目をやるとロイドに向けて右手を差し出した。
握手?と思ったが手の向きが違っていた。
ロイドは一瞬やれやれと言う表情をした気がするが、シャーロット様の手を取り手の甲にキスをした。
シャーロット様は真っ赤になり瞳がうるうるになった。
そのあと、ロイドの後ろに控えていたマルタに寄り、マルタのほっぺを両手でぎゅうっと引っ張った。
「はうっ」
痛かったのかマルタから声が漏れた。
幼い頃からこれだとマルタも大変だったろう。
そしてシャーロット様は満足そうに
「ごきげんよう。」
と言って笑顔で見送ってくれた。
馬車に乗った後もマルタの頬は赤く痛そうだった。
ロイドが雪を入れた袋でマルタの頬を冷やす。その時小さな声で『あのクソ女…』と言っていたのを私は聴き逃さなかった。
シャーロット様、焼きもちでマルタを攻撃するのが逆効果だと気がついていないのね。
まあ、何とか終わって良かった。着ぐるみウサギも使わずに済んだし、良かった良かった。
私はアレスにぶら下がりながら考えていた。
それにしてもシャーロット様情報でアレスが王子様だとわかった。もともと私の心の王子様だったがまさかの本物だった。
しかも私と同じような境遇だとは……
王子様ついでに思い出したけどロイドも何か王族だったぽいな~。するとマルタはお姫様!?
似合う。何か納得。世が世なら二人とも侍従で使われる事はないのだろう。マルタが意地悪でほっぺを引っ張られることもなかったのだ。
ルカレリアってエターナルの侵攻で滅ぼされたんだっけ?
酷くね?
エターナルって屍兵作ったり、勇者を悪者にしたり、他国を攻めたり、脅したり?ロクな事してないじゃん。
フェルの言っていた言葉を思い出す。
[魔王はね、いるんだ。封印された状態で力はあまり無いけれどいる。]
この"封印されてる魔王"ってやっぱりエターナルの王様……つまり私の父親なんだろうな~?
フェルに話を聞いたときから薄々そうではないかと思っている。
だから勇者を排除しようとしたのでは? と考える。
その時馬車の天井に出ていたロイドが馬車の中に戻ってきた。
少し焦った様子だ。
「……馬車のルートが違う。」
え? どういう事?




