62、シャーロット様の本音
ところがシャーロット様は昨日とは違った。
「リリア様こちらのお茶今日の為に取り寄せましたの。スッキリしたフレーバーでお薦めですのよ。飲んでみてください。」
ーーーー誰だ!!!?
何か昨日と違う。昨日のを見てなかったら"いい人"だと思ってしまうかもしれない。
シャーロット様の侍女が私のカップにお茶を注ぐ。
私は壁際に控えるロイドに目をやった。
お父さんこれは飲んでもいいのでしょうか!?
目で訴えるとロイドがコクリと頷く。
え、飲めって?
コクリ
毒入ってない?
コクリ
そ、そうか、飲むか。
私は恐る恐るカップに口をつけてひとくち飲む。
ぬる!!
何これ!?めちゃくちゃ冷めてる!!
微妙な嫌がらせだな!
「お気に召しました? 昨日リリア様が猫舌とおっしゃっていたので、ぬるめに淹れましたのよ」
ホホホとシャーロット様が優雅に笑う。
ぬるいの通り越して常温だわ!
昨日あんたがマルタにぬるい言ったのと全く違うだろう! そもそも昨日のお茶はぬるくなかった!適温だ!!
表面上今日は大人しそうにしてると思ったら今日はロイドが後ろにいるからか?
ロイドの前では猫被りたいのか!?
あんた旦那いるよね? 他の男を気にするのはヤメロ!
よし旦那の事を聞こう!
「シャーロット様はご結婚されてどれくらいですか?」
「そうね2年くらいかしら。」
「昨日の夜会で王太子様にもお会いしましたがお優しそうな方ですね。」
思ってもいないことを言ってみる。
気の弱そうで貧弱でそうでひょろっとしてますね。とは言えないからね。
「……ええ、そうね。」
シャーロット様は不愉快そうだった。
「昨日、"私が勇者を産むから"とおっしゃっていましたが、お子様のご予定は?」
もう会話がおばちゃんだ。
「…あれは例えで言っただけよ!子供なんて出来ません。勇者がエターナルの王室から出やすいから言っただけよ。」
エターナルの王室から勇者が出やすい? 初耳だ。え? アレスは……?
「あら? その顔、知らなかったの? まあ、今は勇者の話も王宮で出来ないでしょうからね。前の勇者はお父様の弟よ。今では伏せられている話だけど…」
「お、弟?」アレスがエターナル王の弟!?
「私も詳しくは知らないわ。だって生まれる前の話ですもの。お父様が正妃の子供で正当なお世継ぎだったけど、勇者は妾腹の子供……だからお父様に嫉妬してお父様を暗殺しようとしたのよ。」
ばん!!
思わず机を叩いた。
「いきなり何ですの?」
シャーロット様が狼狽える。
「申し訳ありませんシャーロット様、虫がいたようです。」
虫がいても姫は机を叩きません。分かってはいるが、アレスの悪口を聞きたくなかった。
アレスはそんな事をしない! 何故か断言出来る。フェルがあんなに慕っている人だ。悪い人の筈がない!
そして本人がすぐそこにいるのに、こんな話はアレスに聞かせたくない!!
例え本人の意識がなくても!
「私、何かお気にさわる事を言ったかしら? あ、妾腹と言った事かしら?リリア様もそうでしたわね。」
シャーロット様が笑みをうかべる。
「シャーロット様。私やはり気分が優れません……部屋に戻らせて頂きます。」
それを聞いたシャーロット様が何故か焦る。
「リリア様、私、貴方と仲良くなりたくて! せっかくお会いできたのに……」
「は?」
「昨日リリア様と言い合った時、お姉様達とよく喧嘩をしていたのを思い出しましたの。懐かしくも楽しかったですわ。この城に嫁いでから誰も私と真剣に向き合ってくれませんの。皆が私の顔色を伺って、本当の事を言いません! かつては光の王国と言われたエターナルですが、今では屍の国ですもの。屍の国から来た姫だ、と陰口を言われて嫌われ者ですわ。」
シャーロット様は必死に語りだした。
今18歳と言うことは嫁いだのは16歳の時か……大変だったのだろう。
ロイドもシャーロット様は孤独だと言っていた。だからお茶会に出るように促されたんだ。
「その上、私が嫁いだ時につけられた屍兵はたったの50体、でもリリア様は今回1000体の屍兵と共に来るなんて、正妃の子供の私より、リリア様が大事にされているのは変ですわ。ちょっと文句も言いたくなります!」
ああ、この人結構子供だ。
そして50体でも迷惑な屍兵なのに1000体を羨ましがるか?
そもそも1000体の屍連れて来たのはオルゴン准将だよ。私ではない!
「旦那様も怖がっていて、優しくありません。私の理想はロイドでした。マルタが羨ましくて羨ましくて、ルカレリアが滅びなければ私が絶対お嫁に行ったのに! ルカレリアが滅ぼされて連れて来られた男の子はとても美しくて私達姉妹は夢中になりました。姉妹の誰かがロイドと結婚出来ると信じてましたの!」
ロイドさん異世界ハーレムですね。チラッとロイド本人を見たがまるで自分とは関係の無い事のように涼しい顔をしている。
すごいな、ガン無視か。
「マルタが羨ましい…姉弟だったらずっと一緒にいられるのに……」
シャーロット様がしくしく泣き出した。
うーん、なんだこの空気?
気まずいまま時間が過ぎる、シャーロット様もストレスをかなり抱えていたのだろう。
そのまま20分程経っただろうか、シャーロット様も落ち着いてきたようだ。
落ち着いたシャーロット様が一息ついてから立ち上がる。
そしてロイドに向かった。
「ロイド、今の話を聞かれてしまったけど……」
赤くなり今更照れている。
「これで会えなくなると思うので、最後のお願いです。私を抱き締めてほしいの。ぎゅっと……」
照れながらシャーロット様は言う。
「無理です。」
バッサリロイドが切った。
「シャーロット様はこの国の王太子様の正妻です。私のような者が触れていい存在ではないのです。ご自覚をお持ちください。」
さらにバッサリだった。
マルタがぎゅってしてって言った時は直ぐにしてたな……こりゃ恨まれる筈だ。
乙女心バッサリはダメです。もっともっとオブラートに包みましょう。




