60、これが悪役令嬢か
ちょっと沈黙が続いた。
「ふうっ……ちょっとマルタ、突っ立ってないでお茶でも淹れて!」
シャーロット様が椅子に座り喚く。
何だろう、この人…
ここ客間とはいえ今は私のお部屋でしょ?
私に何もなし?
マルタが急いで茶器の用意をし、ポットを取ろうと一歩動こうとした時、シャーロット様がサッと足をひっかけた。
ガタン!マルタが転けた。
は?何してんのこの人!
ポット持ってたらやけどするとこだよ!
て言うか、なぜこんな古典的な嫌がらせをした!?
「やだ、マルタったら相変わらずどんくさいわね~」
シャーロット様が笑う。
お前が足ひっかけたんやん!!
私はベッドから起きてマルタに駆け寄った。
「大丈夫?」
マルタが立ち上がるのを助ける。
「大丈夫です。申し訳ありません、私の不注意です。」
いやいや、間違いなくあの人が足をかけてましたよ。
「シャーロット様。お見舞いありがとうございます。今日は私の体調が悪いので帰っていただけますか?」
私はなるべく冷静にシャーロット様に話してみた。
「あなた今、ベッドから飛び起きて来たじゃない。お元気そうに見えるわよ?」
シャーロット様が皮肉っぽく言う。
うわ~この人悪役令嬢みたいやね。なんなん?
「彼がいると思って来たの。貴方に用はないからお好きに寝ていてちょうだい。彼が帰って来るまで待たせてもらうわ。」
この場合"彼"とはロイドのことか……?
ああ、私の平和な時間だったのに……
つまりシャーロットはロイド目当てで来たのに、留守だから八つ当たり的な事!?
迷惑な!
本当に三姉妹でロイドを取り合ってたの?
なんだロイドの奴、ラノベの主人公かよ!
異世界ハーレムでも作るんか!?
マルタが手と膝を擦りむいたようだが、痛いのを我慢し、お茶を淹れてシャーロット様に出した。
こんな奴に茶なんて出さなくていい!
「ぬるい! マルタはお茶もろくに淹れられないのね~! まあ、そうよね。あんた小さいときから甘やかされてたもんね。ロイドに! こんなお荷物が姉だなんて不幸よね。」
違う!? シャーロット様はロイドが留守でイライラしてるんじゃない、マルタをターゲットにしているんだ! 何かの鬱憤を晴らしに来たのか?
ロイドがマルタだけ大事にしてるから?
でもあんたもう結婚してるよね? この国の王太子に嫁いだんでしょ!?
「お茶がぬるいのは私が猫舌だからです。前もって言っていただければ熱いお茶もご用意出来ますよ。」
私が口を挟む。
マルタを苛めるのは許さない!
しかも相手が言い返せない立場を利用した完全なパワハラじゃないか!
シャーロット様が私を睨む。どうやら敵認定されたようだ。
「マルタは昔から媚びるのが上手なの。よくロゼッタ姉様に味方をして庇ってもらったりしてたわよね~リリアは子供だから分からないでしょうけど?」
シャーロット様がホホホと笑う。
私の何かにスイッチが入った。
「あら、シャーロット様、私の名前覚えてくださったのですね~? 先程から私の部屋に来たのにもかかわらず、私が視界に入ってらっしゃらないから、私の事が分からないのかと……目も悪くて記憶力も無いのかと思いましたわ」
私はホホホっとシャーロット様の真似をした。
物凄く失礼な事を言ったのも分かってはいる。
でもマルタに対しての意地悪を許さない!
シャーロット様がカチンときたのが見ていて分かった。
「生意気な田舎娘! 王宮に入ったのだって最近の癖に!」
「ええ、私王宮で育たなくて良かったですわ。シャーロット様がお姉様だったら私まで忘れっぽい人になってたかも」
もう私は嫌味全開で戦う! マルタを守らなければ!
「たしかに私、田舎育ちだからいろいろ大変な事もありますの。それをマルタが助けてくれるので、優秀なマルタがいて良かったといつも思ってます。でも今日マルタはケガをしてしまったから早く休ませてあげたいと思ってますわ。
ロイドが帰って来たら、二人っきりにしてあげてゆっくりしてもらいます!」
シャーロット様がなに言ってるのこいつ、と言う顔で私を見ている。
ロイドの事が好きならこの嫌味は効果的だろう? どうだ!?
私が小さな姫だと思って何も言い返せないと油断していただろう?
シャーロット様は悔しそうに唇を歪めた。
おそらく貴方に直接文句を言うものはいないから性格が歪んだのだろう……
「たぶんロイドはマルタの傷を見て心を痛めるでしょう。きっと優しく優しく傷を癒すんでしょうね~ふたりきりで!」
更に意味深っぽく言ってみた。
ロイドの事がまだ気になるならこの攻撃はかなり有効だ。
なんだかマルタが恥ずかしそうに真っ赤になっていた。
シャーロット様も赤くなっていたが、こちらは怒りでだ。
どうだ?そろそろ怒って帰れ!
もう、私も嫌みのネタがない……こんなの続かんよ。
「なんて下品な事を言う子なんでしょう! 私、こんな下品な子と一緒にいるのは耐えられませんわ! お前など早く屍だらけのエターナルに帰りなさい! いつか私が勇者を産むから滅ぼされてしまえばいいわ」
勇者を産む? 滅ぼされろ? 仮にも母国でしょうが……
シャーロット様はそのまま勢いよく部屋を去って行った。
嵐は去った。よし!
そこで冷静になる。
……本当に良かったのだろうか……!?
仮にもシャーロット様はこのスノウハイランドの次期王妃。
かなり失礼な態度をとってしまった!
私は自分で自分の意外な一面にも驚いていた。




