54、アレスの名前
昨日は変な夢を見た。本当に夢?
マルタがロイドに噛みつく!?
いくら何でも無いよね?
「おはようございます。姫様。」
「おはよう、ロイド。」
うんいつも通りのロイドだ。
心なしかロイドの顔色が悪い?怪我と疲れのせいだよね?
首筋はピッタリと襟を締めてあるので分からないが、やっぱり夢だよね?
「おはようございます。リリア様」
うん。マルタもいつも通り。笑顔のかわいい美人だ。
なんだったんだろう…夢ではない気がする?
見てはいけないものを見たのだろうか。いや、やっぱり夢だよね?
もう気にするのはやめておこう。そう言う性癖の人かもしれないし……(うわっ言うまいとしていた事が出てしまった。失礼だよ)
今さらだけどあの二人は、姉弟でラブラブなのだから普通の人には分からないラブラブがあっても不思議ではないのかもしれない。
うん。気にしないでおきましょう……
私は暇だったのでついアレスに登ったりぶら下がったりして遊んでいた。
いくら暇とはいえ、イケメン勇者に何をしているのか……
ちょっと前までアレスの素顔を思い出して照れていたが、鎧のアレスに慣れたので、また以前のように接する事が出来るようになった。
しかも、便利! ちょっと届かなくてもアレスがいれば困らない。
移動も抱っこしてもらえば疲れ知らず!
前より雑用で使っているかも……?
「リリア様は本当にその屍戦士が好きなのですね」
アレスにぶら下がる私を見てマルタが言う。
"好き"? 私がアレスを……?
なんだか一気に顔が熱くなった。
「いや、馬車の中で運動不足にならないようにしてただけだよ。別に好きとかそう言うのじゃなくて……」
あわてて言い訳してみる。
「そう言えば姫様、その屍戦士に名前をつけているそうですね」
ロイドが座席の方から顔を出してきた。
「え、えー、? 誰がそんな事を!?」
いつのまにか知られている!?
「キャロルが言っておりました」
キャロル! あいつ内緒にするのじゃなかったのか!
でもキャロルだったら"ロイド様に聞かれたからしゃべっちゃいました"とか平気で言いそう。キャロルに秘密はムリか……
「そっか~キャロルからね……だって呼び名が無いと不便だし……」
ちょっと私、目が泳いでそう。
「その屍戦士の名前はアレスですか?」
うわっもうバレバレですか……キャロルめ!!
「そうです…良い名前でしょ?」
中身が本物の勇者アレスだと気がつかれなければ問題なし! 同じ名前の人なんてきっといくらでもいるさ!
「姫様、以前に少しお話しましたが勇者信仰は禁じられております。"アレス"と言う名は反逆者の勇者の名です。今では子供にその名をつけることも禁じられているので、その名を使うことは好ましく無いのです。どうか別の名をお使い下さい。」
えーーーー!! うちのアレスは反逆者なんかじゃありません。そもそもこの国の方がおかしいじゃん、屍なんか使ってて……勇者は誤解されてるだけじゃない!?
何があったのか今度詳しくフェルに聞かないと!
とにかく、アレスは無実です!絶対立派な子でした!
ーーーーーーーと言ってやりたいが、我慢……。
「別の名前なんて無理だよ。もうこの名前にしちゃってるし……」
「別の名をお考え下さい!」
ロイドがバッサリ言ってくる。
うーー別の名前か……そんな事を言われてもいきなり名前なんて思い付かないし、アレスはアレスで良いじゃん。名前変えたくない。
でもここは丸く納めるために何か適当に……
「……か……かずくん?」
何故かまたこの名前が出てきた。
「カズクン? 変わった名ですね。良いでしょう。その名をお使い下さい。」
ロイドに決定された。
えーーーー!? うちのアレスに変な名をつけてしまった……。
"かずくん" もう黒歴史のように感じる名前だよ。やめよう! もっと違うのを真剣に考えよう!
「カズクンですね。では改めてリリア様を頼みますよ。カズクン」
マルタがアレスに挨拶した。
その名前を定着させようとしてない?
「ダメ! ダメなのその名前!! アレスで! アレスに戻して! 私は絶対アレスって呼ぶし~!」
何が悲しくて前世で振られた相手の名前つけるのよ! あり得ない! 断固拒否!!
「「 カズクンで決まりです! 」」 ロイドとマルタが同時に言う。
うわっこんなとこで息のあった双子パワー見せないで~!




