33、和くん
キャロルにアレスの名前を聞かれた。知る人ぞ知る勇者の名前だ。
気がつかれてはいないと思うが、一応皆の前では呼び方を変えた方がいいかもしれない。
でもアレスはアレスだしな~。
他の名前で呼ぶ?
う~ん。名前…
目を閉じる。
アレスを思い浮かべる。
このカッコいいアレスに他の名前?
カッコいい名前に…
頭の中のアレスが誰かと被る。
その人物は、顔がわからない…
「和くん……。」
突然浮かんだ名前に自分でも驚いた。
「和くんか…。」どうして今さらこんな名前を思い出すのか。胸がぎゅっとなる。
私はもう転生もして別人なのに、今さら何で…苦しい気持ちが込み上げてきた。嫌だ。こんな感情は。
前世の事、いろいろ忘れてきてるのに和くんに失恋したのをいつまでも覚えて引きずっているなんて…
「アレス抱っこ」
私はアレスに抱っこしてもらいアレスにしがみついた。
この苦しい気持ちはいつか消えるのだろうか…
普通は失恋て時間と共に忘れるんだよね?私はたぶん失恋直後に亡くなったから想いが残っているのかもしれない。
いったい、いつまでこの気持ちがあるのか…
忘れようとするのが返って逆効果になっているのかな…
じゃあ、あえて思い出してみる?
確かこんな感じだった。
『俺には小さい頃から夢がある』ってそんな事を言われた気がする。
彼の中で夢と私は両立してもらえなかったんだ。
そして彼の中で夢が勝って、私は負けた。
「アレス~悲しいよ~こんなの思い出したくないよ~。」
思わずアレスに泣きつく。胸が痛い。
”和くん”の事はもう封印だ。私には今アレスがいる。アレスがいいよ。だっていつもそばにいてくれるもん。
おそらく私は鳥の刷り込みのように、この人と決めたらその人しか見えずにただひとりを好きになってしまう。もうそりゃ一途に…
だから前世の和くんを覚えているのかもしれない。もう二度と会えない人なのに…。
でも転生して生まれ変わったんだから、また違う恋をしたい。出来ればちゃんと私を好きになってくれる人がいい。
それまでアレスに甘えさせてもらおう。
そしてアレスはアレスだから名前はこのままでいいや。でもロイドの前では呼ばないようにしよう。




