288、祝福の中の結婚式
大歓声の後、またラファエルが手を挙げると静かになった。
このノリは何だ?
ちょっと待って、これって誓いのキスとかこの大勢の前でやるの!?
こんなの公開処刑じゃん!
恥ずか死にしてしまうよ。
まずいです。どんどん手が震えるよ。足もヤバい。
私ってあがり症かも?
私達ってもう、一度目の世界で結婚式あげてるからしなくても良いんじゃない?
逃げ出したくなってきた。
すると私の手を握るアレスの手に少しだけ力が入った。
アレスを見ると目が合った。
『大丈夫だよ』と言う目で優しく見てくれる。
久しぶりに会ったのが結婚式で、その上久しぶりに目が合ったのがこの場って……
アレスのカッコよさと緊張で倒れそうだよ……
思わずグラリときた所にアレスが私を支えた。
「どうした、リリア、誓いの前に倒れるなよ」
ラファエルが大きい声で言ってきた。
やめて、他の人に聞こえるような音量で言わないで!
早く進めろ! そして早く終わらせよう!
「では、アレス改めナルセ! 神のもと、お互いを敬い、尊重し、感謝し、助け合い、変わらずの愛をリリアの魂に誓いますか?」
アレスが私を見つめた
「誓います」
私を見つめたままアレスの優しい声が響いた。
二度目の誓いだけど感動!!
「では、リリア、貴方はアレスの魂に誓いますか?」
ついに省略して”ナルセ”の名前抜かしてるよ……まあいいけど……
私はアレスを見つめ返す。
「誓います」
私の言葉にアレスが少し頬を染め幸せそうな笑顔を見せた。
その顔を見た瞬間、私の胸はキュンとし彼への愛しさが胸いっぱいに広がった。
さっきまでの恥ずかしさや逃げ出したい気持ちを一気に忘れさせてくれる、そんな笑顔だった。
ああ、やっぱり私は彼が好きなんだ。ずっと変わらず好きなんだ。
「では誓いの口づけを……」
アレスが私を引き寄せそっとキスをした。
一度目の結婚式と違ってすごく短いキスだ。
小鳥の啄むような軽いキス。 ちょっと短すぎて寂しい。
短すぎるのもどうかと思ったが会場は盛り上がっていた。
大歓声と拍手がなりやまない状態だ。
会場のあまりの歓声にラファエルがまた手を挙げた。
ラファエルの静まれという合図に対し歓声が徐々に小さくなり、また静まり返る。
「では二人の誓いを認め二人を夫婦とします。賛成の者はもう一度拍手を!!」
静まり返る会場にラファエルの声は良くとおり会場の者達へと届くと大きな拍手が巻き起こった。
おめでとうと祝いの声が拍手の中から聞こえて、やがてまた拍手と歓声の渦になった。
私とアレスは手を取り合ったまま周りを見渡した。
皆が笑顔だった。
こんなに沢山の人達の祝福を受ける事に驚きを感じた。
私達2人の為にこんなにも祝ってくれる人がいるとは、感動して泣きそうだ。
さっきまでの公開処刑気分から一気に幸せな花嫁さん気分に登り詰めた。
二人きりの結婚式も良かったけど、みんなに祝って貰えるってこんなにも幸せな事なんだね。
お父様もお母様も笑顔で拍手をしてくれていた。
ああ、幸せ、とっても幸せ!
ありがとう皆さん!!
私が感動の号泣に入ろうとした時だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
と、一瞬耳鳴りがした? と思ったら、
私はアレスに抱き抱えられて闘技場の一番高い壁の上に立っていた。
え!? 何が起きた?
何が起きたのかまるで理解出来ないものの、この耳鳴りは以前にも経験したことがあった。
彼が何かしたのか?アレスを見るとアレスがにっと満足そうな笑みを浮かべた。
会場の中心から花嫁花婿が忽然と消えた。
会場内には不穏な空気が流れた。
観客達はが呆然と中央の誰もいない空を見つめ何が起こったのか誰も分からなかった。
しかし我を取り戻した者から徐々にザワザワとしたどよめきが起きる。
会場見渡し私達を見つけた誰かが、上にいるぞ! と叫ぶ。
次々とこちらに気がついた者たちが騒ぎ、会場全体に騒ぎが広がる。
会場の様子をしばらく見ていた私達だったが突然アレスが大きな声で言った。
「ルカレリアの皆さん、お世話になりました。花嫁はいただいて行きます!」
笑顔で叫んだ彼は私を抱えたまま壁から飛び降りた。
声にならない声でビックリした私は先程の多幸感に包まれた感動の涙もすっ飛んでしまった。
私達が地に着く前に何か蒼いものが横からやって来て空中で私達を背にのせた!
モフモフっとした蒼い立て髪の巨大な犬のシルエット。
会場から歓声があがる!
フェンリルさんだ!!
フェンリルさんは私達を背に乗せると会場中央のラファエルに目をやり、ニヤリと笑ったような気がした。
それから闘技場を一周するように走り、ルカレリア城を背に向け一気に走り出す。
お父様とお母様がにこやかに手を振っていた。
フェンリルさんのスピードで瞬く間に15年間育ったルカレリアから離れて行った。
ええ? こんな去りかた!?
私はビックリしすぎて固まってしまった。正気に戻るまで数分はかかった。
荷物は? 住むとこは?
私達ってどこに向かってるの!?
大好きなアレスと一緒だが不安が過ぎった。夢の世界から現実へ戻された気分だ。




