274、フェルの幸せ
別れた後はニーナとは時々手紙のやり取りをしているらしい。
そして前の世界で聞いたニーナと精神が繋がっていたと言うのも、今はどうしたのかちょっと探って聞いてみると、若い時だけで今ではそんなことあり得ないと言って笑っていた。
前の世界のフェルはニーナが亡くなった後も繋がっていたのに……あの状態はやはりかなりの異常な状態だったのだろう。
今ここにいるフェルが本来のフェルで、本来のフェルに戻れて良かったのだ。
それからフェルがこの国に来るまでの事を聞いた。
ニーナと離れてすぐにフェルはヴァリアルと再会したと言うのだ。
ヴァリアルはそれなりに腕の立つ男だったので護衛等をしてお金を稼いだりしていたこともあったらしいが、再会した時には酒場で働く女性の完全にヒモのような生活をしていたそうだ。
すっかり落ちぶれてだらけた生活のヴァリアルだったが、ちゃっかり娘が3人いたそうだ。
娘が3人?
元気でやんちゃな娘さん達だったそうだ。
その3人の娘とは……まさかあの姉姫三姉妹!?
確認は出来ないが平民として産まれた?
あれ?
私ってもしチビリルについて行かなかったら、そのヤバそうな所に産まれていた?
うわー可能性あるなあ……。良かった。マルタから産まれて……
危なかったわ……ふう。考えたけでヤバそうだよ。
それでこのままではいけないと、ヴァリアルを引っ張って当時人材募集を開始していたルカレリアで一旗あげさせるために来たそうだ。
そこで兵士として雇ってもらいヴァリアルには家族を呼び寄せさせれば良いと思ったそうだが、ひと月後にはヴァリアルはいなくなってしまったそうだ。
つまり嫌になって逃げたと……
もともと我儘に育った王子さまだ。
宮仕えは無理だったのだろう……
フェルも学者として採用されて1ヶ月だったがヴァリアルを追うために辞めて行くしかないと思ったところ、不思議とアレスの最後の言葉を思い出したそうだ。
『自分の人生をおくってくれ』
そうだ。どう生きようとヴァリアルにはヴァリアルの人生が、自分にも自分の人生があるんだ。自分の人生を大事にしよう……
そしてルカレリアに残って私達の先生になったそうだ。
良かった……ヴァリアルを追っていたら、また他人のために30年とか使ってしまったかもしれない……
セーフだ、良かった。
私もダメ親父の所に産まれずにセーフだ。
そしてフェルに関して一番気になるのは……
「バーン先生は今幸せですか?」
「え? 唐突だね……勿論幸せだよ」
フェルが笑って答えてくれた。
あの顔色が悪くてフラフラのフェルが幸せになって健康そうに暮らしている……良かった。本当に良かった。
そういえば、あれだけ前の世界でアレスに執着をみせていたのにアレスを探そうとは思わなかったんだな……
それも遠回しに聞いてみた。
するとアレスが空間の裂け目に入ってしまったのを見ているから、此処にはいないと思う……と答えた。
そしてアレスはとても魅力的な人だったと語ってくれた。
フェルにとってはアレスは完全に過去の人物で、もう異常な執着相手ではないようだ。
話を聞かせてくれたことにお礼を言ってラファエルと先生の部屋を出た。
フェルが幸せで良かった。ニーナも幸せで良かった。
私は胸が温かくなった。
でもフェルは結局結婚しなかったんだね、とラファエルに言うと……
「え、結婚……て言うか……フェルにはパートナーいるよ……知らなかったんだ……」
「ラファエル知ってるの!? 良かった! フェルにもお相手がいたんだね。どんな人? 誰?」
「お城のコック長のザック」
ん? コック長って確か男の人……?
「………」
「どうした? リリア……」
「な、なんでもないよ……」
そうか、やっぱりフェルはそっちの人だったのか……
……でもフェルが幸せならいいじゃない!!
パートナーにも出会えて良かったね。フェル!




