26、美しいマルタ
ロイドは、私を見て固まっていた。
それから、ボサボサの髪をかきあげて
「このような処に、どうされましたか?姫様」
冷たい瞳が私を見据えた。
うわーーーっ怒ってそう。ロイドには"かわいい子供"パワーも効かないし困る。
しかもなんか顔色悪くて疲れているっぽいし、髪型のせいか、いつもと違うロイドだよ。
でも前髪おろしていた方がいつもの七三よりずっと好感が持てる(持たないけど)かっこよく見えるかも?
勿論アレスの方がイケメン。アレス最高~!
そういえばこの前、温室でロイドは私の事を"いつかいなくなる子"だって言ってたな。聞いたら教えてくれるかな?
ーーーロイドを見上げてみる。
ーーー怖っ!!
何も答えない私に相当イライラしているのが、めちゃめちゃ顔に出ていた。
鬼、鬼がいる。
「え…えっと、マルタ具合悪いって聞いて…」
慌てて答える。
「エリザか…」
ボソッとロイドが呟いた。
まずい!エリザが怒られちゃう?
その時ドアとロイドの隙間から奥のベッドで眠るマルタが見えた。
肌の白いマルタが更に蒼白く見える。
やっぱりマルタは具合が悪いんだ!
そう思った私は思わず隙間から部屋に入り込み、マルタに駆け寄った。
「マルタ!大丈夫?」
近づいて見ると、本当に顔色が蒼く見える。生きているのか心配になるくらい。呼吸はしているのか?
肩に触れてみる。冷たい。
「マルタ!マルタ!!」
私は思わず叫んでマルタの肩を揺さぶる。
ロイドが私に近づき、遮ろうとした。
「姫様、使用人の部屋でも勝手に入るのは…」
すると私がマルタに触れていたところが弱く光った気がした。
マルタの指が動いた。
「ん?…」声がもれる。
マルタがゆっくりと目を開けた。
「…リリア様?…?どうされました?」
マルタが起き上がる。いつものお団子の髪型ではなく髪をほどいているマルタは本物のお姫様のようだった。艶のある金色の髪が腰まである長さだ。
「まあ、ロイド。リリア様の前でその格好は何?シャツをちゃんと着てボタンを締めないと…」
ロイドのシャツを直すつもりだったのか、ロイドに寄ろうと立ち上がる。
ーーはらりっ
マルタに掛けてあったシーツが落ちた。
「あ、」
マルタは服を着ていなかった。美しい白い肌が見えた。
「も、申し訳ありません、私までこんな…」
マルタが慌ててシーツを自分の身体に巻く。
顔色は先程と変わって頬が薔薇色になっていた。
「きゃっ」
その上からロイドが抱きつく。
「良かった、良かった…ずっと…ずっと目覚めないから……もう元に戻らないのかと…」
マルタを抱きしめたまま頬にキスをした。
おい…?これはお子様が見ても良いやつ?
「ダメよ、リリア様の前で、ごめんなさいリリア様。」
マルタが真っ赤になっておろおろし始めるが、ロイドが手を放さない。お前誰だ!と言うくらい優しい顔をしてマルタを見つめる。それをマルタが見つめ返し小さな声で「ごめんなさい」とロイドに言い頬にキスをした。
おいおい…
「……マルタが元気になったのなら良いの。じゃ…じゃあ、あの、あとは、若いお二人でごゆっくりどうぞ…」
これはもう、よく分からないけど"ヤバカップル"がいちゃつき出したので間違いなく私がお邪魔虫だ。
早々に退散しなければ…
それに部屋の前で待たせているアレスをロイドに見せたくないし…。
部屋を出るところで、部屋のすみにビリビリに破けたメイド服がゴミ箱に突っ込んであるのが見えた。赤黒い大きな染みもついている。
ブドウジュースでもこぼしたん?
そのまま部屋をでて、扉が締まる寸前…
「ありがとう。リリア様」
…ロイドの声が聞こえた。
ーーーーーーー幻聴?




