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262、勇者の呪い

 30分ほどでアレスは戻って来た。


「ひとりにして、ごめん、リリア」


 そう言って微笑むアレスの顔はどこか辛そうだった。


近づいて私を抱き抱えようとするアレス。


「ちょっと待って! アレス」

私はアレスと距離をとる。


「え……? どうしたの? ……あ、俺……死体触ったから……? 子供達の遺体を埋めてきた。でも手は洗ってきたよ……」


「違うの! 私吐いちゃって汚いの! どこか洗うところを……」


「……そんなの……大丈夫だよ」


 アレスは悲しそうな表情のまま私を抱き抱えた。


「リリアに嫌われたかと思った……良かった……」


そう言って私を抱き締める。


「具合悪いの? 離れちゃってごめん。近くに水場があるから寄っていこう」


 廃墟のような建物の中、噴水だった物が崩れていて、そこから綺麗な水が流れていた。


エターナルは水が豊富で助かった。


私は口をゆすぎ、スカートの汚れを洗った。


 濡れているが大丈夫だろう。



 カラン……

小石の転がるような音がした。


 振りかえるとさっき追いかけられて逃げていた子供が立っていた。

6~7歳の男の子のようだ。

あちこちを擦りむき傷だらけで痩せ細っている。

身なりもかなり汚れていた。孤児のようだ。



 何か言いたそうにもじもじしている。


私とアレスは無言で彼が何か言うのを待った。


「助けてくれて……ありがとう……」


小さい声だが確かにそう言った。


 更に何か言いたそうにもじもじしている……


「あの……友達を埋めてくれて……ありがとう……」


さっきより少し大きな声で言った。



「いや……いいんだよ。間に合わなくてごめんね」

アレスが優しく言った。



「あの……俺……前にじいちゃんから聞いた事があって……あの……お兄ちゃんは……もしかして勇者なの?」


 勇者信仰は廃れた筈だが、この男の子は『勇者』を知っているようだ。年寄りが口伝で伝えていたのだろう。

先程までの死んだような目と異なり男の子の瞳が期待に溢れている。


「そうだよ。俺は勇者だよ! 魔王を倒すために遠い世界から来たんだ」


「本当!? この国を助けにきたの? だからさっきの悪いやつらも倒してくれたんだね! あいつら時々ここに来て仲間を殺していったんだ」


「うん、助けに来たんだ」


「本当に? 本当に勇者様?」

男の子の瞳には希望の光が差している。

勇者やはり人々に希望を与える存在。


 アレスが男の子に近づいて頭に手をのせた。男の子の傷が治った。怪我をする前の状態にしたようだ。


 驚く男の子、でも次の瞬間その瞳には憎しみの光が宿っていた。


「どうしてもっと早く来てくれなかったの? 俺の妹は殺されちゃったんだよ」



 不意打ちで心臓を捕まれた気分だった。

助けてあげてもこの子はきっと一人ぼっちなんだ!



「うん、ごめんよ……お兄ちゃんは魔王を倒しに行くから、じゃあね」


 アレスは私を抱えて逃げるように足早に立ち去った。


屋根の上に跳躍し走る。

私を抱え無言で走るアレス。

先程の男の子のがいた場所からかなり離れたら区画まで来た時、急にアレスが止まった。


「こんな気休めしか言えないなんて……あの子は救われない……」


アレスが膝をつく。


 アレスの表情が苦しそうだった。

助けた者にも"遅い"と責められるのはおそらく初めてではないのだろう……

 あの男の子は素直な気持ちを言っただけの事だ。


 アレスの苦しみを救うのは世界を救うしかないのか


アレスを楽にしてあげなければ……

私の大事なアレス。

どうか苦しまないで


「アレス……私、今日ロイド達とカホイに向かうね」

自分の声じゃないみたいに声が震えた。


「え?」


「だからアレスは過去に向かって」


「……リリアと離れたくない……」


「私も本当は離れたくないよ。でもさ、勇者の嫁だもん。ここは私の我慢するべき所かなって……」


涙がぼろぼろこぼれてきた。唇が震えて上手く喋れない。

でもアレスに伝えなければ……


アレスが私を抱き締める。



 この人を……アレスを助けたい。

ちゃんと彼の背中を押してあげなければ


「過去で魔王を完全消滅させてさ、今会ったような子供のいない世界にしてあげようよ。それでね、勇者の呪いを解こうよ」


「勇者の……呪い?」


「うん。転生までしたのに呼び戻されて働かされるなんてとんでもないブラックな職業だよ。魔王が完全消滅したらもう勇者は要らなくなるよね? そしたらアレスは自由だよ?」


「自由……?」


「次の勇者も生まれなくなるでしょ? その方がいいよ。もう誰にもアレスの苦しみを味合わせたらダメだよ」


「リリア……」


「ずっとひとりで苦しかったね。和くんの時は分かってあげられなくてごめんね。もう終わりにしちゃおうよ。アレス」


 アレスの瞳からも一筋の涙が流れた。


「大丈夫だよ。私はタイミング抜群な勇者の嫁だよ。きっときっと会えるよ。だってアレスが私を探してくれるんでしょ?」


「探す……探すよ」


 私達は泣きながら抱き合った。


大丈夫、きっとアレスが探してくれる。


「君がどんな姿に変わっていてもどんなに時間が流れても必ず君を探し出すよ」

アレスの声が涙声だった。私の名前を何度も呼び抱き締める。

リリアの他に柚子の名前も入っているが前世と現世両方愛されてるなんて私は幸せな女の子だね。



 勇者なんていらない。


 優しいアレスが優しいままでいられる世界がいい。


 大好きなアレスを勇者から解放してあげたかった。

誰にもわかってもらえないアレスの苦しみを少しでも分かち合いたかった。



 離れても大好きだよ。アレス。







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