261、アレスと和くんの差
「何言ってんだこいつ? そんなのいちいち覚えてるわけないだろう? 数えきれないからな!」
「いくら強くたって俺たち二人がかりで仕留めてやるよ!」
すぐに仕掛けて来ないアレスに油断したのか兵士達がアレスに対して剣を構え振りかざした。
アレスはそれをゆっくりと避ける。
「さっき5人目どうとか言ってたな? 今日殺したのは5人でいいか?」
アレスが質問をする。
「はあ? さっき逃げたのが5人目だから今日はまだ4人だ。バーカ」
そう言ったトカゲ隊長は身体が4つに切られていた。
本人も切られた事に気がつかない早さだったようだ。
「あとは数えきれない……だったな?」
4つに切られた身体は更に無数の肉片にされた。
「ぎゃあーーーーー!!」
それを見た獣の兵士が逃げようとしたが前に進まなかった。
獣兵士の両足はもうなかった。
「お前は三等分の後、刻んでやるよ」
アレスはゆっくり近付く。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、お前は何者だ! こんなことして……ぶはっ!!」
そのまま獣兵士も肉片となった。
「お前らは泣く子供に待ったことないだろう……」
アレスがロイドみたいな事をした!!
あの和くんが!?
アレスが近くに倒れたままの子供の遺体を抱き抱えた。
「リリア、すぐに戻る。待ってて」
屋根の上に向かってアレスが叫び子供を抱えたままいなくなった。
アレスがいなくなった後、私は気持ちが悪くなり吐いた。
距離が離れていたお陰で血の臭いは届かなかったが私には衝撃すぎた。
何だか目眩もする。
ロイドはもともと危ない奴だと思っていたから残虐なところは仕方ないような気がしていた。
でもこれは私の知っている和くんのすることではない……!!
これは……フェルの言っていたアレスの方なのかもしれない。
私も柚子とリリアで違うところがあるのだろうか?
いや……たぶんない気がする。
私はどちらも幸せに育ったからだ。
和くんとアレスの違いがあるとしたら育ち方だ。
和くんはもともとアレスだったんだから、言い方は悪いが和くんの方が平和な世界で暮らすのに猫を被った姿だったのかもしれない。
アレスはもともとああいう人?
魔族をいっぱい殺してきた勇者だもん。ゲームではない殺戮の世界にいた人。
そう考えるのが自然かもしれない……
私と和くんの育った日本は平和だった。平和な世界でもそれなりの苦労はあるし大変な事もあった。
だが彼は平和な世界で生活することに慣れてしまった。
本来は優しい人で平和な世界では優しいままいられたのかもしれない。
それが和くんだったんだ。
"人の顔色を伺う"ロイドが言った言葉だが、和くんとして身につけた事だったのかもしれない。
本来のアレスは残虐性を持った、持たざるを得なかった人だった。
今のでそのアレスが目覚めてしまったのではないだろうか。
『アレスを信じてあげて』
『アレスを責めるのは気の毒……』
ロイドの眼を取った時に言われたフェルとロイドの言葉……
そうだ信じよう……私が信じなくては……
私は彼と結婚したんだ。
アレスも和くんも私の大切な人なのだから……
私がアレスの支えになってあげなければ……




