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254、独り占めしていたい

 その夜私とアレスは抱き合ったまま眠った。


眠るまでの間、いっぱいお喋りをした。


 前世でおいしかったスイーツの話や、行ってみたかったお店。

学校での話や生まれ変わってからの事も、

 色々話しているうちにアレスがおじいちゃんの話で何故か笑いだした。

「そう言えばリリアってバルクの孫だもんね(笑)」

おじいちゃんとアレスは知り合いだったね。

 でも何で(笑)?

それからアレスはおじいちゃんの若い時の豪快な話をしてくれた。

おじいちゃんが色々やらかしている人だと思った。

 私のお母さんと王都を去る時に勇者の像と勇者の剣を台座ごと持ち去るくらいの人だ。豪快で愉快な人だ。頼りになるおじいちゃんだった。

「彼はとてもいい人だった。君を育ててくれたバルクには感謝だ」


 色々話したがアレスと私の結びつきは強くなっただろうか?


そして気になっている事のひとつを口にした。


「私がまたリリアとして産まれたとして……アレスは32年前に戻ったら歳の差が大きくなる……

49歳と12歳……ヤバイ……それ離れ過ぎ!

やっぱり今ぐらいがいいよ。

それに49歳までアレスがひとりになってしまう。それは嫌!

でも他に好きな人が出来てしまったらもっと嫌だ!!

私がもっと早くに生まれないとだよ……

早く産まれる方法ってある?」


「実はね。クロノスとの話では俺がもし時間を戻してやり直しの世界を作るのは代償を払うことになっている。人ひとり位は問題ないが世界丸ごとだとね……それなりの支払いをしないとだ」


「代償払うの!?」


「さすがに世界の改変だからね……」


世界の改変! そりゃそうなのか……でもひどい!! アレスばかりが犠牲になるんじゃやりきれない!

勇者の責任重すぎない!?


「たいした事じゃないんだ……俺が戻す時間の分を眠りにつく予定だから……ただその間リリアを探しに行けなくなるのが心配なだけで……」


 アレスは行きたくもないのに、やりたくもないのに代償まで支払わされる!


「それはひどいよ!」


「泣かないでリリア、目覚めたら真っ先に君を探しに行く。だから生まれ変わるのはゆっくりでいいと思う。君がどこにいてもきっと見つける。絶対に!」


 せっかくアレスと結婚出来ても結婚生活はお預け? 生まれ変ってから新婚生活ですよって酷くない?

私はアレスにしがみついてぎゅうっとした。


離れたくないよ、離れたくないよ、


 くっついて泣く私をアレスが優しく撫でてくれた。

撫でてくれるアレスの手がとても心地良かった。

 ああ、この人が大好き。ずっと一緒にいられたらどんなに幸せだろう……ずっとその手の中にいたい。


 そのまま私は段々瞼が重くなっていった。

その様子をアレスが優しい瞳で見つめてくれていた。


 完全に私の意識が眠りに入る頃アレスが呟いた。

「俺と結婚してくれてありがとうリリア。今君とこうしていられるだけで俺は凄く幸せだ」



◇◇◇◇◇◇



 私は色々な夢を見た。

この世界にまた生まれるのか、柚子になって和くんのいない世界で生きるのか、そんな不安を形にしたような夢だった気がする。


 目が覚めると夢の内容はよく思い出せなかった。ただ不安だけが残った。




 ふと隣を見るとアレスが小さく寝息をたてて眠っていた。





!!


思わずガン見した。


息……してますよ……

息をしているのが嬉しい!!


か、かわいい……!!

アレスってなんでこんなにかわいいの?


ガン見しながら何だかテレる。


 私はこの人の奥さんだ!


ああ、アレスが大好き! もう見てると触りたくて撫でまわしたい感じ?


こんなイケメンと結婚出来る事自体私の中の奇跡だ。



 でも眠るアレスを見てふと心が痛む。

こんなにガン見しても眠っている。

彼はとても疲れていたのではないか?


ちょっと心配になる。


 もしかして『普通に眠る』のって久しぶりなの?


 そういえば彼は今までちゃんと休めていたのだろうか?

彼が復活出来てから数日……

屍戦士の時も含めてアレスに休める時があったのか……

そんな事を思う。


 彼と一緒にいたい。

でも彼が安心して休める世界にもなって欲しいと思う。


 彼と離れたくない!!


このままずっと一緒にいて

ずっとずっとアレスを独り占めしていたい。


 みんなの勇者じゃない!

私だけの勇者になって欲しい!


でもそれはきっとこのままでは無理なんだ。


私のワガママな願いではきっと彼がゆっくり休める世界にはならない……


私はいったいどうしたらいいのだろう












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