244、君はどうしたい?
フェルが戻って来た。
アレスが笑っている姿を見て
「あー良かった! やっぱりリリアはアレスを笑わせる天才だね」
フェルも笑う。
え? 何? まさかアレスの所に行くようにって言ったのはアレスを笑わせるため?
話を聞く為じゃなかった?
「アレス良かったね? だいぶ楽になったんじゃない?」
「ああ、フェル、確かに……すごい楽になった」
なんなの? と思っていると……
「笑うと精神力の回復になるんだよ」フェルが教えてくれる。
だからアレスを笑わせろと?
「フェル、ロイドは?」
「大丈夫だよ、彼丈夫だしね」
良かった。
「義眼てどんなの入れたの? ちゃんとロイドのキレイさを生かせた感じになったかな?」
「そうだね……どうだろう……? リリア、ロイくんにキレイとかって言ったの?」
「キレイ? 言ったと思うよ? だって綺麗な人だもん」
マルタもキレイだけどロイドもキレイ。
以前だったら絶対に言わないけど今ならロイドの美しさもわかる。
でもアラサーの男の人にキレイって誉めるのは変か……
「うーん、あまり本人に言わない方がいいよ。その言葉嫌いみたいだから?」
「そうだったの? 誉め言葉でもダメかな?」
「ロイくんはね、そう言って触ってくる女性達が大嫌いだからね。子供の時から嫌悪の対象らしいよ」
うわ、マジで!? 綺麗な人って大変ね。
「まあ、リリアなら大丈夫かな?」
どういう意味だろう……子供だから?
「じゃあボク、コアに魔力を込めてくるね。リリア、ごゆっくり」
そう言ってフェルが行こうとすると
「そんなに急がなくていいよ、フェルも休んで」
アレスが止めた。
フェルが首を横にふる。
「もう少しで完成だから……心配しないで……それにもう少しでボクの夢が叶うなら全然苦にならないよ」
そう言って、フェルは奥に行ってしまった。
アレスがため息をついた。
アレスの悩みはフェルの事だったかな?
夢が叶うって何?
するとさっきまでぷるるんと遊んでいたチビリルがいつの間にか足元に来ていた。
「アレスー俺さー、もうそろそろ戻った方がいいの?」
チビリルの尻尾がへこんでいる。
耳までペチャンコだ。
何をへこんでいるのか分からないが、かわいい仔犬がショボくれる姿は思わず抱き締めたくなる愛らしさだ。
どうしたチビリル?いつも元気なのに、
ぎゅうーーーーーーーー!
「く、苦しい、リリアやめて……」
は! 無意識にチビリルを抱き締めていた。
モフモフの魅力。
それを見てまたツボったアレスがまた笑っている。
ちょっと恥ずかしい。
でもほら、アレスの回復に繋がるなら良いことだよね。
「もう! 邪魔するなよ! リリアって何するかわかんないから怖いよ!」
チビリルに怒られた。
何するかわかんない? 失礼ね。そんなことは無いでしょう?
それを聞いたアレスが更にツボったようだ。
アレスはよく笑う。
良いことだけど笑われるのは複雑。
アレスが回復していると思えば耐えよう。
ぷるるんがやって来てアレスの前でぷるるん、ぷるるんと踊り出した!
なにしてんの? このスライム。
ぷるるんが一番意思の疎通が出来ない不思議生命体だ。
「ああ、ごめん、ごめん、ぷるるんの言うとおりだね」
アレスがぷるるんに言った。
え? 意思の疎通出来てる!?
「チビリル、ごめん。ずっと心配していたんだね」
アレスがチビリルを撫でた。
チビリルの尻尾が少しだけ上がる。
「俺さ、アレスとの連絡のために残ったんだから、もういらない?」
チビリルが心配そうに聞く。
「要らなくなんて無いよ、ごめんね。心配してたんだね? チビリルともっと早く話していれば良かったね」
チビリルを抱えてアレスが撫でる。
仔犬とイケメンの良い感じの絵だ。
「チビリル、君はね、もうフェンリルが帰って来るなって言ってる」
!! いきなりドギツイ辛辣な言葉!
優しい雰囲気で語っているが酷すぎないか?
「君はね、もうフェンリルのただの分身じゃない。ちゃんと独立した魂を持ってしまった。君は名前を貰い、パパとママがいて、愛情をたくさん貰った。そして君自身が守りたいものがある。チビリル、君はどうしたい?」
「俺、アレスも大好きだよ。でもパパもママも好きだし、気になるんだ。とっても可愛がってくれたんだ。あの二人に幸せになって欲しい!」
アレスが優しく笑った。
「そう言うと思ったよ。これをパパにつけてもらって」
アレスは指輪を2つ出してひとつをチビリルの足にはめた。チビリルは小さいので指輪が足にはまってしまった。
首輪じゃないのね? 人間用?
「【主従契約の指輪】だよ。別にパパと主従契約するんじゃなくて、君が時空を越えるときに迷子にならないように道標だ。ちゃんとあの二人の所にたどり着けるように……」
「ありがとう、アレス! 俺嬉しい!! 指輪、パパに渡してくるね!」
そう言って指輪を口でくわえ、尻尾をほわほわに振りながら嬉しそうに駆けて行った。




