232 月の魔物 (+挿し絵追加2018,10,10、絵師Mick 様)
月明かりに照らされ、ロイドの金の髪が風にそよぎ、柔らかな光をまとって揺れた。
逆光で浮かび上がる美しいシルエットに、冷たい翡翠の瞳がこちらを見つめていた。
ああ、美しい……この人って本当に整った容姿なのね。
こんなの誰もが見とれてしまう。
メイドさん達にモテモテなのがよくわかる。
此処にいるということは、まだ帰っていないのだから、きっとマルタはロイドの帰りを心配して待っていると言うことだ。
ロイドも早く帰りたいだろうに、気の毒だ。
「侵入者め! 昼間王宮に侵入したのも、お前か!」
ワイルドな感じのトカゲ。
おそらくの隊長格の魔族がこちらに剣を構える。
「捕らえろ!」
トカゲ隊長が屍戦士に合図した。
一斉に屍戦士が私達に襲いかかる。
別方向から登ってきていた者もいたのか、逃げ場もなく、囲まれてしまった。
でもアレスは私を抱えたまま、難なく剣を避け、的確に屍戦士のコアを破壊していく。
崩れていく屍戦士達。
あっという間に、屍戦士の残骸の山が出来た。
トカゲ隊長が「昼間王宮に侵入したのは……」って言ってたけどその通りなんだよね。
はい、私達です。
もしや私達の侵入がバレたせいで、ロイドまで駆り出され、侵入者の捜索とかして帰って来られなかった?
だとしたら私達(主にアレスですが)大迷惑じゃん。
ごめんね、マルタ。
マルタの心労を思うと申し訳ない気持ちになった。
それにしてもロイド、めちゃくちゃ存在が浮いてるよ。
屍と魔族の中に1人だけ人間だから、とかじゃなくて……
月明かりのせいか怖いくらい美しい……その美しさは、この場にそぐわない。
月から現れた、月の魔物みたいだ。
いつものロイドと違って見えたせいか、ぞくりと背筋が凍る。
屍戦士がやられてしまったので、トカゲ隊長が奇声をあげながらアレスに斬りかかって来た。
アレスは、何をどう攻撃されるのかを全て分かっているかの様に、私を抱えたまま自然な動きで、スッと避けた。
私への負担が、まるでゼロの動きに感心してしまう。
だけど避けた先に、ロイドの双曲の剣が鋭く襲って来た。
え? ロイド何すんの!? 危ないじゃん!!
アレスの腕の中で激しく動揺する私。
紙一重という感じで、アレスがロイドの剣を避けた。
後ろに下がったアレスを追う様に更に踏み込まれる。
先ほどの屍戦士やトカゲ隊長とは比べ物にならない速度の打ち込みに、避けるだけでは間に合わないのか、アレスは剣で受け止めた。
私を抱き上げている分、動きが悪くなる。これは不味い。
受けた剣はロイドの変な形の剣に滑らされて明後日な方向に向く。
武器に関して私は詳しくないけれど、以前テレビか何かで見た、中東とかの曲線の剣。確かシャムシールとかいう剣が、もっともっと曲がって大きくなった感じ?多分似ている。
それが2本。ロイドってば二刀流なんだよ。刃は外側に向いている。危ないよ。
2本剣が次々に繰り出され、私達を襲う。
なんだ、この剣裁き!
アレスは剣の柄部分でロイドの剣を弾いたけれど、角度が違っていれば斬られていたかもしれない。
ロイドってば、どういうつもりなの?
私もいるのに酷いよ!
なんで? 私に刃を向けるの?
私、ロイドにとって、やっぱり疎ましい存在?
容赦なく斬り込んでくるロイド。ちょっと悲しい。
剣を受け止めたアレスとの一瞬の鍔迫り合い。
その時、小声でロイドがアレスに短く呟く。
「今夜やれ! あのトカゲは目撃者にする。殺すな」
「え? リリアの前で嫌です」
アレスも小声で、でも不満そうに呟く。
「チャンスだろう? 約束を守れ!」
「約束って、マルタさんの事は別で……」
剣を弾き、後ろに思いっきり後退するアレス。
困った感じでため息を吐く。
何? 何の話をしていたの?
何かロイドに困らされている?
「アレス、このまま逃げよう」
アレスとロイドが戦うのは嫌だった。
これ以上2人を戦わせたくない。
「ダメだ……まだ引けない……」
アレスがうつむき苦しそうに答える。
アレスが私を見た。
「リリア……俺を嫌いにならないでくれ……」
悲しそうな、すがるようなアレスの瞳に驚いた顔の私が映っている。
全く話が見えない。
私がアレスを嫌う??
そんな事あり得ないのでは?
「たああああああーーー!!」
いきなりの奇声にアレスとの見つめ合いが遮られた。トカゲ隊長が勢いよく突っ込んで来る。
トカゲ隊長、ゆるさん。
カーーーーーーン!!
甲高い金属音と共に、トカゲ隊長の剣が上空にはねあげられた。
ついでに本人も弾かれ、派手に転がっている。
城壁の幅は7メートル程だろうか、場外になると城壁から落ちてしまう。
落ちたら多分タダでは済まない。
ギリギリ落ちずに済んだトカゲ隊長。命拾いしたね。
「カイ、その侵入者はお前では無理だ。下がっていろ。それに侵入者が抱えているのは、うちの姫様だ。姫様がいるなら私の仕事だ」
ロイドがトカゲ隊長庇うように、トカゲ隊長の前に立った。
トカゲ隊長の名前は"カイ"と言うらしい。
魔族のお友達ですか?
「おお、ロイド任せる! 城壁の守りで無敗なお前なら安心だ」
その言葉とともにロイドが再びアレスに斬り込んできた。
二本の剣を使い、見事な連続攻撃だ!
「アレス、姫様を置いていけ!」
ロイドが低く叫ぶ。
「嫌だ!」
「私は姫様の警護だぞ、置いていけ。そして早くしろ! 他の者が集まって来たら厄介だ!」
ロイドの気迫にアレスが唸る。
「うう……リリア、ごめん」
そう言ってアレスが項垂れる。
ーーーーが、すぐに顔を上げ、ロイドをひと睨みした。
「落とすなよ」
ふわり
アレスが私から手を離した。
落とすなと言った本人が、直後に私を落とすとか!?
アレスの行動に呆気にとられる私。
そのまま落ちそうな私を、ロイドが受け止めた。
受け止められた私は、ロイドに私を受け取らせる為にわざと落としたのだと分かった。
『ごめん』て先に謝っていたのはこれ?
わけがわからないと呑気に思っていたけれど、次の瞬間、信じられないことがおきた。
私の頭上で、何か温かい物が垂れた。
ロイドの絵を"みてみん"で活動されている"絵師Mick様"に描いていただきました。
私が描く美しさと色気の足りないロイドと違って美しく色っぽいです。
イケメンを美しく描く事の出来る絵師さんです。
良いですね。美麗イラストですよ。
皆様にも是非ロイドの美しさを堪能していただきたいです。




