231、あったかもしれない未来
城壁の上に登りきった。
アレスが抱っこで運んでくれたので楽々登れた。
周りに何も遮る物がないせいか冷たい風頬をかすめていく。
「寒くない?」
「ううん。大丈夫! 気持ちいいよ。初めてこんな所に登ったよ! 高いね」
「街の明かりが少しだけあるね。昔フェル達ともここで街を見渡したけど、もっともっと明るかったんだ」
ほとんど真っ暗な闇の中に少しだけ明かりが見えた。
一応住んでいる人たちがいるのだと感じられた。
空を見上げると街の明かりよりもずっと星の明かりがいっぱいだった。
余計な光が無い分、月と星が明るく見える。
「すごいキレイ。こんなキレイな星空、王都に来てから初めてかも……」
大迫力の星空、大きい星も小さい星もみんな見えちゃう位星が明るい。
「モーモ村にいた時は夜に星がキレイだった。たまに見てたの。田舎だからキレイだと思ってたけど王都で見てもキレイだね」
「そっか、リリアも、モーモ村出身だったね」
「アレスも住んでたんだよね? 世間て狭い」
「全部終わったらモーモ村に行こう。そこでモーモを育ててリリアの好きなチーズケーキ屋でもやるってどう?」
「チーズケーキ屋か……食べたいな。私がモーモ村に行ったら、マルタとロイドもついてきてくれるかな?」
「え?」
「そしたら喫茶店やろう。ロイドはマスター似合いそうだね。マルタは美人だからお客さんいっぱい来ちゃうよ」
「……無理だよ」
アレスが冷たく言った。
チーズケーキ屋とか眉唾な事を言ってきたのはアレスなのに……
「そりゃ私だって本当に実現出来るって思っていってる訳じゃないよ……」
「彼はルカレリアで王様になるんだ。マルタさんは王妃様で、きっと幸せになる」
「だって……ルカレリアは滅ぼされちゃったでしょ? 前に遠くから見たけど人が住めるような感じじゃ無かったよ。」
「……そうだね…。」
アレスが黙ってしまった。
ルカレリアか……ロイドの王様とマルタの王妃様。確かにそっちの方が似合いそうだね。
本当だったらそうなってた筈だもんね。
「リリア、もし俺と離れることがあっても待っていてくれる?」
「突然どうしたの?」
アレスが真剣に聞いてくるので本当に離れることがあるのか心配になってしまう。
「リリアが大人になったら結婚しよう。本当なら俺達もう結婚してたかも……」
「結婚してたかもって?」
「だって転生しなかったら、あのままだったら……きっと今社会人で就職していて柚子にプロポーズしていたと思う。そしたら郊外に家を買って子供は二人くらいいてさ、リリアみたいにかわいいんだ。そんな未来もあったかもしれない」
おお、確かにそんな未来もあったかも!
結構具体的に語ってくれてて柚子の事真面目に考えてくれていたのかと思うと嬉しい。
「嬉しいな。和くんの未来に柚子も入れて貰えてて……」
ちょっと涙が出そうだ。
アレスが優しく笑った。
「リリアの未来に俺も……アレスも入れてくれる?」
「もちろんだよ! モーモの新鮮ミルクでチーズケーキ屋さんやるんだもんね!!」
「はははっ! プリン屋さんでもいいよ」
「じゃあ、両方! チーズケーキとプリンのお店! 勇者のお店だったら流行るかも!」
そう言って二人で笑いあった。
アレスとの幸せな時間。
すると、アレスが何かに気がつく
「お客さんが沢山来たみたいだ」
城壁の階段を何人もの屍戦士が登ってきていた。
その中に黒いスーツの金髪の男がいる。
ロイドだ。
ロイドの隣には魔族がいた。
2足歩行のトカゲに鎧を着せたような奴だ。
おそらく隊長格の魔族。




