230、星を見に行こう
ロイドが帰って来ないまま夜になった。
あの会議ってあれ以上何を話すことがあるんだろう? 不思議だ……
マルタが落ち着かずに何度も窓の外を眺めている。
ロイドのことを心配している、その姿をかわいそうに思う。
ロイドは毎回呼ばれる度に、あんなに沢山の魔族に囲まれているのだろうか?
魔族の中に囲まれ、普通に振る舞うのはかなり心労がかかりそうだ。
大変だな。
後宮で女子に囲まれて、ウハウハだけじゃ無いんだな……
その上ロイドの命はあと3年位(?)かもしれない……
魔神の力を人間の身で使っているからってアレスは言ってたけど、心労とかも含まれているのではないかと思ってしまう。
ロイドがいなくなってしまったら、マルタはどうなってしまうのか。
あまり考えたくないが、そんな未来は来て欲しくはない。
何か解決出来ないか。
私は就寝時間になり、部屋の明かりのひとつが落とされる。
「きっと大丈夫。すぐに戻ってくるよ」
不安げなマルタに、少しでも元気を出して欲しくて、私は根拠のない事を口にした。
マルタは私に心配をかけまいと、むりに微笑みを作った。
その微笑みが痛々しく、胸がギュッとした。
こんな適当な慰めの言葉なんて、言わなければ良かったと後悔することになる。
他人事だから、そんな適当な事を言えるんだ。
フェルの所に行っていたアレスが戻ってきた。
「リリア昼間はごめん、今度はデートしようか」
アレスが少し照れた後に笑う。
え? デート? いつ? どこに?
「今から、星空を見に行こう!」
うわっマジですか!
ロマンチックです。
アレスとデートなんて初めて? 嬉しい!
調子の良い私は、先ほどの暗い気持ちを忘れ、いっきに心が舞い上がってしまった。
しかし、本来は就寝時間で、つまり良い子は寝る時間。
いや、既に何度もフェルの所に抜け出していた私は、良いこでは無い。
抜け出してデートってなんか背徳感。ドキドキだ!
お馬鹿な私は、アレスの誘いに乗ってしまう。
そりゃあ、好きな人に初デートに誘われてるんだもん。 断れない。て言うかフツーに行きたい。
「外になるから寒くないように上着を羽織って」
せっかくのデートにパジャマちょっと悲しい。
「着替えるから待ってて!」
「いいよ、そのままで。パジャマでも充分かわいいから」
かわいい! その言葉が私の脳内で何度も再生されてしまう。
好きな人に言われる『かわいい』は普通の人に言われる『かわいい』よりも何倍も何十倍も嬉しいものである。
口角が緩くなり、すっかりその気になってしまう。
私はガウンを羽織った。
アレスがおいでと、手を広げたので、そのままアレスの胸に飛び込む。
ぽふん!
逞しい胸にしっかり抱き止めてもらった私の頬は、もうだらしなく緩みっぱなし。
うふふふ、幸せ~!
お互いぎゅっっと抱きしめる!
両思いって凄い!
自分が好きって思って抱きしめると、相手も好きって感じで抱きしめてくれるの。
幸せです。
おでこをつけて、お互いの顔が近い。
見つめあって頬を染め、もうラブラブだ。
この時の私は、相当浮かれていた。
もう世界に自分達だけのバカップル成り下がっていた。
幸せな事である。
アレスに抱えられ、窓から外に出た。
外の空気は室内と違い、ひんやりとしていた。
冷たい空気が頬を刺すが、今の私達の熱々なので全く気にならない。
アレスと初の、夜のお出掛けだ。
そう、アレスとは初。
遠い昔に、和くんが柚子の手を引き、クリスマスのイルミネーションを見に行った光景が過った。
あの時の、イルミネーション光の中での彼の優しい微笑みを思い出す。
私達、また一緒にいる事が出来ている。
この奇跡が嬉しくて涙が出そうになるくらい私は幸せを感じた。
夜に窓から抜け出すなんて、物語のヒロインになった気分。
彼はヒーローで、私はヒロイン。
抜け出した事に対する、ちょっとした後ろめたさはあったが、そんな気持ちよりアレスの腕の中にいる事で、気持ちはどんどん高揚してしいった。
昼間のお出掛けは魔王に会いに行くなんて、とんでもない内容だったが、今は星を見に行くデートだ。
星にそんなに興味があったか? と聞かれたら正直無いが、好きな人と見る星空がロマンチックじゃない筈無い!
本来夜に見かけたら腰を抜かす、庭を徘徊している屍兵達の事も、全く気にならないほど、私のテンションは上がっていた。
アレスにしがみつき、夜の庭を抜けて城壁近くに来た。
夜風をきって進むのが心地よかった。
城壁近くにも屍兵はいたが、アレスが城壁へ近付き、通り過ぎると次々に屍兵が崩れて行った。
「今、何かしたの?」
「ああ、コアを壊しといた。そんなに害は無いけど、数が多くて鬱陶しいからね」
私を抱えたまま歩きながら屍兵を破壊してしまうアレスは、やはり相当強いのだろう。
屍兵には悪いが、ちょっと誇らしい気分になった。
「あ、でも壊れてるの見つかったら面倒な事にならない?」
「なったとしても、俺は誰にも負けないから大丈夫」
そう言って城壁の内部に入り、階段を登って行った。
そりゃそうだ。アレスは勇者だもん。 誰もアレスを止められる者はいないだろう。
私はそんなアレスの事が誇らしくてたまらなかった。




