228、勇者対魔王?
アレスが重たそうな扉を開ける。
この中にヴァリアルがいるの?
【隠密】を使ってるにしても脇にいる屍戦士は止める事も無い。人間だったら変だと気がつくだろうに……
そのまま中に入った。
「アレス、帰ろう……」
もう一度言ったがアレスは気にしない。
その目は久しぶりに親戚のうちにでも遊びに行った子供のようで何か期待に満ちているかのように見えた。
あんなに酷いめに合わされた場所なのに!
アレスにとってヴァリアルは家族のままなんだ。
気がついてアレス! ヴァリアルはアレスが思ってるようなヤツじゃないよ!
昔は知らないけど少なくとも今はアレスの大事な家族のヴァリアルじゃない!!
街の人を苦しめた、マルタとロイドの国を滅ぼして苦しめた極悪人ですよ。
フェルが30年以上も苦しんだのはこいつのせい!
ニーナが死んだのもヴァリアルのせい!
私はヴァリアルが言ったあの言葉が忘れられない!
『下卑の女から産まれた卑しい人間』
あいつは倒れているアレスにそう言ったんだよ!!
魔王に操られているだけだったら刺して終わりでしょ?
差別意識や特権階級意識の物凄く強いヤツだと思う。
ヴァリアルは危険!!
部屋の奥に玉座が見えた。
その玉座に座る影がある。
王冠をかぶり、目を閉じたその男は動くことなく座っている。
「老けたな」
アレスが言った。
「髭なんてはやして、ハハハ……似合ってる」
懐かしそうに目を細めるアレス。
どうしちゃったの? アレス変だよ!
「トラウマ無くて良かったね、だから帰ろうアレス!」
「リリア、せっかくヴァリアルが一人だからちょっと話してくる」
何いってるの? ロイドじゃないけど、勇者ってバカなの?
せっかく気がつかれていないならもう帰るよ!
あーーーまたヒロインらしからぬ事を言ってしまう……!
「リリアはここで待ってて、大丈夫何も危険はないよ。何かあってもちゃんと守るから!」
アレスが私を部屋の隅におろした。
「う、うん」
危険はない? ちゃんと守る? アレスがそう言うならいいのか?
アレスに何か考えがあるのかも?
もう私は訳がわからなかった。
判断力がもう麻痺してくる。
アレスが私を抱き締めた。
「はははっ……リリアから甘い匂いがするな。心配無いからそんな顔しないでくれ」
アレスが笑う。
「甘い匂いはスキル発動に甘いもの食べてないとだから……」
私はポシェットいっぱいの飴をアレスに見せた。
「戻ってきたらその飴、そのひとつ欲しいな」
「いいよ。いってらっしゃい……」
私はうつ向いた。
必ず戻って来るよ的な意味だろうか?
私が何を言ってもアレスは聞かないだろう。
だったらなるべく無事に戻ってきて欲しい。
アレスが私から離れ、【隠密】を解いた。
ゆっくりヴァリアルの方へと向かって行く。
ヴァリアルは動かず目を閉じたまま。
眠っているのだろうか?
勇者 対 魔王
何を話すのか……?




