221、アレスのいる世界
お風呂に入っている場合ではなかった。
急いでお風呂から出てロイドに報告。
ん? 私はいつからロイドの手下のような行動をとるようになったんだ?
まあ、今回はいいか。
一階に行きロイドの部屋に飛び込む。
「ロイド、大変だよ! アレスが街へ行ったって!」
ロイドは仮眠をとるとこなのかソファーに横になっていた。
身長が高いから足がはみ出ている。
部屋にいて良かった。
「え……いや、大人だから大丈夫でしょう……」
冷たい!
何しに行ったのか興味ないの!?
「ついていかなくていいのかな? 何しにいったの?」
「姫様、私昨日あまり寝ていないので……休憩です」
吸血鬼を倒した翌日に元気だった人が、ちょっとくらい寝なくても本当は大丈夫じゃない?
あ、ダメだ。
私はロイドにも優しい気持ちを持つんだった。そう決めたんだった。休ませた方がいいよね?
でも質問してから。
「何しに行ったか知ってる?」
「知りません。私より師匠に聞いた方が確実ですよ」
そう言ってロイドは持っていた本で顔を隠した。
フェルか……
あと1年と知ってしまった今、フェルに普通に話しかけられるだろうか……
顔がこわばりそうだ。
話しかけヅライ……。
「ねえ、ロイドも一緒に来てくれる?」
「なぜ私が……」
「だってロイドはやっぱり頼りになるもん。お願いお父さん!」
最近お父さんと呼ぶと何とかしてくれるんじゃ無いかという私の図々しい考えでヨイショを入れてかわいげに言ってみた。
するとロイドが起き上がった。
凄いぞ、ヨイショが効いたか?
「あの……ですね。余計な事ですが……姫様がアレスが好きならそれでいいと思うんですがね……」
ん? 何?
「ちょっとアレスが軽いと言うか……。姫様に対する態度は姫様に期待を持たせるようなので……」
「どういう意味?」
何が言いたいのか。
「私が見たところアレスは幼い女の子が好きな人ではないですよ」
どこを見たんだ?
「うん。知ってるよ」
「……知ってるならいいです。私の心配は姫様がアレスに夢中になっても本気で相手にされないのを理解してもらおうと……特に今のアレスは生身の身体を取り戻しましたし……」
「相手にされないーーーーーーーー!?」
マジかーーーーーーーーー!?
「今、知ってるって言いましたよね? つまりアレスがこのまま姫様に気をもたせつづけるなら……」
ガチャ!
ドアが開いた。
びしょ濡れのマルタが入ってきた。
「濡れちゃいました。チビリルちゃん綺麗になりましたよ!」
チビリルを洗い終わってから来たらしい。
タオルを羽織ってはいるが胸元がばっちり透けて下着が丸見えだ。
「チビリル、綺麗にしてもらって良かったね」
チビリルを抱っこしたアレスがマルタの後ろから入ってきた。なにか包みも持っている。
!!!?
あれ? 出掛けたのでは??
しかもマルタと一緒に来たよ。
そしてなんか堂々と動き回ってる?
「アレス、マルタに何をした?」
ロイドがものすごく冷たい瞳になった。
「え? 何も……あ、タオルを掛けました」
「何で、こんなにエロエロに濡れてんだ?」
ロイドの顔色が悪い。
「俺、何もしてませんよ! 濡れてウロウロしてたからタオルをかけただけです」
ロイドがゆっくり立ち上がる。
立ち上がるロイドに迫力を感じざるを得ない!!
「本当に何もしてません!! 俺にはリリアがいるから、他の子に変なことしませんよ!」
アレスが慌ててチビリルと荷物を置き、手を挙げて無実の主張をした。
「姫様? お前、姫様の事も本気でも無いくせに……」
「本気ですよ!」
「嘘をつくな!! お前好きな女いただろう? 前にお前の精神を視た時に見てるぞ! あの女のことはもういいのか? それとも小さな姫様をからかっているのか? 勇者ってもっと誠実な奴じゃないのか!?」
あ、それ柚子だね。
あの時はあれが前世の自分とわからなかったけど、ロイドはそれを気にしていたのか……それで今の私、幼いリリアを弄ぶ不誠実なやつにアレスが見えているわけだ。お父さんからしたら尤もなご意見ですね。
ぎゅっ!
マルタが後ろからロイドを抱き締めた。
「落ち着いてロイ、アレスさんはそんな人じゃないですよ」
「マルタ……私も濡れるんだが……」
「ふふ、もう手遅れです。濡れちゃったから……」
マルタが天使の微笑みを見せた。
「頭は冷えましたか?」
冷えたのは背中だと思う。
「姫様を泣かす男は、私が許さない!」
ロイドに泣かされた事は何度かあるよ!
でも私っていつの間にかロイドにめっちゃ大事にされてる!?
今までマルタの事でしか感情を大きく動かすことの無かったお父さんが!?
アレスが困ったような表情をしたあとに……
「信じて貰えないかもしれませんが……俺はリリアが好きなんです。あなたの眼で本当かどうか視てもらってかまいませんよ。その方が分かって貰えるなら見てください」
真っ直ぐロイドを見てアレスが言った。
「あのね、アレスさんの言う事本当だと思うの」
マルタがロイドに後ろから抱き付いたまま言った。
「どうして君にわかる?」
ロイドが不機嫌そうに言った。
「それはね。アレスさんがリリア様を見つめているときの目がね、私を見つめる時のロイドの目に似てるの」
意外なところでのろけが入ってきた。
「……わかったよ。君が言うなら……信じるよ」
そう言ってマルタの手を握った。
ロイドの表情が柔らいだ。
マルタは上手くお父さんを諭す事の出来るお母さんのようだった。ロイドにはマルタ効果は抜群に効く。
とりあえずお父さんの怒りは落ち着いたようだ。
お邪魔なので私達は部屋に戻る事にした。
「アレスは出掛けてたんでしょ? どこに行ってたの?」
「ああ、街を少し散歩に……どうなってるか様子も見たかったし……あと30年前の店あるかな~って」
「あった? 何のお店?」
「焼き菓子の店だよ。リリアお菓子好きだろ?」
そう言ってさっき持っていた包みを渡してきた。
中を見るとシュークリームっぽいものが!
「あ、このお菓子初めて、ありがとう! シュークリームに似てるね」
「ああ、たまにあるんだよ。そう言うの。転生者が持ち込んだのかも」
「転生者?」
「この世界ってどこかあっちの世界の影響受けてるんだよね。昔は気がつかなかったけど、今見るとそうなんだなーてのが結構ある。知らないだけで転生者が結構いたのかもしれないと思って……」
「そっか……お菓子職人が転生してくれれば向こうのお菓子が食べられるんだね」
「ロイドパパにも渡すつもりだったけど渡しそびれたよ。リリア、良いパパだね。本気で君の事を心配してくれる。大事にしてもらってて良かったよ」
アレスが笑顔だ。
ふふふ……ここまで来るの大変だったのよ。
だってあの人って最初超ヤバそうな人だったから……まさかあんなに常識人だったとは……いや、常識人ではないな……相変わらずヤバいとこあるし……
私に対して柔らかくなって優しくなったんだ。
なんだか今日はバタバタしているけれど楽しい。
アレスがいてくれる。
ずっとこのままがいいな。
大きな世界のことなんてなんてわからない。
でも私の周りの人が笑っていられる世界が続くといいな。




