21、好きなモノは勇者かも?
「久しぶりだねぇロイくん。マルタちゃん行っちゃったけど大丈夫なの?」
フェルがロイドに近づきながら喋り出す。
正直、フードを脱いだ"犬の着ぐるみ男"と"金髪七三執事男"が月明かりに立つ姿はかなりシュールな光景だった。
ロイドは前に私にフェルの事を"許されない反逆者"と言っていた。
なのにフェルの事をさっき師匠と呼んだ。
「…………大丈夫です。今日の分は与えてあります」
いつもの冷たい瞳でロイドが答えた。
何の話だろう?
「マルタちゃんに"ラフラン"を見せに来たのかい?」
フェルがやさしく語りかける。
よく見るとロイド達がいた場所から1メートル位の所に大きな美しい花が咲いていた。ラフランという名前だから勝手に蘭の花っぽいものを想像していたが、実際は上を向いたユリの花が大きくなったものだった。
月の光を浴びて美しく光っている。
そうそう、私達も"ラフラン"見に来たんだね。
忘れるところだった。
「………昔貴方に聞いたおとぎ話を思い出して足を運んで見ましたが、只の花です。奇跡も何もおきませんよ。貴方の戯言ですね。」
ロイドが重そうに口を開く。
「良かったよ。返事してくれて、また無視されちゃうかと思ったよ。」
フェル…ロイドに無視されてたの?ひどいよ…ホロリ
「確かに貴方と話をするのは、私が貴方を裏切って以来ですね。」
しかも何か裏切ってるんかい!?
「裏切られたなんて思ってないよ。ロイくんがヴァリアルに付かなくちゃならなかったのはマルタちゃんの為でしょ?マルタちゃんが生きられる世界にしたいんだね。だからいいんだ。ロイくんは自分の道を選んだだけだもん。ボクは今でも君の師匠のつもりだよ。」
なんかフェルが良い感じの事を言っているが二人の間に何があったんだろう?
そしてロイドはフェルの弟子だった!?
「貴方と話すことはありません。失礼します。」
そう言ってロイドが立ち去ろうと歩き出した。
おおっと、またこっちに来る。思わず息まで止めて固まって通り過ぎるのを待った。
………………。
あーーー緊張した。なんかこっちを見られたような気さえしてしまうが、"着ぐるみウサギ"の実力を信じよう。
その後、固まってる私に
「リリア~もう大丈夫だよ~。」
フェルが声をかけてくれた。
「う、うん」ロイドとすれ違うだけで消耗した私は気分的にガックリきていた。なんか筋肉がこわばっている。明日、正体不明の筋肉痛になりそうだ。
フェルがラフランの花の前で、おいでおいでしている。
聞きたい事もあるけど今度にしよう。
今日はお花を見て帰ろう。
近づいて花を見てみるとスゴく美しい花だった。はなの大きさは30センチ以上あるかな。こんな大きな花を初めて見た。
匂いもちょっとお菓子のような良い匂い。
「リリア~これを持って、目をつぶって好きなもの思い浮かべて~」
なにか小瓶を手渡される。
「好きなもの?なんでも良いの?」
「いいよ~お菓子でもおもちゃでも、人でも良いよ。そして幸せな事を考えて~」
なんだろう?好きなもの?お菓子?
その時何故か、絵で見た勇者を思い出した。
好きなもの。勇者かも!?
「はい、大きく息を吸って~」
フェルがお医者さんのような掛け声をかけてきた。
うーん甘い良い匂いがするー。
「3…2…1…はい!目を開ける!」
何だかよく分からないままフェルの言う通りにやってみた。
目の前の大きな花が視界に入る。
うん。花だ。なんだ。
ーーーーーー?
よく見ると花の中央に、光る半透明の羽の生えた虫がいる。
「リリア~捕まえて~!!」
フェルが叫ぶ!
咄嗟にさっき渡された小瓶を虫の上に被せた。
こ…これは!
虫ではなかった
瓶の中には、小さな小さな妖精が入っていた。




