214、あなたがやるべきです
「この中はサロンで一番広い部屋です」
壁は破壊されているが、ロイドが扉を開けたのでそこからアレスと私が入った。
もともとダンスも出来そうな広い部屋だったのだろうが……壁が壊され更に広く感じさせる。
他の部屋との壁が破壊されているので巨大なワンフロア状態だ。
解体屋さんが入ったようなこのフロアは廃墟か、またはこれからリフォームが始まるのか、と言う状態だ。
高級そうな家具や椅子やテーブルがあちこちに壊れているのが無残で残念だ。
おそらくこの部屋はかつてはかなりきらびやかな部屋だったに違いない。
そう思わせる破壊された物達の中に豪華な彫刻や金箔のなごりがある。
そしてこのフロアの中央には大きな魔方陣が描かれていた。
「壁の中に逃げ込むので壁ごと破壊していました。壁の破壊でついでに日も当たるので行動も制限できます。陽が出ているうちは外に出ないので小さい攻撃で削っていました」
シーラとレイラも続いて部屋に入る。
見たところ吸血鬼はいない。
「ああ、今はあの辺りです。こちらを伺ってますね」
ロイドが指をさすが、何も見えない。
「アレスわかるの?」
小声でアレスに聞いてみた。
「見えないけど気配でね」
アレスが小声で答えた。
ふーん、そうなんだ。やっぱりロイドの眼が特殊なのね。
「そろそろ固定して核を突きます」
「固定って?」
わからないからつい聞いちゃう。
「実体化しないと攻撃が通らないのですよ。実体化固定の魔方陣を組みました。ただあまり元気なうちに魔方陣で縛っても破られる恐れがあるので丁寧に削っていました」
ロイドが笑顔だ。
とても吸血鬼退治中の人に見えない。楽しそうだね。
「やっぱり二日酔いさえ治れば楽勝なんだね?」
私の心配を返して欲しい。
「姫様、カズクンの前で私の失態を話さないで下さい。姫様の恥ずかしい話を私がカズクンに教えても良いんですか?」
え? 私の恥ずかしい話って何!?
この男は何を脅してきてるんだ!!
アレスが私の顔をじっと見つめる。
やめて、特に何もない筈です!!
「10年前30人の犠牲を出した吸血鬼ですが、前回ウォルター様は戦っても戦っても新しい犠牲者が血を吸われ吸血鬼に補給を繰り返されたので苦戦したそうです。しかし今回は補給はさせません!!」
「どうやって魔方陣まで来させるの? 出てこないんじゃない?」
「勿論、私が囮になりますよ。さっきからそれで誘き寄せて攻撃の繰り返しです。人間は私と姫様だけですから本当は姫様は来ない方が良かったのですよ」
えーーーー? 来たくて来たんじゃないのにーーー!
そう言ってレイラからマルタのおやつ戸棚にあった赤い液体の瓶を受けとった。
あまり知りたくはないが、やっぱり中身は……
「それって人の血?」
「新鮮な人間の血ですよ。開封したら劣化が始まるので使いきりです。奴は渇ききって焦っているから人間の私にトッピングしたら堪らず寄ってくるでしょう」
トッピングってチョコスプレーかい!?
血をかぶる気?
気持ち悪いけど仕方ないの?
それにしてもその瓶スゴいね。
開封するまで劣化しないって……
真空パック?
常温で良いならそれ以上の保存力ですね。
出来ればそれの新品の瓶が欲しいです。
「では、トドメはカズクンにお願いしますね」
ロイドがアレスの方を向いた。
「………」
アレスは首を横に振った。
断っている
「……?何故ですか……?」
「俺がとどめを刺す事は出来ません。あなたがやるべきです」
アレスが喋った。
屍戦士が喋ってもシーラとレイラは気にしていないようだった。
「何故?」
ロイドが怖い顔をした。
「あなたがやった方がいいです。俺がやったら後悔する」
「後悔? 後悔なんて腐るほどした!! 私は本当は王妃を見るのも嫌な程嫌悪している! だからなるべく楽して倒したいだけだ」
ん? 今、『楽して倒したい』って言った? ものスゴイ本音が出たね!?
「あなたが倒せるならあなたが倒すべきだ!」
え? 何で? アレス倒してあげなよ。ロイドに楽させてあげたいし、と思ってしまう。
「あなたは俺がいなくてもこの為に準備してきたでしょう? 魔方陣も、四階の結界も、マルタさんの守護結界も、その武器も全部この時の為だ」
「だからなんだ? 保険をかけて用意しただけでお前がいれば要らないだろう……」
「……でも俺……見えませんから……」
「は?」
「霧散して隠れちゃったの見えませんよ。あと『核を破壊』ってそれも見えないです」
「嘘だろ?」
「本当ですよ。気配でわかるくらい。自分の眼が凄いこと忘れてませんか?『核を破壊しろ』って言うなら俺がやるなら正確な位置がわからない分、建物ごと吹き飛ばすしかないですね。下の階にも影響出ますよ? ピンポイントで見つけて破壊なんてその眼でなければ無理です。だから俺も歴代の勇者達も姫巫女でさえ魔王の核を見逃してしまったんだ」
「勇者でも万能って訳にはいかないか?………だから建物ごと破壊か……それは困るな。下の階にはマルタがいる。後悔ってそういう意味か? はははっ」
ロイドが笑った。
ここまで壁を破壊した人が建物の破壊を笑う?
その時、紫っぽい靄が集合して人の形を作りつつあった。
あれはもしや……!?
陽当たりの抜群の四階にひんやりした空気が漂う。




