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212、『この世界に救いはあるのか』

 階段の三階に上ると途中でアレスが足を止めた。


 四階の音なのか上の方から沢山の破壊音が聞こえてくる。

四階で何が起きているのか……



「下に吸血鬼が降りて来られないように結界を張ったみたいだね。四階に閉じ込め戦うつもりのようだ。

フェルのと違うオリジナル結界か……マルタさんに張ってあったのもオリジナルみたいだし、ロイドパパは魔法のセンスがある。フェルが絶賛するだけのことはある」


「絶賛? そうなの? フェルが誉めてたの?」


「誉めてたよ。フェルは自分を天才だって言い聞かせてるけど、彼はそんなことしなくてもいい本物の天才だって言ってたよ」


 上手く言えないが意外な気がした。


「フェルは10年前にマルタを助けてあげなかったから、そんなにロイド達に興味無いのかと……」


「それは違う、フェルは俺を守るだけで精一杯だったんだ。フェルは目立つことは出来なかった。とても後悔していたよ」


「そ、そうなの? そっか最近フェルが冷たくなった気がして、そんな風に思っちゃったみたい。ごめん」


「今のフェルは特に不安定かもしれない。今までのフェルはニーナがいることでバランスをとっていたようだし……それに……」


「それに?」


「フェルはもう限界に近い。あと一年位……もっと短いかもしれない……生きてるうちに出来る限りの事をしたいそうだ。

 今までの事、屍兵の完成に手を貸したことも後悔がありすぎて自分は許されない存在だと言っていた。

 フェルが追い込まれた状況になったのは俺のせいでもあると思う。フェルには自分の人生を歩ませてあげたかった」


え? 一年て何が?


「長年限界以上の力を使ってきたようだ。あと、ロイドパパも……」


「どういう事?」


「ロイドパパの魔眼の力はフェルが無理やり表に出した力だ。きっかけを与えた事で段々力が強くなっていく。本来人間の身で使ってはいけない魔神の力。ルカレリアに稀に現れるその力の持ち主は常に短命だったそうだよ」


「じゃあ力を使わなければいいの? 教えてあげないと……」



「フェルは俺の復活の為に魂を見極める眼がどうしても必要だった……

魔眼の力で助けられた事は多い。まさか寿命を犠牲にして使う力とは最初は気がつかなかったが気がついた後も利用していたそうだ。本人には伝えていないが一度解放された力はどんどん膨れ上がるから……本人もそろそろ異変を感じてるかも……」


フェルもロイドも短命ってこと?

フェルがあと一年!? ショックだ!

ニーナみたいに突然いなくなってしまう!?


「フェルを酷い奴と思うかい? 味方がひとりもいない世界で俺を待ち続けた30年は想像以上に大変だった筈だ。きっと他人が非難出来るものではない。戻れなかった俺を責めてくれても良いのに、フェルはずっと俺の味方でいてくれた」


「アレスはフェルに呼び戻された事、辛かった……よね……?」


「柚子と過ごした時間はかけがえのない時間だと思っている。でももっと早く復活出来ていればフェルを助けられたと言う気持ちもある」


「ロイドは? あとどのくらい!? あのね。ロイド私の子供の世話を……私をあやしたみたいにあやしてくれるって言った事があるの! だから私に生き延びて子供を生むようにって、それなのに死んじゃうの!?」


「……ロイドパパが魔眼を使い始めたのはある程度大きくなってからの筈だから、フェル程早くに逝ってしまう事はないと思うけど……あと3年位持てば良い方じゃないかな?」


3年!? 短い!

衝撃過ぎる話だった。


昨日の夜のロイドとの会話を思い出す。



『ロイド、魔族になっちゃうの?』

『そうですねぇ? なっちゃいますかぁ?』



 あれは酔っぱらいがふざけていたのではなくて結構マジだった!?

何か異変を感じ始めている?

そういえば魔眼を使いたがらないで渋る時もあった。



「魔族転化したらロイドって助かる?」


「そうだね。でも人間としての心は分からない……」


アレスが黙ってしまった。





「……リリア、俺はね。『この世界に救いはあるのか』を見極めなければだと思っている。本当は出来れば時間をかけて考えたい」


「う、うん」

アレスは、本当に勇者なんだな、と思った。

『世界』とか言われてしまうと大きすぎてわからない。




















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