209、マルタのおやつを貰います
静かだ……。
四階で戦っているのかあまり一階まで音が聞こえてこないのかも?
それとも逃げられているのか?
そろそろ一時間は経つと言うのにチビリルも戻って来ない……アレスはどうしたかな?
私とサクラコはすることもなくただひたすら待っていた。
ずっとマルタとロイドの部屋にいるので何も食べていない。
なんだかする事もないせいかお腹が減った気がしてきた。
しまった! 前に迷子になったときに非常食を持ち歩こうと思った気がする。
せっかくアイテムボックスから私の記憶が消えて空いたのだから何かおやつでも入れておけば良かった。(入るか試していないけど)
ぐうっーーーー!
こんな時なのに私のお腹がなった。
「朝ごはんまだでしたもんね」
サクラコがフォローを入れてくれる。
でも恥ずかしい。
「サクラコ、ご飯は食べた?」
「私達は姫様の部屋に行く前に、軽食を食べていきます。 今朝はロイド様も食べていないですね。姫様の分はまだ厨房に用意されたままの筈です。厨房に行った時に持ってくれば良かったです」
「エリザのところに行ったとき? そんな余裕はなかったよね? 大丈夫だよ。1食位抜いても死なないし大丈夫だもん」
ちょと強がってみたが正直お腹すいた。
緊張感無いな、私のお腹は……
昨日最後にお腹に入った物はミルクティーだ。
おいしかった。あれと一緒にクロワッサンでも食べたい。
ロイドには無事に帰ってきてもう一度ミルクティーを作ってもらわなくては……
ガシャーーーーーーーーーーーーン!! バキバキッッ
どこかで何か割れる音と壊れる音がした。
サクラコが窓の外を指差した。
何か瓦礫っぽい物とガラスが落下してきていた。
外を彷徨く屍兵が一体犠牲になって巻き込まれて刺さっている。
おお、被害者(被害屍)が出てしまったか!!
街でたくさんの屍兵がアレスの手によって破壊された時は何も思わなかったが、うちの庭に放し飼い(?)の屍兵がやられてしまうのはかわいそうに思えてしまうのは身内贔屓もいいところだ。
サクラコと一緒にのほほんとしていたが、上は大変な事になっているのか……
ドサッ
「ああーーーー!!」
サクラコが指差し驚いて叫んだ。
ロイドが上から飛び降りてきたのだ。
続いてシーラとレイラも飛び降りてきた。
ロイドがため息をつきながら立ち上がって髪をかきあげた。
怪我は無いようだが顔色が悪い。
そのまま、この部屋の外扉から部屋に入って来た。
「お、おかえり……」
声をかけたが不機嫌そうで返事もしない。
そしてソファーにドカッと座った。
シーラ、レイラが後に続き、部屋に入って来た。
そして部屋にあったピッチャーから水を注ぎロイドに渡した。
ロイドは黙って受け取り水を飲み干した。
とにかく顔色が悪い。もともと色素の薄い人だが肌が青くなっている。
呼吸も乱れて辛そうだ。
こんな追い詰められた感じのロイドは初めて見る。
「30分休憩したら、また行くぞ。シーラ、レイラ休んでいてくれ」
休憩におりてきたの?
上がどんな感じか聞きたいがあまり喋れそうもない様子だった。
「はあ……」
ロイドが頭を抱えて下を向く。
だ、大丈夫なの?
前回30人の犠牲を出した吸血鬼。
やはり強いのか、苦戦してるんだね?
シーラがタオルを濡らし魔法で軽く凍らせた。
「どうぞ、お使いください」
ロイドに渡す。
「すまない。」
ロイドが受け取り額に当てた。
レイラがこの部屋についているミニキッチンで何か作っている。
何かの根をすりおろして小さな葉っぱを刻んだ。お湯で溶かして蜂蜜を少し入れて混ぜている。
「お飲みください」
レイラがロイド渡した。
「………」
ロイドが無言で受けとる。
「シーラ、レイラ、休んでくれ」
「私達は大丈夫です。ロイド様はしばらく横になって下さい」
シーラが言った。
「私達の膝は冷たいですよ。よろしかったら膝枕としてお使いください」
レイラが言った。
「………」
何か言う気力が無いのかロイドは無言でレイラに渡された物を飲んでいた。
何を飲んでいるのかな?
蜂蜜入れてたよね?
私が羨ましそうに見てしまったのかロイドと目が合った。
「……サクラコ……その辺にマルタのおやつがある筈だ。姫様に……」
スミマセン、大変な時に意地汚い感じで……! 恥ずかしいです。
ロイドが指を示した方向にサクラコが向かう。
上の戸棚に手をかける。
「そこじゃない、その下だ」
「はい」
と言いながらそのまま開けた。
中には瓶がズラリと並べてあり、赤黒い液体が入っている。
……た、確かにマルタのおやつ(?)なのかもしれないが私には無理そうです。
「……それを一本持っていこう。シーラ、」
「はい、ロイド様」
シーラが一本棚から出した。
私のおやつにそれは要らんよ。
「姫様のおやつは下」
「は、はい」
サクラコが下からクッキーを出してきた。
マルタの隠しおやつ(?)折角なのでありがたくいただきます。




