208、アレスを起こそう
「何が……起きてるんでしょうか……姫様、わかりますか?」
サクラコが途方にくれた顔で見てくる。
「う、うん、私もよくはわからないけど、四階に閉じ込めてあった吸血鬼が復活したらしいよ」
「吸血鬼!」
ちょっと目が輝いた?
「ダメだよ。サクラコ、ここにいようね」
危険人物に危険な情報を渡してしまったか?
「わかってますよ、姫様を守れと言われましたので、サクラコはロイド様の命令には忠実ですよ」
……ああそうですか。
チビリルが立ち上がった。
ちょっとあんたはどこに行くつもり?
あんたは赤ちゃんのままだから戦えないでしょ!?
チビリルを捕まえて膝に乗せる。
チビリルがじたじた暴れた。
「チビリル! ダメだよ。パパが倒してくるまで待ってようね!」
《やっとパパの役に立てると思ったのに!》
「ん?」
《アレスを起こす!》
「ダメだよ。アレスは全回復して身体を復活させるんでしょ? 起こしたらきっとフェルがキレるよ!」
《でもパパが危ないかも!》
「え?」
《魔力の流れとか本調子じゃなかった!》
マジですか? もしやそれでアレスを呼びたかったの?
アレスはコアをはずして動ける状態ではない筈。アレスに来てもらうにはフェルの協力が必要だ。
前のフェルならお願いしやすかった。
でも、今のフェルは……
アレスが街を破壊している時に会ったフェルは
『アレスの邪魔をするな!』と見たことのない怒り方をした。
翌日は穏やかなフェルに戻っていたが、アレスの邪魔になるような事に関しては別のような気がする。
前のフェルはただアレスが好きで好きでたまらない感じだったが、今のフェルはアレスの事に忠実で崇拝しているような感じさえある。
そしてマルタの事も10年前、興味がなくて(?)助けなかった?
アレスに夢中で?
じゃあ今回もそうなってしまいそうだな……
それでもロイドが本当に危ないのならお願いしなければだ。
《吸血鬼は夜になると更に強いよ。昼間のうちに仕留められなければパパの負けだよ》
「今は朝だから大丈夫では?」
《リリアはバカだな、夜まで逃げられちゃうかもしれないじゃん! 上位の吸血鬼で厄介なのは身体を霧散させて逃げたり生き延びたりしようとするやつだよ。とどめをさせなくなるんだぞ!》
「長期戦になるって事?」
《なるね。上位の吸血鬼ほど厄介なヤツはいないよ! 倒したと思っても血を吸ったら復活しちゃうし……あ、霧散するところとか性質が魔王と似てるね》
どうしてここで魔王の話?
「姫様! チビリルとお話ができるのですね? チビリルは何か知ってるんですか?」
サクラコの前でおもいっきりチビリルと会話してましたよ。(チビリルは念話だから私の独り言っぽいけど……)
「もうサクラコの前で話しても良くない?」
めんどくさいから声を出せ、です。
《ダメ! メイド達は集まるとお喋りになるから良くないってパパが言ってたよ》
変なとこで真面目なチビリルだ。
「とにかく分かったよ。吸血鬼がそんなに危険なヤツならやっぱりアレスを起こしてもらった方がいいよね。 フェルに怒られるのなら後で一緒にご免なさいしよう!
でも私の部屋の道は使えないよ。吸血鬼に近寄る事になって危ないから、外から行かないと」
《リリアは邪魔になりそうだから俺がひとりで行くよ。リリアはここでこのメイドと待ってろよ》
邪魔になりそうですか……否定できないです。
「わかった、おとなしくしてます。チビリルに任せるのでよろしく」
チビリルがジャンプで膝から降りた。
《ママを頼むね》
そう言ってチビリルが走って部屋を出ていく。
頼んだぞ! チビリル!!
ん?
ママってマルタの事?
チビリルはマルタになついていたもんね。
「チビリル行っちゃいましたね。大丈夫ですか?」
サクラコが聞いてきた。
「うん、たぶん」
「姫様は動物と話せる能力でもあるのですか? 感心しました」
サクラコが珍しく尊敬の目で見てくれた。
でもスゴいのは私ではなくてチビリルです。




