207、討伐開始?
「どうした、サクラコ」
ロイドがドアを開けた。
「ロイド様、大変です! 姫様が……」
サクラコが部屋の中にいた私と目があった。
そして下着姿のほぼ半裸のマルタが私に抱きついているのも見られた!!
サクラコは見てはいけないものを見たように慌てて後ろを向く。
「姫様がお部屋にいなかったので慌ててしまいましたがこちらでしたね!」
「そ、そっか、部屋にいなくて焦らせちゃったね。ごめんねサクラコ!」
サクラコに謝る。
ロイドがガウンを取りマルタに羽織らせる。
「報告ご苦労。姫様は無事だ。問題ない」
ロイドが髪をかきあげ、いつもの無表情になった。
「はい!」
返事をしながら横目でロイドを見ていた。
昨日ロイドの髪をおろした姿を喜んでいたサクラコは、更に今の起き抜けのロイドの様子も気になって仕方がないようだ。
「姫様お部屋に戻って支度を……サクラコ、姫様をお連れしろ」
「はーい」
私はいい返事をしてサクラコと部屋を出ようとした。
いつまでもここにいるのは恥ずかしい気がしたから脱出のチャンスだ。
サクラコがまだ名残惜しそうだ。
「心配かけてごめんね、サクラコ」
ロイドに見とれているサクラコの服をちょいちょい引っ張って出ようと合図した。
「あ、いえ! 昨日姫様が夜一緒にいてほしがってたのに忘れてスミマセンでした!! 朝行ったら変な気配が上の方からして焦りました。姫様がお化けに拐われたのかと……」
ロイドがピクリと反応した。
「サクラコ、行くな、ここで待機!」
そう言って天井を見上げてロイドの動きが止まる。
天井のもっと先を見ているようだ。
「サクラコ、よくやった。よく探知したな!」
ちょっと犬を誉めるときのように聞こえてしまうのは気のせいか?
サクラコが頬を染め嬉しそうに顔を輝やかせた!
誉められても、叱られても、どちらも嬉しいのね。
そのままロイドは廊下の先を見つめた。
少し黙った後にマルタを見る。
「マルタ、身体に何も異常はないね?」
「ええ、特に無いけど……どうかした?」
ロイドは答えないまま、引き出しから鍵を出す。
「サクラコ、厨房にエリザがいる」
「はい?」
「これはエリザの部屋の外鍵だ。エリザに部屋で待機を伝えてこれで外から鍵をかけてこい」
「外から鍵を……ですか?」
サクラコが戸惑い顔になった。
「大丈夫だ、エリザはわかっている。操られて他の者を傷つける事の無いように本人の希望だ。部屋も簡単に出られないように補強済みだ。鍵をかけたらすぐに戻れ、行け!」
「は、はい!」
ワケわからない顔をしながらサクラコは走って行った。
「姫様」
今までの流れから嫌な予感しかしないのだが……?
「なんでしょうか……」
「アレスはどうしました?」
「えーっと、アレスは昨日3日ほど寝ると言っていたので、あと2日は眠っていると思います」
ロイドが微妙な嫌な顔をした。
以前よりずっと表情が豊かなのはいいが最近嫌な顔をよく出すな。
「アレスに倒してもらいたかった」
ロイドが呟く。
え! え!? なに言ってるの?
「ロイド……あの……」
ちょっと引っ張ってかがんでもらう。
マルタはキョトンとしたままだ。
マルタの手前大きな声で言えないが……
「王妃様が起きたの?」
ロイドの耳元で小声で聞いた。
「……」
ロイドが無言で頷く。
あれ? じゃあマルタとウォルターさんの仇じゃん。あ、エリザも……?
「じゃあリベンジ戦だね。自分の手で倒したいでしょ? アレスがいなくても問題ないじゃん」
ロイドがますます嫌な顔をした。
「私がそんな熱い男に見えますか? アレスだったら一発のところ私がやったら十発は必要ですよ。効率悪いでしょう? 出来ればアレスに任せたかった」
ロイドが本当に嫌そうにため息混じりで言った。
え? ロイドってこう言う人?
「『よくもマルタを吸血鬼にしたな! 倒してやる!』って行くんじゃないの?」
「そんな事をしに行くよりマルタの側にいる方がいいに決まっているじゃないですか」
がーーーーーーーーん!! マジですか。
そう言われればそんな気もするけど……
そう言ってからキョトンとしたマルタに向かい。
「今から仕事だ。マルタは待ってて」
「ロイ……どうしたの? 危ない?」
「危なくないよ」
そう言ってマルタを抱き締め、キスをした。
「ロイ……?」
そしてロイドの目を見たマルタは呆気なく気を失った。
マルタをベッドに寝かせ、チビリルを私に渡して来た。
チビリルがくりっとした目を開いてキョロキョロしている。
今起きたのか?
戸棚から魔方陣の書かれた布をだしマルタの上に被せる。
「マルタはどんな影響が出るかわからないから簡易結界をかけ守護もつけます」
戸棚から小瓶を何本か取り出す。中身は何かの灰?
魔方陣の数ヵ所に灰を置く。
手に傷をつけ自分の血を別の小瓶に入れた物をマルタの頭の上と足先に置き四ヶ所に血を垂らしていく。何かの呪文を唱えた。
「彼の者の名はキルフ、ベドウイル、カイ、ガウイン、四つの光となり守護者となれ」
マルタの回りに白い大きな四つの光が現れ、光が繋がっていく。
チビリルがしっぽをふりはじめた。
今までの寝ていたからチビリル状況がつかめてない筈だ。
なのに何でご機嫌なのか?
「パパなにするの? 俺も手伝うよ!」
嬉しそうにしっぽブンブンだ。
「チビリル……アレスを呼べるか?」
この期に及んでまだアレスにやらせたいの?
ロイドって好きで戦ってる系の人だと思っていたのに違うんだ。
「アレスを起こすと怒られるかも……」
チビリルが困った顔で答える。
しっぽもペタんこになった。
「え? アレスが怒るの?」
そんなことで怒るようなアレスではない。
「怒るのはフェルだよ」
ああ、そうなんだ。なんか納得。
怒ったフェルは怖い。
「ロイド様、戻りました!!」
サクラコが戻ってきた。
「サクラコとチビリルは姫様を守れ! 私は出る」
ロイドがシャツをキッチリ着てジャケットを羽織り、手袋をつける。
執事服は戦闘服のようだ。
ちょっとカッコよく見えた。
「シーラ、レイラ、行くぞ!」
いつの間にかドアの外にシーラとレイラが控えていた。
王妃様、討伐開始だ!!




