206、無実の証明
ロイドが覚えてなければ私は夜中にひっそり他人のベッドに忍び込む不審者だ。
私の無実を証明してほしい。
マルタに起こされたロイドは半分寝ぼけていた。
「私達は今朝は休みなので姫様の朝はサクラコが見る筈ですが……」
ロイドはあくびをしながら答える。
酔っぱらいおやぢ!! 覚えてないとは!!
むきーーーーーーーーー!! ムカつく!!
マルタに嫌われたらどうしてくれるのよ!!
「あ……」
マルタが何かに気がつく。
ロイドを乗り越えベッドから降りてテーブルの上の瓶二本に手を伸ばす。
「こんな強いお酒を二本も飲んだの?」
マルタが振り返る。ほっぺを膨らませている。
「え? いや、そんなに飲んでないとは思うけど……」
「だって二本とも空っぽ!!」
マルタがロイドに瓶を突きつけた。
「あれ? 何でかな……?」
ロイドが目線を外す。
「こんなに飲んだら身体に悪いのに!! その上、酔っぱらって姫様を連れて来てしまうなんて! 貴方がそんなことするなんて!!」
ロイド幼女誘拐疑惑が……?
それはちょっとかわいそうなので私が説明するしかないか……。
「いや、違う……姫様が来た、来たんだ! ね? 姫様?」
ロイドが同意を求めてきた。
マルタの前だとロイドの様子がまるで違うのが面白い。
昨日ロイドの話を聞いてロイドには優しくしてあげようと思ったばかりだったが、ちょっと楽しくなってきてしまった。
このまま様子を見たくなってしまう。
「姫様? 返事は? 姫様が来たんですよね? 一緒に話をしてたんですよね?」
全部かどうかわからないけど記憶があるらしい。
ああ、面白そう。このままちょっとだけ意地悪をしてしまおうか……?
でもダメだ! 私はよいこになると決めたばかり!
「マルタ、昨日ロイドに用事があって私が来たの」
「そうですよね? 姫様。よく言えました! 偉いですよ」
この程度で誉められました。
「つまり怖くてひとりで寝られない姫様がここで寝たがったんだよ」
マルタに笑顔でロイドが言った。
えーーーーーー? なんか違うーーーーー!?
私だけを悪者にされた気分。
私が不審者と怪しまれたら今度は私の潔白はロイドがはらすべきだが大丈夫か?
「姫様は怖がりですね」
マルタが笑った。
お怒りは解けましたか?
「ごめんね、マルタ」
ちょっとモジモジ恥ずかしそうに言ってみる。
マルタには子供パワーが効く筈だ。
こんな計算高い子供は嫌だが……
ロイドにいろいろ言いたいことはあるがマルタの機嫌が直るならここは私が大人になって謝ります。
「いいんですよ。昨日は突然私達がいなくなったので不安だったのですね?もうどこにも行きませんから安心してくださいね」
そう言ってマルタが私を優しく抱き締めた。
天使!! 聖母のようだ!!
マルタに抱き締められると良い匂いがした。そしてとっても柔らかい。(胸が……)チビリルが気に入って乗っている気持ちがよくわかる。
ロイドを見るとホッとした様子だった。
私のお陰ですよ、お父さん。忘れないでね! と目で合図を送った。
そしてチビリル、これだけ騒いで何故まだ寝ているのか……。
私が起きるのにどかしても幸せそうにお腹を出している。
その時勢いよくドアがノックされた。
「ロイド様、大変です!起きてますか?」
サクラコの声だ。




