201、お説教タイム
「姫様は大人しくするということが1日も出来ないようですね。少しは反省した頃かと思ったのに……」
ロイドが機嫌悪そうに睨んできた。
「ロイド、お帰りなさい」
私はしおれた状態で椅子に座らされた。
サクラコは後で叱られるので一階で待機と言われていた。
サクラコにとって御褒美にならないように気をつけて下さい。
つまり今から叱られるのは私ひとり!
お説教タイム。甘んじて受けましょう。
「リリア様、お土産です」
お説教を覚悟した私にマルタがポプリを渡して来た。
「お部屋で使ってくださいね」
マルタがにっこり笑う。天使の笑み。
渡されたのはビン詰めのかわいいポプリだった。
私服のマルタはこの前新調していた深緑色のワンピースドレスだった。
この色いいな、と思っていたらマルタがロイドの瞳と同じ色だと言ってワンピースを注文していたのを見ていた。
きっと今日のお出掛けの為に張り切っていたのだろう。
それなのに速攻帰って来るとは……?
「ありがとう……帰りは明日かと……」
受け取りながら戸惑ってしまう。
「私達が留守にする事を私から言えば良かったのですが、うっかりお伝えせずに出掛けてしまい、その上ロイドも伝え忘れたと言うので急いで帰って来ました。突然ふたりもいなくなったら心細いですよね。申し訳ありません」
マルタは忘れてたのかもしれないけどロイドはわざとだと思うよ。
「でも、せっかくのお休みで旅行だったのに、こんなに早く帰って来なくても……」
「ロイドと二人きりで王宮の外にお出掛け出来ただけでいいのです。お土産も買えましたし」
マルタはにっこり笑っている。
私はなんだか心が傷んだ。
なんとも言えずにぎゅっと痛む。
私はここに来てからあまり王宮の外に出ていないがマルタはもっと長い年月不自由をしているんだ。
本当はゆっくり行きたかったはず。
「マルタ、ごめんなさい」
私はちょっと泣きそうだ。
泣いてばかりいるので干からびるかもしれない、ここは堪えよう。
「どうしてリリア様が謝るんですか?」
「だって旅行だったのに……私の事はほっといて心配せずに行ってきてくれて良かったのに」
本当はさっきロイドが帰って来なければ四階の道が開通するところでしたが……
「ほっとくなんてとんでもないです!! リリア様は私達の大切な存在ですよ。心配くらいさせて下さいね」
おお! もうホロリと来てしまう。
マルタは天使だ。何て良いこでしょうか。
敵国でいじめられて育ったとは思えない純心さ。
でもこれはロイドのお陰でもあるのかもしれない。
おそらくマルタを守るために必死に泥を被ってきただろう。
「でも、本当にごめんなさい。私、ロイドに怪我までさせてしまって……」
言いながら涙が流れてしまった。
泣くまいとしても私って泣き虫。
一瞬、ロイドの顔が、あ! という表情になった。
!?
「ロイドに怪我? 怪我してるんですか? 怪我?」
マルタの表情が変わった。
マルタはロイドに向かって服を引っ張った。
「怪我してるの? どうして隠すの!?」
「あ、いや……たいしたことない」
ロイドが目線をそらした。
こんな態度のロイドはなかなか見られない。レアだ。
「嘘! どこ?」
そう言ってマルタがロイドのシャツをまくり上げた!
腹筋が見えた。
(私はアレスの腹筋だけで充分です)
「マルタ……姫様の前で……」
ロイドが止めようとした。
表側に傷が無い事を確認したマルタは
「背中? 背中の方?」
そう言ってマルタはロイドのシャツを脱がし始めた。
仕立て屋さんが来たとき女子達であんなにロイドを脱がせようとして失敗していたのにマルタはアッサリ脱がしてしまった。
そして背中にガーゼと絆創膏が四ヶ所貼ってあるのを発見!
瓦礫が飛び散った時に私を庇って背中も怪我してましたか。スミマセン。
「どうして隠してたの? そう言えば昨日着てたシャツはどうしたの? 今朝洗濯に無かったけど?
そして誰に手当てしてもらったの?」
「別に隠しては……」
ロイドがマルタにタジタジだった。
「誰に手当てしてもらったの?」
マルタが大きな声でもう一度言った。
そうだよね。背中じゃ自分で出来ないもんね?
「エリザだとウォルター様に報告される可能性があるから、口の固さでシーラとレイラに頼んだ……」
ロイドが目をそらしたまま答えた。
シーラとレイラが手当てしたのか……じゃあシーラとレイラは役得だったね。
二人は喜んでくれたと思うよ。
「浮気!!」
マルタが叫んだ!
「違う! 二人きりとかじゃないし三人だろう? 浮気じゃない!! 浮気にならない!! 傷の手当てだ」
「何で私に手当てさせてくれないの!? 他の女の子に肌を見せるなんて酷い!」
マルタが泣き始めた。
マルタ、他の女の子にロイドの肌を見せるの嫌なのね。
でも今、思いっきり私の前で上半身裸ですが……?
私のお説教タイムになるかと思いきや、マルタからロイドへのお説教タイムと言う珍しいものを見せてもらいました。
お陰で私の涙は引っ込んだ。




