19、真夜中の温室
「"ラフラン"ていうお花がね~10年に一度、満月の夜に一回咲くの~それがたぶん今日なんだよ~。」
歩きながら嬉しそうにフェルが説明してくれる。
後宮の西側の位置にあると言う温室へ私とフェルは歩いていた。
二人の格好はこの前のウサギと犬の着ぐるみだ。
なぜこんな格好をしているかと言うと、この着ぐるみには"隠密"という"スキル"がついているらしい。着ているとあまり回りから気にされなくなるらしいのだ。
"隠密"…なにそれ超カッコいい…
とか思ってしまうチョロい私は最初ウサギを着るのを断固拒否しようとしたが、この説明であっさりと着用した。
"常時発動"の着ているだけで目立たないスキルは勿論、他にも、
気配を完全に断つことが出来る。(忍者っぽい)
魔力探知に引っ掛からない。(ただし、触れるとバレる。)
透明になれる。(これも触られたらダメ。)
自分達の会話や音を完全消音。(1メートル以内に入られるとダメ。)
周りの音を聞き取る。(この機能は前回暴走したので調整して"最大出力"から今は自分の周囲5~6メートル程度の"微弱"に設定。)
ポシェットにフェルがキャンディをいっぱい詰めてくれた。
甘いものを食べるとスキルを発動出来るらしい。
何だかピクニックや遠足に行く気分だ。
とりあえずキャンディを食べながら二人で進んでいく。
前方に屍兵発見!
夜見る屍兵は昼間より更に迫力がある。
だが私は今は隠密!気分は忍者!怯む訳にはいかない!
私とフェルは同時に両手を挙げ、『スキル発動!』と唱える。
ちなみにこのポーズをしないと上手く作動しない…とフェルが言うが本当だろうか?
屍兵は全く私達に気が付かず行ってしまった。
おお~何だかスゴい!見直したぞ!!着ぐるみウサギ!
その後も屍兵に会うたびに繰り返し、遂に温室が見えてきた。
満月のおかげで意外に外も明るく進みやすかった。
今日の私は屍兵をあまり怖いと感じなかった。
フェルも一緒にいるお陰と"着ぐるみウサギ"のお陰だ。
まるでゲームでもしているかのようだった。
「フェル、凄い物を作ってくれてありがとう。」
嬉しい気持ちをフェルに伝える。
あんなに怖くて気持ち悪いと感じていた屍兵が今では気にならない雑魚キャラのように思える。
「どういたしまして~リリアに誉められるとボク嬉しい~。」
とっても良い調子で温室にたどり着け、私達二人はごきげんだった。
温室はなかなか立派なものだった。
ただあまり手入れはされていないようだ。
鬱蒼と大きな葉っぱが繁っていたり、枯れている植物があったり、枝が折れているもの等もある。本当はとても綺麗なところだったのだろう。温室の中に屍兵はいないようでちょっとホッとした。
人が通る道が何とかあるので進んでいくと温室中央の広い所に出る。
ドーム状の天井の下には休憩用の大きめなパーゴラがありベンチが置いてある。満月に雲がかかったので周りが暗かったがフェルが魔法で足元を照らしていたので大丈夫だった。
突然、フェルが明かりを消して止まる。どうした?と思う。
雲が動いたのか満月の明かりが温室のドームに降り注ぐ。
本当に今日の月は明るい。
「ボクの鼻に反応した誰かいるよ」
フェルの着ぐるみは嗅覚に優れている。何かに気が付いたらしい。
あれ?フェルさん?今両手を挙げて"スキル発動"ってしてないよね?
やっぱり普通にしてても使えるのでは?
フェルに騙されたのかと疑いながらも警戒して石のオブジェの後ろに二人で隠れる。
オブジェの後ろで改めて「スキル発動」
そして誰かいるかもしれない方をゆっくり覗いた。
確かに誰かいた。
月明かりに浮かび上がったのは、ロイドとマルタだった。




