1、王都へ
突然ですが、王都到着ーーーーー!!
いきなり何だ? となってしまうが、来ましたよ! 王都に!
さかのぼること3日前
私の住む村に厳つい感じの馬車が現れた。
舞踏会に連れて行ってくれそうなシンデレラが乗る金ピカに装飾された馬車でなく、軍用の装甲でがっちりした長方形の箱の様な黒塗りの馬車。
朝、いつもの様にモーモに草を食べさせて、新しいお水を用意して家に戻ると、うちの前でおじいちゃんが6人位の厳つい甲冑の鎧の人達に囲まれていた。
なにそれ、ちょっと怖い……
その中にこの辺じゃちょっと見た事ない、眩い美しい金髪を七三にした執事服の青年がいた。遠目からでもモデルか?って感じに足は長くスタイルの良い、田舎にはいない感じの人。
その執事服の人は私に気がつくと、周りの鎧の人達を手で制し、こちらに向かって優雅に歩いて来て私に挨拶をした。
ーーにっこりーーー
顔は笑顔を作り確かに微笑んでいるが、その人は全く笑って無かった。
なんだか背筋がゾクリとした。
「リリア様ですね? お迎えに上がりました」
恭しく礼をされているのに、全くもって敬われている気がしなかった。
笑ってるのに、妙な迫力があって怖い人だった。
整った美しい顔をしているのに、その瞳は冷たく私に向ける眼差しに温かみは一切存在しない。本来は讃える程美しい筈の容姿が、返って恐怖を感じさせた。
深翠の瞳が怪しく光り、目が全く笑って無い。
何か返事をした方がいいのか、怖くて頭がよく回らなくて戸惑っていると、鎧の人達の間からおじいちゃんの叫ぶ声がした。
「リリア、逃げろーー」
おじいちゃんの声で我に返った私は、身を翻して逃げる! ……つもりだった。
しかし、その後の記憶が無い。
ーーー気がつけば私は何処かに寝かされていた。
薄目で周囲を確認し微妙に揺れる背中に、どうやら乗り物、馬車の中っぽいと判断した。
何がおきたのか? 何かの魔法ですか?
これで縛られでもしたら間違いなく誘拐のような……いやいや、縛られなくても気を失っている間の移動、これって誘拐だよね? おじいちゃんの姿もないし……
あの後おじいちゃんはどうなったのか、心配をしつつ、私のおじいちゃんちょっとアレだからきっと大丈夫。ちょっとアレっていうのは破壊魔というか馬鹿力というか豪快で無駄に丈夫なとこがあるっていう……うん、この件はとりあえずおいておこう。
今は自分の心配をした方が良い。
「気がつかれましたか? リリア様」
不意に声をかけられて驚き、びくっとしてしまう。
恐る恐る声のした方を見た。
私の寝かされていた座席の向かいには、村で見た金髪執事服の青年がこちらを見詰めていた。
更にその隣にはメイド服のお姉さんもいた。
メイド服のお姉さんは美しい艶やかな金髪で、長いと思われるその髪を後ろに二つに縛り、低い位置におだんごをしていた。20代位? 肌は白く陶磁器の様でまつ毛も長い。 顔のパーツの配置が完璧で 凄い美人。
あ、でもこの二人何だか似ている? よくよく見れば男女の差はあるけど同じ顔? 二人とも色白でキレイな顔立ち。兄妹? まさか双子とか?
視線を合わせないように執事服の男の顔を覗き見た。
最初の印象では歳は30位?と思っていたけど、思っていたより若いのかもしれない。しかし双子というには執事服の男の方が年上に見えた。
少女漫画から出てきたようなモデル体系で、顔立ちも完璧。
こんな綺麗な人間が2人も存在するとは……
前世でもこんなに綺麗な人達見たこと無いと思う。
乗っている馬車は、家の前で見た厳つい軍用の馬車の中だと思われる。結構な広さで8人位乗れそう。座席もちゃんと革張りのクッションが張ってある。動いてるようだけどそれ程揺れはないのが不思議。
この馬車に乗っているのは私を含めた3人だけ。
小さい私が大人が4人乗れそうなワンシートをひとりで占領して寝かされていた。 座席のシートの奥に扉が一つ、前の方にも扉がある。きっとあれが外へ出る扉。 ちょっと違うかもだけどキャンピングカーみたいだなと思った。乗った事ないけど。
誘拐かもしれないのに落ち着いて観察してしまうのは、私が前世の記憶があるおかげで、見かけより大人だからかもしれない。
危害を与えるつもりなら気を失っている間にどうにでもできたろうし、そもそも抵抗しようにも、大人2人の前で幼女の私は悲しいことに何も出来ない。
「おじいちゃんは?」と聞くと
「バルク様は村に残られました」とすました顔で答える金髪執事服の男。
いやいやいや、そんな普通に残ったって状況に見えなかったよ。
バルクはおじいちゃんの名前。この執事服の男とおじいちゃんは面識があったのだろうか?
私の顔に不満や疑問が出ていたのか、執事服の男は一気に事情を語りだした。
おじいちゃんはかつて王都で騎士だった事。
お母さんが王宮で働いていた事。
そして私は現国王ヴァリアル·グランディス=エターナル3世の落とし胤のようです。
そう、つまり私はこの国のお姫様だったのです!
ーーーーお姫様ーーーーーーーーーー!!!
今まで地味な村人と思っていた私は一気に世界広がりを感じた。
嬉しい! 嬉しい! テンション上がる!! 姫だよ。姫! お・ひ・め・さ・ま!
おじいちゃんは心配して私が王都に行くのを反対していたらしいが、何とか執事服の男が説得したと言う。
(なんか怪しい。ほんとに?)
王都に着いてから安心して貰えるよう手紙を書く事を約束したらしい。
本当か疑わしいと思いながら、手紙と聞いて色々質問した。
この世界の文字を余り知らない私は、文字を教えて貰えると聞き、更にテンションが上がる。
おじいちゃんから微妙に文字は教わっているものの、字を練習する機会が無かったので書けるまでに至っていないし、知識というものが全く無い。
お城に行ったら、本も読めるかも、美味しいものもいっぱいあるかも。
今まで野生児の様に過ごして来た私は、この世界の都会文明に触れられるかもしれない喜びで、色々あった筈の不安が吹っ飛んでしまった。さらば野生児生活。
本来、知らない人の甘い言葉を信じてはいけない筈。
だが私はちょろかった。前世の17歳くらいの記憶があるせいで、自分は結構大人だって思っていたけど、現在10歳児の私は、肉体年齢に引っ張られる部分も多いのか、チョロすぎた。
馬車はグングン進んでもう戻れないし、このまま王都を楽しませて貰おうとか思ってしまった。
私の機嫌が良くなり、会話も弾んで来たところで、執事服の男とメイド服のお姉さんが改めてと、自己紹介してくれた。
執事服の男の名前はロイド。メイド服のお姉さんはマルタと言い、私の専属の侍従と言うことらしい。ついでに聞くと、この二人は双子だそうだ。
マルタはすごく優しくて馬車の中で寝辛くないように毛布やクッションの用意をしたりお膝をかしてくれたり(だって私この世界では小柄な10歳児だから)食事は馬車の中で簡単な軽食サンドイッチを用意してくれて、おやつにクッキーまで用意された。幸せ。村ではおやつなんてほぼ無い。
マルタは生活魔法が使えるらしくポットの中にお水を出してお茶まで入れてくれた。
私が退屈しないように魔法で水玉を作って中に浮かせて見せてくれた。そしてにっこり笑顔は怪しいどころかとっても安心させてくれる。
村には若くてかわいい綺麗なお姉さんはいなかったのでその存在だけでありがたい。久しぶりに女の子とおしゃべりした気がする。前世の私よりお姉さんだけど友達が出来たみたいで楽しい。
それにくらべて常に厳しい顔をしている金髪七三男…いやロイドね。
私達がキャッキャとおしゃべりしている間中不機嫌そうだった。こういう顔なのかも?初めて会った時の笑顔が怖かったし不機嫌そうでもいいか。ムリに笑顔は求めません。兄妹なのにマルタと違うのね。気にしないようにしておこう。
あと護衛で馬車の回りにいる全身鎧の人達。乗っている馬まで全身甲冑を着ている。馬動き辛くないのかな?
馬車の窓から覗いて見ているが一言もしゃべらない。愛想ないな。でも一応王族に勝手に話しかけられないだろうし。話題もないか……それに向こうは仕事中だしね。
あまりに無言のせいか少し不気味な感じもしたけれど、お仕事中の人に対しそれは失礼だろう……
馬車は凄いスピードで走り続けている。そのわりに揺れないのは魔法のせいなのか? 凄いぞ魔法
途中何度か空間が捩れるように辺な感じがあった。
超高速で移動をし王都と地方を繋ぐ門を使用し距離を縮めたらしい。
今は失われた技術で作られた魔導門で、勇者が昔使用した時は魔物から街や村を救う為移動に多く使われていたそうだ。
おお、来たファンタジー!
以前は大陸全土にあった門も、魔王軍との戦いで使用不可能になってしまった物が多い。
使用するには多くの魔力が必要で、本来複数の魔導士が維持していた。今は人員不足で維持出来ていないそうだ。
もっと便利で自由に場所を設定出来る転移魔法というものが太古には存在していたけれど、現在では失われた魔法だそうだ。
今回使用するにあたり、数年かけて魔力を貯め私を迎えに来てくれたそうだ。
門を潜る時にお腹が捩れるような変な感覚にぐえっとなってる私に、マルタが優しく説明をしてくれた。
ん? 数年?
普通に来た方が速くない?
そこは小さな私に負担をかけたくなかったという思いやりかな?
別の理由もありそうだが……
これはもう何百キロとか数千キロとか村から離れちゃったかな?
自力では絶対帰れない。
馬車は走り続けている。
鎧の騎士達は沈黙を守ったまま疲れも見せずに併走する。
この不気味さに気付かない私を乗せたまま。