198、優しいアレスに甘えたい
一通りフェルの話を聞いてからアレスの顔を見に行った。
アレスはいつも通り眠ってる。
………思ってた以上にロイドもマルタも気の毒だった。
マルタが愛妾にされるってだけでもかわいそうなのに……
本当に二人にとってここは敵国のままなんだろうな。
そして私は……私は……逃げたセレシャの娘で、その上事件の日にロイドを連れ出してマルタから引き離したロゼッタ様の妹でもある。
前にマルタはロイドはロゼッタ様が好きっぽい事を匂わせていたが、事件の日に自分よりロゼッタ様に付いてロイドが行ってしまったからだろうか?
あーー悪質だよ! 姉姫様達……。
いや、私も悪質だったんだね。
ロイドに言われた事を思い出した。
私、姉姫様達にそっくりだって言われたんだ。
『そうやって駄々をこねれば思い通りになると思っているところがそっくりです。こちらがどんなに困っても関係ないし考えない』
ロイドの言葉を噛みしめてみる。
ごめんなさい。
我儘でした。
ロイドが帰ってきてくれたら良い子になります。
良い子になるからちゃんと帰ってきて、お願いします。
ふと、髪に何か触れた。
アレスの手……?
「ハイハイ! 来たよ、なあに?」
チビリルが地下室の端から走ってきた。
!? なんだ?
「まったく、そこまで消耗するほど暴れるなよ!」
チビリルがぷんぷんして怒っている。
チビリルがジャンプ!!
ピょーん!!
アレスのお腹の上に乗った。
「え、ホント? それで出来るの? うんいいよ」
チビリルがアレスと会話している。
「リリア、我の背に手を置け!」
チビリルが突然偉そうに言ってきた。
でも今の私には何も言えない。
素直にチビリルの背中に手を置いてみた。
《リリア、ごめん。今コアもつけてないし魔包衣も巻いてないから動けないんだ。魔力と精神力が回復したら動けるようになるからね》
アレスの声だ。
「アレス、意識あったの?」
《眠ってたけどリリアが悲しんでいるのがわかった。リリアが悲しい時に動けなくてホントにごめん。無理してでも先に時間停止を解いておくべきだった。ダメだな俺は……》
アレスが焦った感じに言った。
昨日大暴れして魔力を使いきるなんて、確かに勇者にしてはちょっと間抜け(?)だ。
「フフ、アレスもうっかりなところがあるね」
《久しぶりに暴れたら楽しくなっちゃって……ずっと動けなかったしね。時間停止魔法を一時停止させてるから黙ってても魔力消費するのにそれを忘れるくらいジルニトラの爆炎はなかなか派手でいいよ。面白かった》
「あ……」
それ……ロイドが怪我したヤツ。
《どうしたの? 今度リリアにも見せてあげるね》
「その爆炎のせいで……」
《どうかした?》
違う! アレスのせいじゃない!
私が悪いんだ、人のせいにしちゃダメだ。ワガママ姫になってはダメ!!
《リリア、どうして悲しんでた? 何かあったのか?》
「ちょっと失敗をしました……」
《失敗?》
「うん。我儘を言ってロイドパパを困らせてしまったのです。謝らないとです」
《そう……何で敬語……?まあいいか……じゃあね、俺が起きたらいっぱい我儘言っていいよ》
「え?」
《リリアの我儘は俺がかなえるよ。何がしたい?》
ぶわっと涙が出た。
「ありがとうアレス……アレス……大好き!」
《俺も……好きだよ、リリア》
優しい! 優しい上にイケメン!!
また惚れ直してしまう!
「アレスと一緒に寝ててもいい? アレスにくっつきたい」
《いいよ、棺桶狭いけど……リリアが良ければ、おいで》
「俺狭いのやだ!」
チビリルが叫ぶ。
《いいよ、チビリルありがとう。リリア、会話出来なくてもいいよね?》
「うんいいよ、ありがとうチビリル」
チビリルはお礼を言われ満足そうにしっぽをふる。
そしてジャンプしてまた地下室の端にかけて行った。
スライムのプルルンが跳ねているのが見える。
二人で遊ぶのか?
私はチビリルが乗っていた所に乗るつもりでいたが……
冷静に見てみたら今アレスって包帯巻いてないのよね。
私はちょっと顔が熱くなってしまった。
自分でアレスにくっつきたいなんて大胆な事も言ってしまった。
二人きりならまだしも……ここにはフェルもいる。
フェルは私とアレスのやり取りをチラッと見たきりコアに魔力を込める作業に入っていた。
けど、寝ている半裸のアレスに抱きつく姫様ってどうよ?
姫ってそんな事をしてはいけないよね?
アレスが抱きつくのはいいけど私からってどうなの?
しかも半裸。
ある意味チャンス?
『姫様、下品ですよ』
ロイドの声が聞こえた気がした。
「アレス、ありがとう。やっぱり私……部屋に戻るね」
私は姉姫達のようにはならない、良い姫にならないと……




