196、マルタの事件!?
「ロイくんは出ていってないと思うよ。」
フェルが顎を掻きながら言った。困り顔だ。
「リリア、ロイくんはね。逃げたりしない人なんだ」
涙を拭くように布が渡された。
「だって、だって、いないんだよ! 出て行ったんだよ!!」
私は必死に訴える。
「うん、それはね。旅行だね」
旅行ー?
「怒ってたからリリアに言い忘れたのか、マルタが言うはずが言い忘れたのかは知らないけど、ボクは聞いてたから……」
は!?
ボクは聞いてたから?
「どういう事?」
「何日か前に……聞いてた。ウォルターさんから許しがあってお泊まりで出られるって、その後チビリルからアレス帰ってくる話になって……」
知らないのは私だけ?
「えっと……マルタちゃんの事件から10年だって事でロイくんはね、今までマルタちゃんを何処にも連れていってあげてないから、何処かに連れて行ってあげたかったんだよ」
マルタ事件? あの妾にされそうになって病気にされたってやつ?
「まあ、あの日もね、あれはロゼッタ様かな? 三姫様は皆でロイドの取り合いをしていた訳だが、ロゼッタ様の我儘で、ロイドはロゼッタ様に命令されてロゼッタ様と出掛けたんだ。あの頃はまだボクの手伝いもしてくれていたから話はある程度聞いていた」
ロゼッタ様と出掛けた? それがなんだろう?
「前日から誘われ続けて断ってもなかった事にされてしまうから参っていたよ。その数日間ロイドはどうしてもマルタから離れたくなかったんだ。王妃様の機嫌が悪くマルタは標的にされていたから……」
マルタから離れたくないのはいつもの事だと思うけど、標的って何? 怖い。
「ロゼッタ様の用事は当時流行っていた観劇で、別にその日でなくても良かった筈だ。でも執拗に誘ってきて断り続けると"マルタが逃亡しようとしている、言いつける"と言われたそうだ。
勿論ロゼッタ様の嘘だけど、その嘘は間が悪い時だった。マルタがヴァリアルの愛妾にって話が出ていたから……嘘でも信憑性があり過ぎて……マルタが罰せられる事を恐れたロイドは仕方なくロゼッタ様と出掛けたんだ……」
……。
あれ? それで……? そのあとは?
フェルは黙ってしまった。
ちょっと目を伏せて続きを話したくないらしい。
少し時間をおいてから意を決したようにまたゆっくりと話始めた。
「当時からボクはアレスの復活以外に興味がなくて……後宮に出入り出来る筈もないし……ちょっと無責任だった。アレスの魂を戻すのにロイくんの力を利用したのに彼の大変さを分かってなかったんだ。
マルタちゃんを助けてあげようとも思わないし無関心だった……そして事件があった……ロイくんがいても変わらなかったかもしれないがロイくんはマルタちゃんを守れなかった事を凄く悔やんでいた。たぶん今も……」
「事件? 前に事件があってロイドはフェルのところを離れたって聞いた気がする」
「うん。当然なんだ。ボクは何もしなかったから……マルタちゃんを守ろうとしてくれたのはウォルターさんだった。ボクは師匠失格だよ」
「事件て……何があったの?」
「王妃様の暴走で当時いたメイドが30人惨殺された。王妃様の住んでいた四階が血の海になったらしい……」
惨殺!!
なんか思ってた以上の事件だった!?




