180、すぐにお別れって悲しい
お馴染みのアレスの精神世界だ。
無事にアレスの世界と繋がったようだ。良かった。
今日のお店はどこかな?
明るいガラス張りの店内に観葉植物がセンス良く配置された。駅の近くのスフレが美味しいカフェでした。
またしてもお洒落空間。
大きなガラス越しに行き交う電車が見えます。
スフレはふわふわの三段重ねで粉砂糖がふってある。シロップとクリームが添えてあり。めちゃめちゃ美味しそうだった。
アレスはにっこり笑いながら向かいの席に座っている。
今日のアレスは制服だった。
私、柚子も制服だ。
て、あれ? 今日の私はリリアではなく柚子ですね。
せっかくなのでスフレいただきます。
ふわふわだーーーーー!!
至福ーーー!
スフレを頬張る私をアレスが見つめている。
あ、私バカ面で食べてましたか? 気を付けないと……
「今日はこのままデートでいいかな……」
アレスが言った。
「ん?」
「いろいろ聞きたいことが柚子にあると思ったけど、もういいよね。後でフェルかお父さんに聞いて」
「何でロイドの事ずっとお父さん呼びなの?」
「何でって、君も呼んでたし……『勇者にお父さんと呼ばれるのは光栄だ』って言われたから……いいかなって……」
「本当のところはわからないけど、ロイドは言ってることが歪んでる事があるから注意だよ!」
「そう? 嫌がってなさそうだけど……」
アレスが私の左手を握る。
(右手はスフレ用のフォークを握っているから)
「柚子、寂しかった?」
「うん。寂しかった。アレスは?」
「そりゃ寂しかった」
そう言って隣に移動してきた。
おお、近い。
そして頬杖をして私の顔を覗き込む。
な、なんか和くんてこんな事した? この慣れてそうな動きは何?
間近で顔を近づけられて私は真っ赤になった。
「柚子かわいい、連れて行きたいな……」
きゅん!
心臓が跳ねた。
アレスが私の頭を撫で腰に手を回した。
私はドキドキして固まってきた。
頬にアレスがキスをした。
「ここ……お店の中だよ……」
やっとの思いで言った。
「現実じゃないから平気。誰も見てない」
私の頭は沸騰寸前だった。
もうヤバい!
どうしたのアレスー!
こんなに態度に現す人だった?
なんだかアレスが色っぽい。
二人きりだから? ナイスだぞ二人きり!! 万歳二人きり!!
「柚子……ゴメン、またすぐにお別れだ」
ん?
「まだ目的を終えていないから……行かないとだ」
どういう事?
「今回は戻って来たけど、しばらく連絡もつかなくなるかもしれない」
連絡もつかない?
「もっともっと奥まで行ってこないと……」
「どこに行くの?」
「精神世界の奥、次元の狭間……とでも言うか」
「なんで?」
「ジルニトラに会えて、ある程度は力の使い方がわかった。身体の時間停止はもう解く事が出来る。でも敢えて身体はこのままで行くよ。どのくらい時間がかかるかわからないから……此方と向こうは時間の進みも違うし……」
「だから、なんでアレスが……?」
「助けたいんだよね?」
「え?」
「フェルを助けてって……この世界を助けたいんだよね?」
「私が言ったから? でもアレスが危ない目に遭うのはイヤ!」
「君が言ったからだけって訳じゃないよ。君とこれから一緒に生きていく世界のためだよ。どうにかこの世界をこのまま救えないか色々な可能性にかけたいんだ。つまり……俺と君の未来の為に行くんだ……だから待っていてほしい」
アレスがそっと私を抱き締める。
「だからゴメン、また……しばらくお別れだ」
なんだ、せっかくラブラブ時間と思ったらそういう事だったのか。
私がガックリしたのがわかったのかアレスの腕に力が込められ更に抱き締められる。
ちょっと涙がでた。
いつになったらアレスとずっと一緒にいられるんだろう。
この世界に平和なんてくるのだろうか……




